職人御用達のイメージが強かったワークマンが、時代の先端に躍り出た。2018年9月、一般向けの新業態「ワークマンプラス」の出店を開始。プロ品質のカジュアルウエアが激安価格で並び、ワークマンから縁遠かった消費者が飛びついた。他社がまねできない安さは、綿密な計算の上に成り立っている。

日経トレンディ「2019年ヒット商品ベスト30」1位に「ワークマン」が選ばれた。「ポストユニクロ」との評価も高い同社の強さの秘密に迫った特集記事を紹介する。(2019年11月1日追記)
「1円でも安く」を追い求め、ワークマンは素材や製法ごとに委託工場を分けて量産している。写真は中国の縫製工場
「1円でも安く」を追い求め、ワークマンは素材や製法ごとに委託工場を分けて量産している。写真は中国の縫製工場

 知られざるベストセラーがある。ワークマンの商品カタログだ。発行部数は約40万部。春夏と秋冬で商品を入れ替えるため、年間80万部を発行している。

 このカタログはインターネット上でも公開しており、「ネットではそれ以上の方が見ている。しかも全100ページ程のうち8割のページが読まれている」。こう語るのは、ワークマンの土屋哲雄常務だ。カタログがここまで熱心に読み込まれている企業は、日本広しといえどもそうそうないだろう。

 例えば、発行されたばかりの春夏向けの最新カタログを開いてみる。「遮熱ダブルメッシュ」「放熱冷感」「立体成型」「消臭アニエール加工」など、一般にはなじみが薄い専門用語があちこちに躍る。

 遮熱、冷感、放熱、通気、ストレッチなど、すべての商品に何らかの機能が加えられており、そのどれもが例外なく安い。「ICE ASSIST(アイスアシスト)」と書かれたTシャツは、放熱率89.8%。素早く熱を外に逃がしながら、触るとひんやりする「接触冷感」と呼ぶ機能を盛り込んだ。価格は、499円(税込み・以下同)とワンコインに満たない。

ワークマンの商品カタログにはどのページにも、商品の機能解説がびっしりと書き込まれている。右上が499円の放熱冷感シャツ
ワークマンの商品カタログにはどのページにも、商品の機能解説がびっしりと書き込まれている。右上が499円の放熱冷感シャツ

 土屋氏は「目指すは原価率65%」と公言してはばからない。原価率とは売価に占める製造原価の割合のこと。つまり、原価率が高いほど消費者にとってはお買い得ということになる。65%というのは、アパレル業界ではあり得ないほど高い数字だ。

 「同質な競争をしちゃ駄目だ。消耗戦になって、残業が増えてつまらない世界に入る。うちは、Amazonに定価で勝てる、価格ドットコムで一番になるモノづくりしかしない」(土屋氏)。ダントツに安いが、安かろう悪かろうではない。しっかりと品質や機能性を保証する。それがワークマンの生命線であり、だからこそ、多くの職人に愛されてきた。

まず先に売価を決める「1円、2円のしのぎ合い」

 いったいなぜ、ここまで安くできるのか。それは、現場レベルでローコスト意識が徹底されていることにある。

 「この機能で、この値段でというインパクトをいかに出せるかを常に考えている。まさに、1円、2円のしのぎ合い」。スポーツウエアブランド「Find-Out(ファインドアウト)」の開発を担う北村武士氏(Find-Outブランドマネジャー・チーフデザインオフィサー)は、こともなげに語る。

北村氏は「Find-Out」の立ち上げから参画。デザイン面も手掛けている。仕事着はもちろんFind-Outだ。
北村氏は「Find-Out」の立ち上げから参画。デザイン面も手掛けている。仕事着はもちろんFind-Outだ。

 ワークマンは2000年ごろから、値下げをしない価格戦略を取り入れた。EDLP(Everyday Low Price)だ。「安く仕入れたら安く売るのは当たり前。仮に仕入れ値が高くなっても、その価格で売る。一度決めた売価は絶対に変えない」(北村氏)のだ。

 通常は製造原価を積み上げ、そこに利益を上乗せして売価を決める。しかし、ワークマンの場合は逆だ。まず、この値段で売りたいと売価から決める。そのうえで、どこまでいい機能を詰め込めるかを協力工場と直接交渉して詰めていく。

 工場は中国を主力に、ミャンマー、タイなど東南アジア諸国とバングラデシュに約20カ所ある。工場と直接やり取りするのも、商社やメーカーを間に挟むと、マージン(手数料)が発生するからだ。

 ワークマンは、まず全工場に同じ仕様で見積もり依頼を出す。そして返ってきた価格と、工場ごとの得手不得手を把握したうえで、最も条件がいいところと契約を結ぶ。決して1つの工場に集中させず、素材や製法によって工場を使い分ける分業体制を整えている。そうすることで、全体で「できることの引き出し」を広げているのだ。

