2018年末に「PlayStation 4(PS4)」の累計実売台数が9160万台を突破した米ソニー・インタラクティブエンタテインメント (SIE) 。日本とアジアのパブリッシャーリレーションを統括し、ジャパンアジアリージョンオフィスのSVP(シニア・バイス・プレジデント)も務める植田浩氏に今後の戦略を聞いた。
まずSIEの国内戦略を聞かせてください。
ゲーム・プラットフォーマーとしては、有力タイトルの登場に合わせて、PS4を訴求し、さらなる普及を図ります。19年は、9月にカプコンの『モンスターハンター:ワールド』の大型拡張コンテンツ『モンスターハンターワールド:アイスボーン』がリリースされます。
次いで、11月には当社から『DEATH STRANDING (デス・ストランディング)』が、20年3月にはスクウェア・エニックスから『FINAL FANTASY VII REMAKE(ファイナルファンタジーVII リメイク)』が登場します。これら注目タイトルに合わせた大掛かりなプロモーションも展開するつもりです。
また、ユーザー層の拡大のため、eスポーツにも引き続き注力します。19年9月28日から10月8日まで開かれる「いきいき茨城ゆめ国体2019」(第74回国民体育大会)では、文化プログラムとして「全国都道府県対抗 eスポーツ選手権2019 IBARAKI」が開催されます。当社の『グランツーリスモSPORT』も競技タイトルに選ばれました。
こうした大会にプレーヤーが参加すると、家族や友人が応援のために来場します。これまでゲームになじみがなかった人にも、ゲームやPS4との接点ができるのです。これは大きなチャンスです。
「グランツーリスモ」で自動車とのつながりが強固に
eスポーツの現場を見て、どんなことを感じていますか?
子どもたちにゲームで将来の夢を見てもらえるようになったと感じます。18年の「東京ゲームショウ2018」の会場には、海外の有名ゲーマーの来日情報を把握して観戦に来る子どもの姿がありました。eスポーツが知れ渡っていく中で、プロゲーマーも子どもたちが憧れる職業の1つになってきているようです。
また、実況がある大会とない大会で、会場の盛り上がり方がまるで違ってくるのも面白いですね。解説のあるなし、解説者の巧拙で、大会の空気が変わる。eスポーツでゲーム実況というものがよりメジャーになり、ゲームの楽しみ方に一層広がりが出てきました。
eスポーツでSIEはどんなプロモーションを仕掛けていきますか?
当社は日本eスポーツ連合(JeSU)に加盟しているので、JeSUが制定するルールや規制に準拠してゲーム大会をサポートします。加えて、裾野を意識した活動に力を入れたいですね。トップクラスのプロゲーマーが競い合う高額賞金大会というよりは、もう一歩手前の大会なども開催してeスポーツ人口の増加につなげたいと思います。
グランツーリスモSPORTが国体に採用されたことで、自動車業界とのつながりがより強固になりました。今、さまざまな連携のアイデアを頂いています。若者のクルマ離れなど、自動車業界もゲーム業界と似た課題を抱えており、共通の課題の解決に向けて協力できるのでは?と、連携の可能性を日本自動車工業会(JAMA)と話し合っています。18年にはJAMAが主催する自動車イベントの会場で、グランツーリスモSPORTの大会を開催しました。このようなコラボを今後も続けていけそうです。クルマが題材のゲームを、実際にクルマがある場所で遊べるのは面白い。新たな世界が広がりそうです。
「フォートナイト」に根強い人気、新しい遊び方も
既にリリース済みのタイトルの中で注目作を紹介いただけますか?
