人気シリーズを多数持つレベルファイブ。「妖怪ウォッチ」シリーズはNintendo Switch向けに開発した『妖怪ウォッチ4 ぼくらは同じ空を見上げている』を発売。「二ノ国」シリーズはアニメ映画を公開と、新たな展開を用意している。eスポーツを意識した新作も準備中だ。日野晃博社長に聞いた。
『妖怪ウォッチ4 ぼくらは同じ空を見上げている』が2019年6月20日に発売されました。
『妖怪ウォッチ4』は、当初からNintendo Switchを想定して開発し始めたレベルファイブ初のタイトルです。人気の高いキャラクターはすべて出ますし、映画のキャラクターも登場します。「妖怪ウォッチ」を少しでも好きになったことがある人なら、必ず楽しめる「全部入り」のタイトルになっているので、ぜひ遊んでほしいですね。年末公開予定の『映画 妖怪学園Y 猫はHEROになれるか』とのつながりも更新データで入れる予定です。
少し遡りますが、18年はレベルファイブにとってどんな1年だったでしょうか?
さまざまな挑戦をしていく中、社内の開発体制については特に学びが多い1年でしたね。
ゲーム会社という本分があって、その上でクロスメディアを手掛けてコンテンツをヒットに導くというのがレベルファイブのパターンです。しかし、18年は「しっかりとゲームを出す」という本分がうまく回らなかったと認識しています。
18年2月にPlayStation4とPCに対応した『二ノ国II レヴァナントキングダム』、4月にはNintendo Switchタイトル『スナックワールド トレジャラーズ ゴールド』と、初めてとなるハードウエア対応作品を発表する一方で、人気タイトル『イナズマイレブン アレスの天秤』と『妖怪ウォッチ4 ぼくらは同じ空を見上げている』は19年に発売が延期となりました。
僕たちは、会社として「ゲームをより良くする」という信念を強く持っています。社内に評価機関を設置して、出来上がったゲームに厳しいチェックをかけ、評価が高くない場合には再調整を行うプロセスがあるんです。ただ、その調整を繰り返したため、タイトルが予定通りに発売できないという事態が起きてしまった。
良いゲームを作るプライドはもちろん大事で、今後も持ち続けたいと思いますが、同時に開発力の強化を行わなければならない。チェックを受け、調整を繰り返してもしっかりソフトを出せるバランスの良い開発体制が重要だと実感した1年でした。今、会社の体制を段階的に、そして徹底的に見直しています。よりスピード感があって、時代に合った体制にしなければならないと思っています。
クロスメディアを推し進める企業だからこそ、その体制づくりが重要ということですね。
はい、クロスメディアに関しては、僕たちが「この時期に仕掛けます」と提案しているわけですからね。僕たちと一緒にやることで、いいビジネスができるという期待をしていただけるからこそ、皆さん、連携してくださっているのだと思っています。その期待に応えなくてはいけないという気持ちは強く持っています。
現在制作している『映画 妖怪学園Y 猫はHEROになれるか』は万全を期して準備しています。この作品は「妖怪ウォッチ」の流れをくみながらも、ある意味で「妖怪ウォッチ」ではない作品になりつつあります。年末に公開する映画からスタートして、そこからいろいろな方面に分厚く細やかにアプローチしていきます。
一方、18年に『二ノ国II レヴァナントキングダム』が発売された「二ノ国」シリーズは、19年にアニメ映画『二ノ国』が公開されます(8月23日公開。主人公のユウを山﨑賢人が演じる)。今後の展開は?
『二ノ国』に関しては、新しいアプローチをしたいと考えています。
『二ノ国II レヴァナントキングダム』では、大作を作ることに対する取り組み方もいろいろ勉強しました。だからこそ19年は、新しい「二ノ国」といったものを、映画公開の後に順次、打ち出していこうと思っています。例えば、9月には『二ノ国 白き聖灰の女王 REMASTERED/for Nintendo Switch』の発売が控えていますし、その後もスマートフォンと絡めたり、永続的なサービスを展開したりと、象徴的な大作として新しいアプローチをしていきたいと思っています。
18年のスマホゲームはどうでしたか?
