2018年は強みであるIP(キャラクターなどの知的財産)を活用したゲームを中心に、家庭用ゲーム機とネットワークコンテンツの双方で成功したバンダイナムコエンターテインメント。常務取締役の宇田川南欧氏によると、近年は家庭用ゲームソフトについても発売後の長期的な運営が重要になっているという。
「出して終わり」ではなく「長期運営型」が当たり前に
バンダイナムコエンターテインメントにとって、2018年はどんな年でしたか?
18年はゲーム市場全体がこれまで以上に盛り上がった1年でした。当社としては新中期の始まりの年でしたが、そのスタートとして良い業績をあげられたと思います。
18年の特徴は、ゲームを長期的に運営する流れが実態化したことです。その前から必要性は感じていましたが、18年は企画段階からコンテンツの追加やeスポーツを絡めたイベント運営などを考えるようになりました。
例えば、家庭用ゲームソフトを展開するCE事業部では、『鉄拳7』と『ドラゴンボール ファイターズ』の大会を世界各国で行いました。Twitchなどで100万人規模にリアルタイムで配信され、タイトルの価値向上につなげられたと実感しています。『鉄拳7』も『ドラゴンボール ファイターズ』も17年のタイトルです。このことからも先を見据えた運営の重要性が感じられるのではないでしょうか。
どのくらい先まで見据えているのですか?
最低でも3年は考えています。家庭用ゲームソフトはこれまでは発売時が最も盛り上がりましたが、最近は発売後のほうが盛り上がることが珍しくなくなってきました。
長くビジネスができるようになっているので、「しっかり完成されたものを提供しなければならない」という思いも、これまで以上に強くなっています。ドラマチック探索アクションRPG『CODE VEIN』は18年発売予定でしたが、こうしたビジネスの長期化と、ユーザーの期待を裏切らないためという理由から、改めて適切な発売時期を検討することにしました。
長く遊ばれるようになった理由は何だと思いますか?
企業が数年かけてゲームを作るようになり、一つ一つの規模が大きくなったことが挙げられると思います。1つの世界観にシナリオが追加される、新しいキャラクターによって広がりが出るなど、ゲームの幅・深みが増しています。
ユーザー自身が、1人ではなくたくさんの人とコミュニケーションを取りながら遊ぶスタイルが増えてきたことも要因でしょう。
ユーザーからすると、長くて終わらないゲームは疲れてしまうのではないかと思うのですが……。
段階ごとに区切りを設けるなど、達成感を得やすいように工夫しています。より広がりをもって世界観を楽しめるサービスや、他のユーザーと戦ってみたいという要望などには、それに合わせたプラスアルファの要素を提供します。今やゲームはコミュニケーションツールという側面もあると思います。
1つの製品をじっくり作ると同時に、タイミングに合わせて発売するスピード感も大事です。特に当社はIPを用いたゲームが多いので、アニメや漫画などの一番盛り上がる時期を逃さず対応することが、タイトルにもプラスになります。「スピードとクオリティーの両輪を大事にする」。非常に高い目標ですが、社員にもそういった意識を持ってもらえるよう努めています。
社員に周知するための工夫はされていますか?
会議など、あらゆる場で積極的に伝え続けています。気を付けているのは、私が一方的に言う形にはしないこと。共感してもらえる人を増やして、その人がまた別の場で話をすることを目指しています。
トップダウンの方が早いと感じることもありますが、それではなかなか浸透しません。ボトムアップで、担当一人一人が責任を持つことが重要です。だからルールではなくモットー、「こうなりたい」という姿を共有できるようにと考えています。
長期運営型の成功で投資もしやすく
スマホアプリなどを管轄するNE事業部(ネットワークエンターテインメント)の18年はいかがでしたか?
18年度は非常に好調で、米国の調査会社アップアニーによるアプリパブリッシャーの世界売上ランキングで4位になりました。5位以内を目指していたので、目標を超える結果を出せて良かったと思います。
18年5月から配信を始めた『ドラゴンボール レジェンズ』は、日本の「Google Play ベスト オブ 2018」で、エントリーされたすべての作品の中から最も優れたゲーム“ベストゲーム2018”に選ばれました。国や地域ごとにプロモーションを工夫したり、公開された映画(※)に登場するキャラクターを出したり、YouTubeのマストヘッドをジャックしたりと、PRに力を入れたことも効果的だったのではないかと思っています。売り上げだけではなく世界の多くのユーザーが遊んでくれたことがうれしかったですね。
長期間にわたって特定のタイトルが売り上げの軸になると、「新しいタイトルをヒットさせなくては」という焦りはありませんか?