オンライン対戦アクションゲームの『FORTNITE(フォートナイト)』(米エピック・ゲームズ)の人気ぶりには驚かされますね。基本無料で遊べるFree-to-play(F2P)型のタイトルです。
F2P型のタイトルは今、日本のユーザーにとても人気があります。携帯ゲーム機「PlayStation Vita」の時代から注目していましたが、PS4でも同様の傾向が出てきています。F2P型のタイトルは日本人の国民性に合っているのかもしれません。
例えば、『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』(SIE)のような人気タイトルが登場すると、ユーザーの関心は一定期間、新作に集中します。ところが、新作がリリースされるまでの間には、ユーザーは再びフォートナイトに戻っていくという現象があります。
PS4ではゲームをプレーしながらボイスチャットができますが、フォートナイトのユーザーを見ていると、その使い方が面白い。若い人たちは友達と一緒にフォートナイトをプレーしながら、チャットではゲームとは関係ない雑談を楽しんでいるのです。ゲームでありながらコミュニケーションツールとして機能している。ゲームの遊び方が多様化してきているとも言えますし、新しいコミュニケーションの形が生まれている気もします。
他のソフトウエア・メーカーにとっても、フォートナイトの人気ぶりはいい刺激になっているようです。フォートナイトはネットワークを通じた機能やコンテンツの追加を盛んに行っていますが、これはディスクの形でしか販売できなかった時代にはなかった特徴で、完成されたパッケージ型のゲームとはそもそもゲームの作り方が違っているとも聞きます。
パッケージ型のゲームを作ってきたメーカーは悔しい思いもあるはずで、だからこそ、次のステージに向けて「今度は乗り遅れてなるものか」と意気盛んになっていく。新たなゲームトレンドの始まりに向けた地殻変動のようなことが起きています。
日本や韓国では「PS4 Pro」が人気
米グーグルが19年11月からサービスを始める「Stadia」など、サブスクリプション(定額制)方式のクラウド型ゲームサービスが注目されています。これらについてのSIEの展望を教えてください。
クラウド型、サブスクリプション方式のゲームサービスで、当社には経験があります。15年から「PlayStation Now」を提供していますからね。クラウド型ゲームにはレイテンシー(遅延)など技術的な課題はありますが、今後の技術の進歩でいずれ解決すると見ています。PlayStation Nowで、当社はどうすればユーザーに喜んでもらえるのかといったノウハウを蓄積しています。培ったノウハウは将来、インフラが整ったタイミングで改めて生かせると思っています。
ハードウエアの状況も聞かせてください。PS4のスタンダード版と「PlayStation 4 Pro(PS4 Pro)」の比率はどうなっていますか?
18年はPS4 Proがグローバルで全体の約3割でした。この比率は変わりませんが、19年は国・地域によってバラツキがあります。ゲーム機がある程度行き渡ったことで、購買層が徐々に変化してきたためだと思われます。日本や韓国ではPS4 Proの需要が引き続き旺盛です。今後も併売の方針は変わりません。
携帯ゲーム機とVRの今後はどうなる?
PS4の携帯ゲーム機を投入する予定は?
