SNS(交流サイト)への投稿がフォロワーに大きな影響を与えるインフルエンサー。最近はインフルエンサーに自社の製品・ブランドについて投稿してもらうインフルエンサーマーケティングが盛んだ。日経クロストレンドで紹介したインフルエンサーマーケティングに関する記事をピックアップ。成功事例や各企業の動き、今後の問題点など最新動向をまとめた。

インフルエンサーマーケティングとは

 インフルエンサーマーケティングと言えば、よく知られている手法がユーチューブで人気の高いユーチューバーを起用した「ユーチューバータイアップ広告」だ。企業が自社商品やブランドの宣伝のためにユーチューバーに動画の制作を依頼するもので、2015年から日本でも急速に伸び始めた。当初はファッションやコスメが多かったが、最近は旅行や料理などに特化した人気者も生まれ、広告主にとって依頼しやすい状況になっている。

 実際、人気インフルエンサーはどのくらいの情報の拡散力を持っているのだろうか。19年の「SNSパワー」ランキング(日経エンタチエンメント!)では、タレントよりもインフルエンサーが上位に並ぶ結果となった。

 例えばユーチューブのチャンネル登録者数を調査したところ、1位は838万人のはじめしゃちょー、2位には800万人のHIKAKINが続いた(20年3月時点)。この数字はインスタグラム1位渡辺直美、ツイッター1位の有吉弘行といったタレントとほぼ同レベル。その人気の高さが分かるだろう。

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【成功事例】アンバサダー導入でファンを育成

 一部のインフルエンサーの影響力が人気タレント並みになってきたことで、インフルエンサーマーケティングで高いリーチ(広告の到達率)を確保することは難しいことではなくなっている。その一方で、一時的に話題になって商品が売れたとしても、その場限りではたいした効果ないと考えるクライアント企業も増えてきた。

 そこでリーチは低くても、消費者に共感をもたらすことで、商品の顧客やファンを育成する動きが最近活発になっている。商品を繰り返し購入してくれたり、SNSなどで積極的に情報を流してくれる顧客やファンの育成は、マーケティング用語でいうところのLTV(Life Time Value)を高めるプロモーションといえる。

 インフルエンサーを活用したファン育成では、「アンバサダー制度」を導入する企業が増えている。アンバサダーとは、クライアント企業から見ると「自社商品の広告塔」となる人のこと。実際に商品を使っているインフルエンサーをアンバサダーに起用する。有名インフルエンサーのようにフォロワー数がそれほど多くないインフルエンサーを起用しても広告的に成功を収めるケースが増えているという。

 成功の理由の一つは、情報源としての「信頼度の高さ」にある。マスメディアの広報・広告は企業などの送り手に有利な情報として消費者に捉えられてしまうこともある。しかし、インフルエンサーが発信する情報は、あくまでインフルエンサーの体験事例であるため、個人的であっても商品に対する純粋な感想や評価として受け取られやすい。また、実はアンバサダーとなるようなフォロワー数がそこそこのインフルエンサーには、顔見知りのフォロワーが多く、情報が浸透しやすいというメリットもある。

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【成功事例】参加型の企画で盛り上げる

 商品のファンをインフルエンサーに起用するという意味では前述のアンバサダーの活用に似ているが、これに「消費者参加型のキャンペーン」を組み合わせたマーケティング活動を行ったのがサッポロビールだ。インフルエンサーのフォロワーだけでなく、さらに広い範囲の消費者を巻き込むことに成功した。

 キャンペーンの内容は以下の通りだ。

 まず複数のインフルエンサーを起用して、インスタグラムに黒ラベルに関する投稿を上げてもらう。その中から、黒ラベルのブランドイメージをよく伝えている投稿を選んでネット広告のコンテンツや、キャンペーン専用LP(ランディングページ)のコンテンツに2次利用する。そうして広告やLPを見た消費者は、キャンペーン実施期間中に、「#大人に乾杯」というハッシュタグをつけて「大人に乾杯」にふさわしい画像をインスタグラム上に投稿する。これでキャンペーンに参加したことになり、うち50人に景品が当たるというものだ。

 このキャンペーンが成功したのは「インフルエンサーの投稿のレベルが高く、それによって一般ユーザーの投稿のレベルも上がり、黒ラベルのブランドイメージを、狙い通りの『大人に乾杯』に持っていくことができたから」という。キャンペーンのLPを訪れた消費者の平均滞在時間は、従来の2倍の約40秒に達し、新規の見込み顧客がLPを訪れたこともデータから確認できたという。