 効率を考えると、同じ工場に発注し続けるのが最もいいだろう。しかし、あえて毎年、全工場に見積もり依頼を出すのは訳がある。

 「1回オーダーをもらうと、来年もリピートしてくれるだろうという安心感が(協力工場側に)生まれてしまう」(北村氏)。あえて翌年の契約を保証しないことで、真剣に生産と向き合い、工場そのものが毎年パワーアップする。それに対して増産で報いれば、ウィンウィンの関係が築けるというわけだ。

 全工場から見積もりを取ることで、相場観がつかめる。さらに、一度開発した生地や縫製工程などは、すべて社内に「レシピ」として蓄積していくため、他の協力工場に変えても問題なく生産を続けられるのだという。

糸から開発、自ら素材を発掘

 65%という高い原価率を達成すべく、生地はもちろん、その前段階の糸から工場と二人三脚で試作を重ねる。海外生産とは言っても、なかには米アンダーアーマーの製品を手掛けている工場も含まれており、開発力は高い。

 例えば、先述した接触冷感シャツは独自開発のナイロン糸「DEEP ICE(ディープアイス)」を使っている。通常のTシャツは表も裏もポリエステルで編むのが一般的で、ナイロンはポリエステルよりもむしろ高価だ。しかし、自ら糸を開発し、編み方を工夫することで、通気性を確保しながら熱を逃がす生地をつくり上げ、499円で提供することに成功した。これも「絶対に499円で売る」と決めたから、形にできた代物だ。

 「縫製のやり方を少し変えるだけで、生産効率が上がる。一方、売価との兼ね合いで、無駄な機能は省くこともある」と北村氏は言う。さらに、新たな発見を求めて海外の展示会に足しげく通う。名は通っていないものの品質が高い、そんな知られざる素材を見つけることで、原価を大きく抑えることができるからだ。

 もちろん、他社製品の研究も怠らない。東京・上野の開発拠点にはサンプルルームがあり、海外で調達した有名ブランドの商品がずらりと並ぶ。特に価格で参考にしてきたのが、デカトロンだった。北村氏自身も「中国に行くと、必ずデカトロンの店舗は見てくる」と話す。

 そのデカトロンをベンチマークして生まれた商品が、この春夏で大々的に展開する「冷感リフレクティブ」だ。吸汗速乾、冷感性のある生地「ICE TECH(アイステック)」を開発し、軽量でソフトな質感に仕上げた。肩や背中などに反射材がついており、夜に走り込むナイトランの需要に対応。なおかつ、紫外線を90%以上カットする機能を併せ持ち、半袖で580円、長袖でも780円と破格だ。

 こうした機能性のテストは必ず第三者機関に依頼し、そのお墨付きを得ている。明るい色も含め、多色展開しているため、仮に1色で高い数値が出ても、全色で同じ結果が出ない限り、パンフレットや店頭ではうたわない。テストを通過し、全色で究極の「紫外線99.5%カット」を達成したTシャツが、その名も「肌がさらさらZERO DRY」。1秒で吸水し、素早く蒸発するというアイテムながら、やはり半袖長袖ともに980円と激安だ。

一般向けの新業態はなぜ生まれたのか

 ワークマンは1980年、群馬県伊勢崎市で「職人の店 ワークマン」として誕生した。ショッピングセンターのベイシア、ホームセンターのカインズと共にベイシアグループの一翼を担い、店舗数は19年1月31日現在、全国で832店。これはユニクロの国内店舗数に匹敵する。

 しかし、「職人の店」と最初から対象を限定したこともあり、一般客にはずっと縁遠い存在だった。なぜ、このタイミングで新業態を始めたのか。

 「昔はワーク(業界)しかやらないのが社是だった。とにかく他社と競争したくない会社だから。ただ、ブルーオーシャンだから、ワークしかやらなかったとも言える。また、ブルーオーシャンを作ればいい」(土屋氏)。空白市場に攻め込むべく、戦略的に作り上げたのが「ワークマンプラス」だった。

 実際に商品の品質は毎年2~3割ずつ改善されていたという。「でも、売り上げは3%、4%しか伸びていない。これはたぶん売り方が悪いんだろうと。それがちょうど3年前だった。商品部が悪いんじゃなくて、売る部隊を変えないと。だって、商品は20%、30%(売り上げが)伸びてもおかしくない品質だったから」(土屋氏)。

