フランス人の誰もが1つは持っているブランド──。それが、デカトロンだ。フランス全土に店舗を持ち、街を歩けば、愛用者と出会う。スポーツブランドは数あれど、なぜデカトロンは人々をここまで魅了し、暮らしに根付いたのか。現地の人々の声を通じ、比類なきブランド力の源泉を探った。
世の中に存在するスポーツを網羅する勢いで、デカトロンの商品は増え続けている。その影響力の強さを、まざまざと感じさせる出来事があった。
2019年2月26日(現地時間)。デカトロンは、ランニング用のヒジャブ(イスラム教徒の女性が頭を隠す布)の発売をフランスで取りやめると発表した。モロッコ人女性からの要望でつくり上げた商品だ。
「世界中の女性がスポーツを楽しめるように」というデカトロンらしい思いで発売を計画したが、フランス国内では、これが政治家を巻き込んだ大論争に発展した。
一部の議員がデカトロン製品のボイコットを呼びかけ、デカトロンには「女性の自由を制限する」といった苦情のメールや電話が500件以上も寄せられた。
デカトロン側にも言い分はある。「販売の自由を制限するのか。この国は自由な国ではないのか」と主張したものの、結果として販売を断念した。さまざまな“暴力的”な批判が後を絶たなかったことからの、デカトロン自らの決断という。
「フランス一働きがいのある会社」
デカトロンはフランス国内に310店あり、マドレーヌ、テルヌ、サンジェルマンなどパリの中心部にも旗艦店を持つ。ちなみに、大手スーパーのカルフールですら、パリの中心部に大型店はない。
しかも、デカトロンは国内の並み居る企業を差し置いて17年から2年連続で「Great Place to Work(働きがいのある会社)」の1位に輝いている。国民的なブランドだからこそ、世論を二分する論争が巻き起こったと言えるだろう。
デカトロンの商品は激安ながら、確かな品質を備えている。それが支持されているのは間違いない。例えば、サーフィン用のビキニは、女性サーファーが100回以上波に乗って使用感をテスト。3ユーロながら使い心地がいいと評判を呼び、ワンピースよりビキニ着用者が圧倒的に多い欧州で市民権を得た。
3ユーロのバックパックもパリの街ではよく見かける。10年保証と使い捨てではないことを示し、ヒットした。しかし、こうも思う。なぜ人々はデカトロンばかりを買うのか。その答えを探るべく、フランス本国で愛用者を探した。
「困ったときのデカトロン」
「何でもそろっているので“困った時のデカトロン”です」。パリ郊外のヌイイ=シュル=セーヌに住む弁理士の竹下敦也さん、純子さん夫妻はこう言って笑った。フランスに来て10年。ほぼ季節の変わり目ごとにデカトロンへ出向き、1回につき30~50ユーロの買い物をするという。
敦也さんは週3回のランニングが日課。18年にはパリマラソンに参加し、完走メダルも獲得した。「愛用しているのはランニング用のベルト。2つ目のポケットも付けられて実用的。長距離を走るのに便利で、毎回着けて走りもう2年目になる」と口にする。
子供用のキックスケーターは、購入してはや8年になる。「ブレーキのメンテナンスで時々店舗に行くが、その時の対応も気持ちよく、しっかり直してくれる」と純子さん。
もちろん、デカトロン以外にも候補はある。パリに多く店を構えるスポーツ用品チェーン「Go Sport(ゴースポール)」だ。純子さんは、デカトロンで自分のサイズ(Sサイズ)が見つからない場合、ウエアはアディダスを、シューズはアシックスを選ぶことが多いという。
しかし、やはり一目置くのはデカトロンだ。9歳、6歳、2歳と3人の息子を抱えるため、「シンプルなのに機能的。費用対効果が高く、家族が多いため助かる」と喜ぶ。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー