サブスクリプションを導入するには
●サブスクリプションを導入しやすい企業とは
サブスクリプションでは継続収益の観点から「課金システム」ばかり注目されがちである。しかし本質を定義するなら、「ユーザーと企業の相思相愛関係を契約書で表す」となる。つまりサブスクリプションが成功するか否かは、企業がユーザーと「つながり」を維持できるかどうかにかかっている。
よって現時点でユーザーとのつながりを維持できているか、少なくとも維持する努力を続けている企業は、サブスクリプションへの移行が比較的容易と考えられる。
たとえば百貨店の外商のように、顧客に対して手厚いサービスを行い信頼関係が結べているビジネスに関しては、すぐにサブスクリプションに移行できる。ただし、そのような企業が移行するメリットがあるかどうかは、別の話となる。
●サブスクリプションに向いていない企業とは
ユーザーと「一期一会の関係をよし」とする店舗や企業がサブスクリプションへ移行しても、決してうまくいかない。ユーザーとのつながりにコストをかけようとしない企業、商品やサービスを売った後の要望やクレームへの対応をコストだと考える企業の場合、成功は全く見込めない。
逆にヘビーユーザー(常連顧客)が多い企業の場合、現状のままでも十分な利益があり、継続性も高いため、サブスクリプションに移行してもあまりメリットはない。むしろ利益回収の期間が長期化するデメリットのみになるため、導入しないほうが賢明と言える。
サブスクリプションで自社を診断
サブスクリプションが浸透した現代では、ユーザーが一方的にエンゲージメントを持つのではなく、企業の側からも寄り添う「相思相愛」のビジネスを目指さなければならない。サブスクリプションを導入した結果、ビジネスが成功するかどうかは、その企業が販売後も続くユーザーとの「つながり」を大切にしているかどうかにかかっている。
裏を返せば、企業がサブスクリプションの導入を具体的かつ緻密にシミュレーションして、その成否を検証することは、現在、自社がユーザーとどれくらいつながりを持てているか、どれほど寄り添えているかについて、確かめる機会にもなる。
ユーザーの意識が新しいステージへと移行しつつある現在、サブスクリプションの導入により「ユーザー有利のビジネス」の仮想トレーニングを積むことは、どのような企業にとっても、決して無駄ではないだろう。
サブスクリプションがもたらす未来
サブスクリプションのサービスが広がれば広がるほど、企業にとってユーザーとの関係を長期的に維持することが非常に重要になる。サブスクリプションでは契約した瞬間から、ユーザーとの関係が始まる。ユーザーは契約を続けたくなければいつでもやめられる。そうなれば企業は収益を失ってしまうため、継続して利用してもらえるよう、ユーザーにしっかり寄り添う努力が不可欠となる。
たとえば、ネットフリックスが会員に寄り添う努力の1つとして「リコメンド機能への注力」が挙げられる。同社は会員の毎回の視聴履歴をデータとして蓄積し、ビッグデータとAI(人工知能)を活用することで、世界中の会員の視聴傾向と照合。その結果を基に、会員が興味を持ちそうな作品をピンポイントで推奨する。視聴回数が増えれば増えるほど推奨精度は上がるため、会員の満足度は向上し、契約継続につながる。
ユーザーと長期的な関係を築くには、そのサービスを利用したことでユーザーの利便性が高まるだけにとどまらず、その結果によって良い変化がもたらされる必要がある。そのためにもこれからのサブスクリプションでは、本当に求められているものを、継続的に蓄積した情報の中から見出し、常にサービスを修正し、半歩先んじてユーザーの望みの実現方法を提案し続けなければならないだろう。
解説・監修
(写真/酒井 康治)