 一般客に受けないのは、「作業服」「仕事着」という言葉が悪いのではないか。土屋氏はそう考え、ホームページや採用ページから「作業」「仕事」という語句をことごとく削った。スポーツウエアのFind-Outに、アウトドアウエアの「FieldCore(フィールドコア)」、レインスーツの「AEGIS(イージス)」とブランドを分け、スタイリッシュな商品づくりを始めたのもこの頃だった。この3ブランドを中心に、新業態を立ち上げると決めたものの、当初は「WMプラス」という名前で店を出す予定だったという。

100%過小評価していたブランド力

 「ワークマンのブランド価値を見誤っていた。100%過小評価して、私はワークマンという名前を消そうとさえ思った。だからWMプラスにして、ロゴまで作った。しかし、(1号店として選んだ)ららぽーとは『そんなの駄目だ、店名にワークマンを付けなきゃ入れない』とまで言ったんですよ」(土屋氏)。

 ワークマンはプロが使っている。つまり、職人品質である。職人御用達だから、ワークマンを付けることで一段上の品質だと消費者にアピールできるというのが、ららぽーとを展開する三井不動産の見方だった。

 「目からうろこだったよな。まさかワークマンにそんなブランド力があるとは。社員の士気も上がった。プロ品質、作業服、プロの誇り、職人品質、これが受けるんだと」(土屋氏)。

 土屋氏は当初、一般客にブランドを認知してもらうまでは3年かかると考えていた。「アウトドアやスポーツは、既存のブランドが強いから、3年間は赤字の計画を立てていた。でも、日本の消費者の価値観は私が思っていたよりも変わっていた」。

 実際、ワークマンプラスは大当たりした。1号店のららぽーと立川立飛店は、年間売り上げ目標を1億2000万円と見積もっていたが、それをわずか3カ月間で達成。すぐさま、目標を3億円に引き上げた。その後、ららぽーと富士見店も1号店同様、最大2時間の入場制限が発生。路面店の川崎中野島、等々力両店は、開店時の売り上げでららぽーとの両店を上回った。

ワークマンプラスのららぽーと富士見店。開店時には最大2時間の入場制限ができた
ワークマンプラスのららぽーと富士見店。開店時には最大2時間の入場制限ができた

「7割は1ロット」ロングテールが新業態を生む

 ワークマンの強みは1700品目もの豊富な品ぞろえにある。これはニトリとほぼ同数だ。

 「ワークウエアはロングテール。例えば、地上10メートルの高さで作業するための安全靴がある。(こうしたニッチな商品を)買い求める職人がいる以上、品目数を合理的に減らすことはできない。うちは1ロット(しか製造しない商品)が7割。これまではロングテールであることが足を引っ張ってきたが、逆にあるカテゴリーのみを切り出せば、新たな業態を作りやすいことに気づいた」(土屋氏)。

 ワークマンプラスは、まさに全1700品目のうち、一般客向けの300品目余りを抽出して始めた業態だ。だから、既存のワークマンでも、ワークマンプラスの商品は買える。そのことを周知する広告を出すことで、既存店も客数、売上高ともにうなぎのぼりとなった。WMプラスではなく、ワークマンプラスという名で店舗展開したことも間違いなく、既存店にプラスに働いた。

 目指すは「一般客も7割が自分に関係ある商品だと感じる店」(土屋氏)だ。プロ仕様とはいっても、一般客が使えないわけではない。むしろ、プロ仕様だからこそ、丈夫で長持ちする。

 実際に、客足が伸びるとともに、ワークマンも想定していなかった用途で、プロ向けの商品が飛ぶように売れるようになった。その最たるアイテムが、「綿かぶりヤッケ」だ。

 ヤッケとはフード付きの上着のこと。生地は綿100%で火花が飛び移っても燃えにくいため、溶接工が愛用してきた。しかし、これがキャンプにも最適だとインターネット上で拡散。溶接用の手袋も、鍋が持てる、火を起こすのに使えると話題を呼び、品薄状態となった。

 一般客にとって、安くて丈夫なワークマンの商品はまさに“宝の山”だった。しかし、ワークマン側がこれまで、適切な用途を提案できず、潜在客を取りこぼしていたのだ。

 土屋氏は毎日、ヤフーのリアルタイム検索を確認し、「『こんなものにも使える』という用途を見ている。いい意見があったら、すぐにそのまま作っちゃえ」と指示するという。

 実際、バイク用の手袋も、そうした利用者の投稿を基に商品化した。春夏ではライブやスポーツ観戦に使えるスタイリッシュな空調ウエアを5万点量産。女性用のSサイズを37品目で投入し、新店のららぽーと甲子園、ららぽーと湘南平塚の両店では、女性専用の売り場を設けるなど、さらに客層を広げる挑戦に出る。

 ワークマンは今後、どのように店を広げ、業績を伸ばしていくのか。その戦略も実に緻密に計算されている。