2018年、iOSで世界で最もダウンロードされたアプリであり、日本でも若年層がけん引する形で加速度的にユーザー数を拡大しているショート動画共有アプリの「TikTok」。その爆発的普及の原動力となったのは、ユーザー個々人の嗜好に合わせたコンテンツを最適配信したり、無名の投稿者を一躍スターにしたりする“頭脳”。TikTokのAI活用に迫った。
TikTokの爆速成長を可能にした要因はいくつもある。スマートフォンに最適化された縦型で、1本15秒の短尺動画をスワイプしながら気軽に視聴できるUI(ユーザーインターフェース)。口パクやダンス動画を投稿しやすいよう“お手本”を提示する「ハッシュタグチャレンジ」、人気楽曲が次々と耳に飛び込む音楽プレーヤーとしての使い勝手の良さなどが、代表例だ。
しかし、それだけではない。TikTokの強さの根幹をなすのは、運営する中国バイトダンスが大量のエンジニアを投入して磨くAI(人工知能)にある。機械学習の独自のアルゴリズムで、ユーザーに合った動画の精緻なレコメンドを実現しているのだ。
TikTokの平均視聴時間は1日当たり約40分。15秒動画が基本だから、1人160~200本もの動画を見ている計算になる。実際にTikTokを使ってみると分かるが、40分と言わず、時間を忘れて思わず数時間でも平気で見続けられることに驚くはずだ。
それはなぜか。アプリを起動すると、まず初めに表示されるのは「おすすめ」欄。ここに流れてくる動画の多くが自分好みの動画で占められ、圧倒的に心地いい視聴体験ができるからだ。
このコンテンツへの熱中度を左右するのが、バイトダンスが誇る機械学習のアルゴリズム。個々のユーザーがどの動画に「いいね!」を押したりコメントをしたか、誰をフォローしたか。すぐにスワイプして見なかったのはどのコンテンツか、逆に完視聴した動画はどれで、その動画にどんな楽曲が使われていたかといった、さまざまな手がかりを基にユーザーの趣味嗜好を自動で判別している。
一方で日々大量にアップロードされる動画に対しても、映像の動きに合わせて3Dスタンプを付けたり、髪色を変えたりといった複雑なエフェクトを実現している画像認識技術をベースに、動画のジャンルや、コンテンツ中にどういう要素が含まれるのかを分析。その動画にどんなユーザーが反応しているか、拡散状況はどうかなどの情報も加味して、AIが複合的に動画を“理解”する。こうしてユーザー側とコンテンツ側、双方を深く分析したうえで、個々のユーザーが明らかに嗜好性のある動画や、好まれるであろうジャンルの動画をAIが予測し、最適マッチングをしていくのだ。
今回、試しに異なるスマホで2つのアカウントを作ってみた。一方はスポーツやペットなど記者の嗜好そのままのコンテンツを中心に、もう一方は女子高校生の気持ちになり代わってイケメンや女性モデルのダンス動画、面白系のコンテンツばかりを視聴。いいね!などのアクションを繰り返した。すると、おすすめに出てくる動画は全く異なる結果に。しかも、コンテンツの最適化は視聴後1時間もたたないうちに実感できたほどだ。バイトダンス日本法人の西田真樹副社長は、「TikTokは1日平均で160~200本もの動画が視聴され、ユーザーの趣味嗜好にまつわる莫大な量の学習データが集まるからこそ。それが、他の長尺の動画プラットフォームとの大きな違い」と話す。
さらにTikTokのマッチングのすごみは、単に好みの動画を“当てる”だけではなく、「偶然の出合い」を生むことにもある。実際、おすすめ動画を眺めていると、たまに趣が変わった動画が混ざってくる。例えば、スポーツやペットなどを見続けていた記者に対しては、爽快な青空が広がる海外リゾート地の絶景やアート作品、ハードな筋トレによる肉体改造動画などが出るように。思わず見入っていいね!を押したりするうちに、これらのジャンルのコンテンツも頻繁に提案されるようになった。自分が気づいていない好みをTikTokに見透かされたようなものだが、当然嫌な気分にはならない。
この偶然の出合いは、TikTokの優位性として大きな意味を持つ。というのも、TwitterやInstagramなどの定番SNSは、自分が能動的にフォローしたユーザーの情報がフィードやタイムラインに流れてくる仕組み。好みに合った情報ではあるが、自分の趣味や友人関係に縛られる面がある。その点、TikTokは自分の趣味趣向が“拡張”される感覚で、それがやみつき要素になるのだ。友人関係や、自分で思いつく興味の範囲が狭い人でも楽しめる仕掛けとも言えるだろう。
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