国内で店舗のデジタル化をけん引する小売企業のトップランナー、トライアルが導入を推し進めている「スマートレジカート」。その理由は省人化だけでなく、売り上げアップやプロモーションメディアとしての活用にあった。
天井にある約700台のAI(人工知能)カメラで買い物客や店頭の商品の動きを把握、買い物客はセルフレジ機能付きの買い物カートを使って素早く会計――。国内で店舗のデジタル化をけん引する小売企業のトップランナーといえば、九州を地盤にディスカウントストアを展開するトライアルグループ(福岡市)だ。
そのグループCIO(最高情報責任者)としてデジタル化を指揮するトライアルホールディングスの西川晋二副会長は、店舗の省人化に最も効果的なのは「レジ周り」だと言う。「小売りはレジ周りと商品補充に最も多くの人手が掛かっているが、商品補充の人員を簡単に減らすことはできない。そうなるとレジの人員ということになるが、減らすだけだとお客様に不便を強いてしまい、不満足の要因になる。そこで、『レジに並ばなくて済む』『お得』といったお客様にとってのメリットを提供することで折り合いがつくようにする」。
そのレジ周りの施策として同社が推し進めているのが、自社で開発を主導する「スマートレジカート」の導入だ。買い物客は商品のバーコードをスキャンしてからカートに入れ、決済は入店時にカートに読み込ませたプリペイドカードで行うため、会計時に商品のバーコードを読み取ったり、現金やカードを出したりする必要がない。店舗はレジ人員を削減でき、買い物客は会計がスムーズにできるメリットを享受できるわけだ。スマートレジカートの利用率は店舗によってまちまちだが、最も高いアイランドシティ店で4割強だという。
日本のスーパーではレジの省人化策としてまずセルフレジの導入が進んだものの、買い物客が商品のスキャンに慣れていなかったり、商品点数が多かったりすると時間が掛かることから、商品スキャンは店舗スタッフが行い、支払いのみセルフで行う「セミセルフレジ」が普及している。会計をスピーディーに行う手段として2025年をターゲットに経産省が導入を進めている電子タグ(RFID)もあるが、タグのコストやソースタギング(メーカーが商品に電子タグを付けること)の問題がある。そんな中、商品スキャンを買い物客が買い物中に行うことで会計の時短と完全セルフ化の両方を実現しようとしているのがスマートレジカートなのだ。
だが、レジ周りの人員を減らす最終形には至っていない。買い物客のスキャン忘れを防ぐため、現状は会計後にスキャンした商品とカートの中身を店員が確認している。ただ、全ての買い物客に対して行っているわけではない。「さまざまなロジックを使い、何度も利用されて問題なく通過しているお客様に対してはノーチェックにするなど、なるべくストレスにならないように改善している。最終的にはチェック無しで帰っていただける形にしたい。スキャン忘れは割合的にはわずかだが、ゼロを目指して取り組んでいる」(西川副会長)。
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