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社内インフルエンサー「中の人」も増加

 ここまでの説明でお分りの通り、消費者を商品・ブランドの顧客化、ファン化させるためには、実際に商品やブランドを使っている人をインフルエンサーに起用するのがキモだ。そういう意味では、商品・ブランドの作り手側も「社内インフルンサー」として活躍できる可能性がある。

 実際、近年は「中の人」と呼ばれる「社内インフルエンサー」が増えている。社内の人なので、商品が開発されるに至った経緯やブランドの世界観をきちんと理解して発信できる強みを持っている。「半分会社、半分個人」という立場でうまくコミュニケーションをとる「中の人」が多数おり、ツイッター上をにぎわせている。

 自身もインフルエンサーとして活躍する“ゆうこす”こと菅本裕子氏は、自社の商品・ブランドについての「濃い情報をポップに発信できるのは社員しかいない」と断言している。ただ、「実際に発信していくのは大変な作業だ」とも語っており、24時間365日カスタマーセンターをするのと同じで、社内インフルエンサーを育てるなら、会社の中でもしっかり守る必要があると話す。

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インフルエンサーを組織化する動きが活発

 インフルエンサーが活躍の場を広げる中で、インフルエンサーを組織化したり、育成したりする企業も増えている。既存のPR会社にも、クライアントの企業の要望に応じてインフルエンサーを紹介してくれるものも多くある。

 企業によるインフルエンサーの組織化として面白いのが女性向け雑誌「OZmagazine」を発行するスターツ出版の事例だ。同社は読者などから募ったインフルエンサー500人を組織化し、19年5月30日からマーケティング支援サービスとして提供を始めた。

 インフルエンサーはスターツ出版が獲得した広告主の案件に応じて、リポーターとして店舗やイベントに参加し、自身のSNSのアカウントで撮影した写真などを投稿する。投稿する際、OZmallのリポーターとして参加していることなどの記載を条件にすることで、閲覧者にステルスマーケティングと誤認されることを防いでいる。投稿された写真や動画は、スターツ出版の編集力を生かしてリポート記事に活用する。

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インフルエンサーを超える「芸能人2.0」とは

 インフルエンサーの育成事例として紹介したいのが、大手芸能事務所ホリプロ子会社、ホリプロデジタルエンターテインメントだ。目指すは発信力とスキルを兼ね備えた「芸能人2.0」の養成という。

 ホリプロデジタルは、ホリプロが長年培ってきたマネジメントのノウハウをベースにしながら、タレントが自己プロデュースによってウェブ上での活躍の場を拡大し、リアルな世界でもその価値を活用したサービスを提供していく。この結果、SNSでの影響力を持たなかったタレントたちが、同社のノウハウによってSNSのフォロワーを飛躍的に伸ばしている。今や全タレントが、何かしらのSNSで万単位のフォロワーを持つに至っているという。

 スキルを自分で作って発信できるのが「芸能人2.0」。今後はホリプロ本体のタレントと同じように、演技レッスンなどを受けさせ、より視聴者に届く構成や話し方、視聴者のリアクションに対する演技などを身に付けさせ、すべてを一級品にすることを目指している。

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今後の課題は「ステマ」

 インフルエンサーマーケティングは、インフルエンサーの体験にフォロワーが共感し、さらにそのフォロワーが…と、共感が連鎖する。これが既存のマーケティングとは異なるインフルエンサーマーケティングの本質的な強みだ。このためフォロワーたちの感動が可視化されるとビジネスに良い影響が出るが、怒りが可視化されると炎上が起きる。

 炎上でいつも問題になるのがステルスマーケティング(ステマ)だ。例えば19年暮れ、映画「アナと雪の女王2」を巡ってステマ騒動が持ち上がった。ウォルト・ディズニー・ジャパンと、ステマに加担する形になった漫画家は謝罪したが、業界として再発防止の取り組みは不透明さが残る。

 ステマと一口に言っても、意図的に記載を外すように指示する筋の悪いものから単に連絡不徹底だったものまで、内容・手口やレベル感に差異はある。しかしながら「ステマの定義は困難」といって向き合うことを避ければ、やがて行政の介入を招くことになるだろう。各団体は横の連携を強めて、有事に対処するプロセスを構築しなければならない。

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