日本のユニバーサルデザイン(UD)をリードしてきたパナソニックが、これまで培ってきたUDのノウハウに最新のITを組み合わせて、歩行トレーニングロボットを開発した。これまでにない機能やデザインが話題になり、引き合いが増えている。2018年10月から一部の介護施設で運用を開始した。

パナソニックの歩行トレーニングロボット。トレーニングジムにあるトレーニング機器のようなスポーティーなデザインに仕上げた。同ロボットを月額料金5万円(税別)で提供する予定(写真提供/公益財団法人日本デザイン振興会)
パナソニックの歩行トレーニングロボット。トレーニングジムにあるトレーニング機器のようなスポーティーなデザインに仕上げた。同ロボットを月額料金5万円(税別)で提供する予定(写真提供/公益財団法人日本デザイン振興会)

 このロボットは、主に介護施設で高齢者が歩行訓練に使用することを想定したもの。本体に搭載したセンサーにより、ハンドルを押す力や体の傾きなどをデータ化。そのデータをAI(人工知能)がリアルタイムに解析し、それぞれのユーザーに最適な負荷をかける機能を備える。

 負荷は後輪に内蔵した小型モーターによって調節する。ハンドル内に設置したモニター画面から負荷を設定することも可能だ。歩く速度や距離、体の傾きなどの情報は画面に表示する。これらのデータはクラウド上に自動保存する。

ハンドルとモニター画面。画面には歩行状況をグラフ表示している
ハンドルとモニター画面。画面には歩行状況をグラフ表示している
ロボットを押すときの重さ(負荷)を5段階で設定できる
ロボットを押すときの重さ(負荷)を5段階で設定できる

スポーティーな外観で格好よく

 AIやセンシングなど先端技術を搭載したからといって、ユーザーが使ってくれるとは限らない。使いたい気持ちにさせるデザインの工夫が欠かせない。

 「開発段階のロボットは歩行器らしい武骨なスタイルで不評だった」(パナソニックのビジネスイノベーション本部AIソリューションセンター主幹技師の山田和範氏)。商品化に向けたスタイリングや使いやすさの改善は、パナソニックのコネクティッドソリューションズ社デザインセンタープロダクトデザイン部部長の松本宏之氏が担当した。

 松本氏は、「高齢者でも格好よくなければ使ってくれない。本体の骨格からすべてを見直して、ユーザーが操ってみたくなるデザインを目指した」と語る。特に重視したのが、「存在感を消すこと」だった。本体サイズは、幅600mm、高さ1200mm、奥行き600mmと大きく、施設内ではかなり目立つからだ。そのため、本体は白を基調としたスリムな外観を採用した一方、ハンドルはアクセントとなるオレンジにした。これにより、トレーニングジムにあるバイクを思わせるイメージになった。

 ユーザーが最も触れるハンドル周辺のデザインにも、UDの考え方が生かされている。「ハンドルが細いと不安に感じる」(松本氏)ため、太く握りやすい形状にした。手前にかけて左右に広げているのは、肘を載せて体を支えられるようにするためだ。本体中央部分は椅子の高さ調整などに使われているダンパー構造を採用。ユーザーの身長に合わせて、ハンドルの高さを簡単に変えられる。

 ユーザーインターフェースでも、使いたくなる工夫を凝らした。設定した目標に達したらチャイムが鳴り、ハンドル下のモニター画面に金メダルを表示する。また、ユーザーの歩行状況に合わせて、「いいペースですね」などの音声とともに、画面に吹き出しを表示。ユーザーとロボットが会話しているような雰囲気を演出している。また歩行中のデータは数字だけでなく、グラフでも表示している。これは、ユーザーのモチベーションを高めるため。

歩行記録を表示する画面。グラフ化することで、トレーニングの効果を分かりやすくしている
歩行記録を表示する画面。グラフ化することで、トレーニングの効果を分かりやすくしている

現場スタッフの負荷軽減も

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