チャットボットのメリットとデメリット

 ルール・パターン型と機械学習型には、それぞれメリットとデメリットがある。

(1)ルール・パターン型

  • メリット
    基本的にはシステム側の考え方に基づいて話すことが前提になるので、想定された範囲内に対しては、正しく対話できることが保証されている。
  • デメリット
    会話の多様性を高めるためにはさまざまなルールを作る必要があるため、開発コストをかけてルールの幅を増やさないと、応答のパターンが次第に限られてしまう。

(2)機械学習型

  • メリット
    大量のデータから「発話が生成されるプロセス」を自動的に学習するので、ルール・パターン型に比べて、発話のバリエーションが多様になる。特別なルールやパターンを持たない雑談型の対話でも、ユーザーの興味を引く対話が可能となる。
  • デメリット
    リアルタイムに対話のシーケンスのデータから学習する場合、意図的に悪意ある対話データを与えられ続けると、差別的だったり、あるいは反社会的な発言しかできなくなったりするリスクもある。そのためデータ収集にフィルタリングをかけるなど、訓練データの適切なクレンジングが必要となる。

チャットボットの歴史と事例

 「人と対話する(ように見える)システム」が最初に登場したのは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウム(Joseph Weizenbaum 1923~2008)が1960年代半ばに書いたパターン・ルール型の自然言語処理プログラム「ELIZA(イライザ)」とされる。音声ではなく、スクリプトで対話した。

 例えば、ユーザーが「I am x(変数)」と打ち込むと、「How long have you been x(変数)?」と応答するパターン・マッチの手法で、非常に大量のパターンを前もって準備し、発話側のスクリプトにパターンがマッチしたら応対するというシンプルな仕組みだった。精神医療の現場で使用されたことにより、話題が特定の領域に限定されたため、結果的にやりとりの精度が高まり、対話したELIZAを人間(カウンセラー)だと錯覚する患者も多数出た。

 1997年、マイクロソフトのOffice 97のExcelに「カイル」という名のイルカが登場。カイルはユーザーとテキストベースで簡単なやりとりをしたが、正式にチャットボットと言えるかどうかは、議論の分かれるところである。

 2011年、アップルが発売したスマートフォン「iPhone 4S」に搭載された「Siri」を、人間が発した音声に対して回答する“最初のチャットボット”とする考え方もある。SiriはiPhone上のアプリとも連携でき、「明日のスケジュールを教えて?」と入力すれば、カレンダーアプリに記録されている予定を音声とテキストで返すことができた。

 同じ年、当時のパターン・ルール型の技術の頂点とも言える「IBM Watson」が発表された。そこからチャットボットの技術は急速に進み、近年のブームに至る。

 2014年に「Microsoft Cortana」、2015年に「りんな」が次々と登場。2016年には米マイクロソフト、Facebook、Googleの各社がイベントにおいて、チャットボットに対するサービスや製品を発表した。

 2017年、Amazon(Amazon Echo)、Google(Google Home)などがAIアシスタント機能を備えたスマートスピーカーの販売を開始。ユーザーの音声入力に対して、さまざまなアプリケーションやハードと連携してアウトプットする仕組みは、チャットボットを介している。

 このスマートスピーカーが広く普及・認知されたことで、チャットボットはビジネスの枠を超え、人々の暮らしを便利にする基本技術の1つとなりつつある。

チャットボット導入の成功事例

  • 横浜市資源循環局ホームページ「イーオのごみ分別案内」
    横浜市の資源循環局では、ゴミ出しについてのよくある問い合わせをホームページ上のチャットボットで対応。ユーザーの問い合わせに自動返答することで、人間が電話で対応する業務量やコストを削減した。

  • ヤマト運輸
    LINEとクロネコメンバーズを連携すると、LINEのトーク上のチャットボットとのやりとりによって、配達状況を確認したり、料金を尋ねたり、受け取り日時を変更することもできる。

チャットボットはなぜブームなのか、その背景

 チャットボットが注目を浴び、多くの場面で使われるようになった背景には、クラウド技術の発達で大量のデータを収集・解析できるようになったことが大きい。それにともない、機械学習の能力向上が図られ、優れたAIを比較的安価に利用できるようになり、能力の高いチャットボットの開発コストも抑制できるようになった。

 チャットボットの用途は、ビジネス以外にも広がりを見せている。日本では急速に進む高齢化への有効な技術として注目されている。AIスピーカーに代表されるチャットボットを独り暮らしの高齢者に利用してもらい、会話の機会を少しでも増やすことで、認知機能の活性化やメンタル面でのサポートにつなげる研究も積極的に進められている。

 また「チャット」の枠組みを超えた研究も進められている。現在、ソフトバンクの「Pepper(ペッパー)」、富士ソフトの「 PALRO(パルロ)」、シャープの「RoBoHoN(ロボホン)」など、人型コミュニケーションロボットの研究・開発が積極的に進められている。バーチャルの世界で「初音ミク」に代表されるアバターが豊かな表情を見せるように、これらのロボットが表情のバリエーションを持ったり、声に感情をのせたりすることができるようになれば、人間にとってより親和的な会話(チャット)が可能となる。その結果、上記の高齢者対策に代表される福祉対策の他、さまざまなビジネスシーンでも、よりチャットボットの活躍の場が広がり、重要性が増すと考えられる。

チャットボットの未来像:マーケティングの進化を促す

 例えばEC(電子商取引)のコールセンターのオペレーターが人間の場合、問い合わせてきた相手に根掘り葉掘り話を聞くわけにはいかない。そのため、相手の目的にかなった内容以外の個人的な情報を入手することは難しい。しかし、チャットボットが相手と長くやりとりできるようになれば、“機械と話す気安さ”から警戒心を解いた相手との会話の中から、サービスに有益な周辺情報の収集が期待できる。

 例えば近い将来、相手の話し方からある地方の出身者だと分かれば、チャットボットもその地方の方言で話すなど、相手にきめ細かく対応したやりとりも可能になるといわれている。そうなれば、チャットボットはますます相手となる人間に親近感を与え、より深い情報の収集も可能になるかもしれない。

チャットボットの導入費用について

 企業が自社のサービスにチャットボットを導入する際の費用は、基本的に「どれくらいのことをチャットボットにさせようとするか」によって大きく変動する。ユーザーなど相手と対話する範囲を限定すればするほど、システムは小さくて済むので、コストも下がる。限られた数の商品に関する問い合わせだけなら、大きなシステムにはならないのでコストは抑えられる。

 一方、多くの商品についてさまざまな問い合わせに対応できるようにしたり、商品以外の多種多様なことにも対応できるようにしたりしたいのなら、相当な規模のシステムが必要となり、コストも膨大になる。「チャットボットにどれくらいのことをさせるか」が、導入費用の増減に大きく影響する。

解説・監修

チャットボットとは何か、なぜブームか 「AIとの会話」で深いユーザー情報が収集可能に(画像)
奥村 学(おくむら・まなぶ)氏
東京工業大学
科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 教授
1984年、東京工業大学工学部情報工学科卒業。1989年、同大学院博士後期課程修了(情報工学専攻)、工学博士。1992年に北陸先端科学技術大学院大学助教授。2000年に東京工業大学助教授、2007年に東京工業大学准教授を歴任し、2009年、東京工業大学教授となる。現在は同大学科学技術創成研究院教授として、自然言語処理、知的情報提示技術、語学学習支援、テキスト評価分析、テキストマイニングに関する研究に従事。

(写真/酒井康治)