18年7月に『ファンタジーライフ オンライン』(FLO)の配信を開始しましたが、当初から人気が高く、今でも着実にダウンロード数を伸ばしているタイトルです。一方で、開発の体制についてはまだ改善の余地があるので、ユーザーの皆さんにより良いものをお届けするためにも、最適化したいですね。また、19年はFLOがさらに飛躍するチャンスを作ろうとも考えています。19年6月4日に発表した『ファイナルファンタジーXIV』とのコラボもその1つです。
19年はスマホゲームにかなり力を入れています。6月以降、新作をガンガン発表していきますよ。LEVEL5 comcept開発作品第1弾の『ドラゴン&コロニーズ』や『天惺のイリュミナシア~オトメ勇者~』のリニューアルオープン、さらには未発表の新作タイトルなど、さまざまなゲームを配信していきます。今年がスマホの勝負の年だと思っています。
スマホゲームの魅力は何でしょう?
「みんなが持っているハード」という点が大きいですね。「今はまっているゲームは?」と聞かれたら、結構な数の人たちがスマホのゲームを答えるでしょう。だからクリエーターからも「スマホのゲームを作りたい」という欲求が自然に生まれてくる。やっぱり昔のニンテンドーDSみたいに、みんなでどこでも遊べるゲームは、作る側にとっても魅力的なんです。
インターフェースも性能も素晴らしく良くなっているので、スマホをきちんとしたゲーム機として捉えるクリエーターは増えています。実際、最近ではレベルファイブに入社してきたときから「スマホゲームを作りたい」という人も多いんですよ。
新しい分野で挑戦は?
チャレンジの1つとして、eスポーツを推進するいわゆる「対戦モノ」を完全な新作として打ち出していこうと考えています。
これは、みんなでワイワイ楽しめて、子どもたちが熱くなれるタイトル。戦った後に嫌な気持ちが残らない、子どもたちに堂々とお薦めできるゲームを作りたいという気持ちがありますね。
レベルファイブも運営に携わっているゲームコンテスト「GFF AWARD」が19年で12回を迎えました。手応えはいかがですか?
非常に感じています。このコンテストを続けてきたおかげで、ゲームなどのコンテンツビジネスに対して行政もすごく目を向けてくださっている。アマチュア向けのコンテストですが、決勝に出ている学生たちのレベルは高く、作品を制作している時点で既に有名ゲーム会社から注目されて、内定が決まっていることもあるんです。
「GFF AWARD」を続けながら、自分は若い人を応援するのが好きなんだと改めて思いました。若い人たちの才能を発見するってすごく楽しくて。例えば社内でも僕が一番新入社員と付き合いがあると思いますし、発見するだけじゃなくて、学ぶことも多いんですよ。彼らからちょっとでも若い感覚をもらおうというのも多分にありますね。
若い世代から学んだことで、印象に残っているのは?
YouTubeなどで見かける「短い動画」のブームについてですね。最初、彼らがそれを望む感覚がよく分からなかったんですが、だいぶ追いついてきました(笑)。アニメは1話30分くらいが普通じゃないですか。でも今、ネットには10分で見られるコンテンツや1話8分のドラマなどが結構ありますよね。
30分のアニメの場合、1本見て、続けてもう1本見たら、あっという間に1時間じゃないですか。それよりも、電車の中などで起承転結のある8分間のドラマを見るほうがちょっとすてきだよね、というのが若い世代の感覚で、これが時代性ですよね。
今はみんな、まとまった時間が取れなくなっていると思うんです。一方で友達を待っている時間とか、そういった「隙間時間」はいっぱいある生活スタイルになっている。そこに入り込んでいくのは大切だと思っていますね。
ゲームも短いセンテンスで遊んですぐやめられるってすごく大事な要素になると思います。スマホゲームでは10年くらい前からそんな仕様だったかと思いますが、今後はすべてのゲームでそれが求められると思うし、その工夫は既にやっています。『妖怪ウォッチ ぷにぷに』は配信開始以来ずっと人気が続いていて、先日1500万ダウンロードを突破したんですが、1プレーが非常に短いことが成功の理由の1つだろうなと。コンソールでもその感覚がますます必要になってくると思います。

既存タイトルに加えて『妖怪学園Y』、eスポーツを意識した新作、映画も含めた「二ノ国」シリーズの新展開、さらにスマホゲームにも力を入れると盛りだくさんでしたが、最後に19年をどんな年にしたいか、改めて聞かせてください。
19年は「堅実に信頼を取り戻していく」をテーマに、メーカーとしての信頼性を上げていきたいと思っています。20年がいろいろな意味で勝負できる年だと考えているので、それを実現させるためにも、19年は自分たちの身を固めていく形で動きたいと考えています。今後大きくジャンプするために、まず足回りをしっかり固める、そんな1年にするつもりです。
レベルファイブ代表取締役社長/CEO
(写真/藤本和史)