直接的な回答は差し控えさせてください(笑)。ですが、スマートフォン経由でPS4をリモートコントロールしてゲームを楽しめる「PS4 Remote Play」は、iPhoneなどのスマホから使えるようにしています。PS4のコントローラー「DUALSHOCK 4」に対応するスマホも増えています。これで携帯ゲーム機に近い遊び方ができますし、コントローラーという当社のDNAの一部を、スマホで体感してもらえます。携帯ゲームにはいろいろなアプローチがあり得ると思っています。
V米オキュラスが手ごろな価格のスタンドアローン型VRヘッドセットの「Oculus Quest(オキュラスクエスト)」を発売して話題です。VRの先駆者として「PlayStation VR(PS VR)」の今後についてコメントをください。
PS VRの強みはPS4のユーザーならすぐに使える手軽さにあります。ただ、現行のVRヘッドセット「CUH-ZVR2」の発売は17年。他社の新しいデバイスと性能だけで比べれば、後れを取る部分もあるかもしれません。
一方で当社はこれまでVR向けコンテンツ作りのノウハウを蓄えてきました。VRで何よりも大切なことは、ユーザーがVR酔いしないことです。そのためのコンテンツ設計や、対象年齢の設定など、当社はさまざまな知見を持っています。これはアドバンテージだと思います。
今後について詳しいお話はできませんが、1つ言えるのは当社がVRのビジネスを継続するということです。
「toio」で幼い子どもたちにリーチ
ソニーが開発したロボットトイ「toio(トイオ)」をSIEから販売することになりました。この事業についてお話を聞かせてください。
toioは、ソニーの新規事業創出プログラム「SAP(Seed Acceleration Program、現・SSAP=Sony Startup Acceleration Program)」から誕生ました。toio自体はデバイスですが、遊ぶにはコンテンツが必要です。コンテンツ作りや普及については、私たちに強みがありますので、当社が携わるべきだと考えました。
携われて良かったとも感じています。なぜなら、toioによって、当社がこれまでアクセスしきれていなかった小学生以下の子どもたちにリーチできるからです。当社としては、toioを通じて小さな子どもたちにSIEやPlayStationを知ってもらうチャンスと捉えています。
販売を始めて驚いたのは、思った以上にプログラミング教育に絡んだニーズが強いことです。教育熱心なお母さんが買ったり、塾などの事業者からtoioを教材として使いたいと問い合わせがあったりします。グランツーリスモSPORTの予選会を全国各地で開催して分かってきたことですが、eスポーツに感度の高い都道府県は、toioにも強い関心を示す傾向があります。
eスポーツの大会と同様、近い将来、toioでロボットコンテストのような催しができればと思っています。ユーザーが創造した作品をみんなに見せたり、褒められたりする機会がtoioには必要だと考えますし、そうすることでずっと遊んでもらえそうです。こうした催しには、eスポーツで培った知見がきっと役立つだろうと考えています。
ゲーム業界に今、新たに吹いてきた風
日本のゲーム業界全体の今後のトレンドをどう見ていますか?
今、ゲーム業界はものすごく活気に満ちています。各社から相次いで大きな発表があった影響でしょう。米マイクロソフトは20年冬に投入予定の新型ゲーム機のプロジェクト「Project Scarlett」を発表しましたし、先に挙がった米グーグルのStadiaは19年11月にリリース予定です。任天堂からは携帯ゲーム機「Nintendo Switch Lite」が9月に登場します
私はサードパーティーとの折衝を担当しているので、ソフトウエア・メーカー各社の浮き立ったムードを肌で感じています。ソフトウエア・メーカーにとってプラットフォームが増えることは、収益を増やすチャンス。それを生かそうと、ゲームに対して積極的な投資の機運が生まれます。ポジティブな流れを、日々強く感じています。
この流れに乗って、SIEはPlayStationの強みをソフトウエア・メーカー各社に訴求していきます。魅力的なタイトルをどんどんPlayStationフォーマットに誘致したいと思っています。
新しいゲーム機やサービスの登場に加えて、ソフトウエア・メーカーの意欲をかきたてているのが、次世代通信規格の5Gです。5Gや5Gによって本格化するクラウド型サービスに適したコンテンツの検討が各社で始まっています。
かつてスマホが普及した時、モバイルゲーム業界に新しいプレーヤーが次々に参入しました。5G時代にも同様の大きなうねりが生まれるかもしれません。新しいIP(知的財産権、ここでは新しい人気ゲームタイトルやそのキャラクターを指す)が生まれ、新しい会社が生まれ、新しい遊び方が生まれることが考えられる。私がこの業界に携わってかなりの年月がたちますが、ゲーム業界は今、新たに吹いてきた風にまた盛り上がっています。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント ジャパンアジアパブリッシャー&ディベロッパリレーション部門SVP兼部門長、ジャパンアジアリージョンオフィスSVP(ジャパンマーケットビジネスプランニング担当)
(聞き手/山田 剛良=日経 xTECH、写真/栗原克己)