パッションがイノベーションを生む

 「パッション」とは情熱であり、時代の先を行くイノベーションを生み出す熱意を指す。例えば、2005年に発売し、ケシュアの代名詞となったポップアップテント「2 SECONDS(ツーセカンズ)」シリーズは、バックルを外すだけで展開し、“最短2秒”で立ち上がるのが売りだ。ポールを組み立てる手間と労力をなくし、折り畳んで撤収する作業をも手軽に変えた。

 シュノーケリングを劇的にラクにしたのが「EasyBreath(イージーブレス)」。180度視界が開けるくもり止めレンズを、顔全体に装着する“フルフェイスマスク”だ。水の浸入を防ぐ逆止弁が付いており、自然な鼻呼吸ができる。水中でスティックをくわえるという煩わしさから解放した。

 デカトロンは毎年、「イノベーションアワード」という社内コンテストを開き、全パッションブランドの新作から、特に快適性、機能性に優れたアイテム3点をえりすぐって表彰している。ツーセカンズやイージーブレスもこのアワードを勝ち抜き、「イノベーション」の称号を獲得した。新しい挑戦をたたえる企業風土がある。

(左から)ケシュアのポップアップテント、オクセロのキックスケーター、スベアのイージーブレス。ブランドごとにヒット商品を抱える
(左から)ケシュアのポップアップテント、オクセロのキックスケーター、スベアのイージーブレス。ブランドごとにヒット商品を抱える

 デカトロンを前へと突き動かすスローガンがある。それは「Make Sports Accessible For The Many.(多くの人々にスポーツを)」。飽くなきスポーツへの探求心がこうした画期的なアイデアを生み、カバーするスポーツはいつしか80種類を超えた。

 特筆すべきは、社員自らがスポーツの愛好家であり、消費者と同じように自らの体を動かして試しながら商品を開発していることにある。新商品を決めるセレクションも、会議のように格式張っておらず、スポーツを楽しむことから始まる。さらに、パッションブランドごとに、愛好家が多く集う場所に開発本社を構えることで、利用者の意見をすぐに吸い上げられるようにした。

 ケシュアは、アルプス山脈の麓にある仏サランシュに「マウンテンストア」と呼ばれる店舗併設の研究開発センターを構え、約150人のスタッフが在籍。トリボードやスベアは、セーリングやサーフィンのメッカとして知られる仏バスク地方の港町アンダイエに本拠地がある。海や山そのものをフィールドにすることで、利用者の要望に応えやすく、新たなアイデアや改善点もくっきりと浮かび上がる。

 例えば、サングラス1つをとっても、レンズは強靭なプラスチックであるポリカーボネートを採用し、100キロの耐衝撃実験や、100%のUVカットテストを繰り返している。地道に改良を重ね、機能性を高めているのだ。製品開発のプロセスは全社で一元管理しており、材料を大量に仕入れ、縫製や製法を見直すことでコストダウンを図っている。さらに、広告宣伝費を使わず、過剰包装をやめ、研究開発からデザイン、製造、物流、販売、アフターサービスまでを世界規模で最適化することで、安く流通できる態勢を整えた。

 例えば、ケシュアのバックパック(10リットル)は10年間の耐久性を保証しながら、わずか300円台(税込み、以下同)で手に入る。1時間当たり200ミリの豪雨に耐えられるという遮熱・遮光性のテントも3000円台からと値ごろだ。安価かつ高機能で、品ぞろえも豊富という三拍子そろった「高コスパブランド」として根強いファンを獲得し、デカトロンは拡大路線をひた走る。

 1994年にはリール本社に「キャンパス」と呼ばれる巨大なストアを開設。2001年にはブラジルのサンパウロに進出し南米に上陸した。03年には中国・上海に店を構え、アジアに拠点を広げた。15年にはタイのバンコク、16年にはシンガポールとフィリピン、18年9月には韓国に1号店を出し、アジア展開を加速中。今や、売り上げの3分の2をフランス国外で稼ぎ、全世界で約10万人の従業員を雇うグローバル企業となった。

日本法人は1993年に設立

 ようやく1号店を構える日本はアジアでも最後発に近いように見えるが、実は日本法人の「デカトロンジャパン」は1993年に設立されている。しかし、当初は工場へ卸す資材調達がメインで、自社ブランドの本格展開には時間がかかった。

 フィッシングやアウトドアのネット通販を手掛けていたナチュラム(大阪市中央区)と2011年に業務提携して流通の足場を築き、15年にオンラインストアを開設。17年に大阪市内に「デカトロンラボ」という名のショールームを開業するなど、少しずつ準備を進めてきた。一気に日本へ攻め込み、撤退した仏の大型スーパー「カルフール」とは対照的である。デカトロンは中国をはじめアジア諸国で、大型から小型まで多彩な規模の店舗をドミナント展開しており、アジア市場に合ったサイズや商品展開を熟知している。

 日本1号店となる西宮店は約1800平方メートルの広さ。同社の旗艦店のように、80ジャンル以上の多様な商品を取りそろえる、とまではいかないが、キャンプやハイキング、ランニング、サイクリングなど、30ジャンル以上の自社商品を展開する。店内にはヨガやフィットネスの体験ゾーンや、シュノーケリングマスクの体験コーナーを設け、スポーツイベントやワークショップを定期的に開催する。商業施設内という立地を生かし、家族で楽しめる仕掛けを随所に設ける。

 3年間のオンライン販売を経て、実店舗を構えるという動きは、シンガポールの場合と全く同じであり、西宮の盛り上がり次第では、すぐに多店舗展開に舵(かじ)を切るのは間違いない。

日仏の両雄が「空白市場」で激突

 そのデカトロンを「唯一の競合先」とみるのが、作業服メーカーとして知られる日本のワークマン。激安かつ高機能なカジュアルウエアを扱う新業態「ワークマンプラス」の1号店を18年9月、東京・立川に出店し、最大2時間待ちの入場制限がかかる好スタートを切った。新業態効果で19年3月期の業績は大幅に上振れし、2月下旬から株価は10連騰。上場来高値を更新した。市場の期待を背に、3月から早くも大量出店に突入した。

 デカトロン進出に先立つ3月21日には、西宮市の「ららぽーと甲子園」にワークマンプラスを開業する。デカトロンが店を構える阪急西宮ガーデンズとは直線距離にして3キロの場所だ。ワークマンの路面店である大阪水無瀬店(大阪府島本町)も同日、ワークマンプラスに改装オープン。さらに、関西地区にある100店余りのワークマン既存店もワークマンプラスに近づけるリニューアルを施し、「数の優位で『西宮戦争』を制する」(ワークマン)と並々ならぬ決意で巨人と向き合う。

アパレルブランド勢力図
アパレルブランド勢力図
日本のアパレル市場では、高い機能性と価格の安さを兼ね備える主要プレイヤーが不在だったという

 ワークマンは、日本のアパレル業界における低価格×高機能ウエアの潜在市場規模を4000億円とはじき出した。ユニクロを筆頭に、安くデザイン性に優れたファストファッションは激戦区だが、実は、低価格ながら機能性を強く打ち出したブランドはすっぽりと抜け落ちていた、というのだ。この「空白市場」をデカトロンと共に取っていく考えだ。では、デカトロンの実力はいかほどなのか。次回は、創業の地フランスのユーザーの声を通して、そのポテンシャルをさらに深掘りしたい。