新しいヒット作を作りたいという気持ちは、社員も私もいつも持っています。しかし、1本1本の柱を太くすることも含めて、運営型のゲームをベースにすることでポートフォリオがとても見やすくなった。ヒット作だけに業績が大きく左右されることなく、それぞれのタイトルの売り上げが安定しており、この月にどんなイベントを行うか、というようなところまで計算して予測を出せます。その結果、新しいチャレンジへの投資もしやすくなってきています。
これは家庭用ゲームソフトでもネットワークコンテンツでも同じです。家庭用ゲームソフトでも、初回に生産した数の2倍は間違いなく売れるという予測をしています。というのも、「ユーザーの動向や要望を分析してそのデータをゲームに反映していく」という方法は変わらなくなってきているからです。
ユーザー自身も、「何で遊ぶか」を気にしなくなってきているのではないかと思います。スマートフォンは手軽に短い時間を埋められる、家庭用ゲーム機はじっくり腰を据えて遊べるなどの違いはあれど、どのデバイスを使うかはユーザーが自由に選べる。次世代機の発表も相次いでいますが、対応できるよう作り方も変えていきたいですね。
eスポーツとゲーム配信は切っても切れない関係に
eスポーツへの取り組みはいかがですか?
『鉄拳7』と『ドラゴンボール ファイターズ』は、格闘ゲーム大会「EVO」を筆頭に、ワールドワイドで多くの大会を開催し、盛況でした。『鉄拳7』はプロライセンス選手も増やしましたね。18年に発売した『SOULCALIBUR Ⅵ』も含めて、19年もeスポーツに力を入れたいと思っています。
イベントなどで新しい発表をしたときの反応や、上手なプレーヤーの動画が動画配信サイトなどで世界中に配信され、それがタイトルのプロモーションにつながる。eスポーツとゲーム配信はもはや切っても切れない関係です。多くの人に連鎖していく様がすごく面白い。こうしたファンの盛り上がりが、私たちのモチベーションにもつながりますね。
ただeスポーツに関しては、企業ではなくファンのコミュニティーによって盛り上がっていて、私たちはそれに参加させていただいているのだと考えています。その意識を忘れずに、ユーザーに喜んでもらえる発表をしたり、機能を提供したりして、一緒に盛り上げていきたいと考えています。
18年に特に印象的だった海外市場はありますか?
アジアが非常に伸びています。『太鼓の達人 Nintendo Switchば~じょん!』と『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』が、日本を含むアジアで50万本を突破しました。2本は全く異なるタイプのゲームでしたが、両方受け入れられたことで自信にもなりましたね。これからは、地域に合ったプロモーションやマーケティングを今まで以上に行っていこうと考えています。
海外に関しては、その国や地域により特化したものを作っていくつもりです。アジアで力を入れていきたいのはタイ。2月に発売した『ジャンプフォース』でタイ語のローカライズに初めてチャレンジしたところ、大きな反響がありました。非常に伸びている市場でユーザーも熱狂的なので、今後ワールドワイドで発売していくタイトルでは、タイ語にも対応していく予定です。
研究所を新設、パックマンは2020年に40周年
今後、期待しているタイトルを教えてください。
4月に、バンダイナムコ研究所という会社を設立しました。ゲームにこだわらず、エンターテインメントの分野で新たなアイデアや価値を見いだしたいと考えています。主にAI(人工知能)を活用した画像や映像、キャラクターの表現に使えるような技術研究をしていく計画です。
家庭用ゲーム機向けの新作タイトルは、先にもお話した『CODE VEIN』の発売を19年に予定しています。同じく19年に発売予定の『ニンジャボックス』は、先行して『月刊コロコロコミック』で漫画連載を始めました。主に小学生向けのオリジナルIPですので、こちらも期待しています。
スマホゲームでは「テイルズ オブ」シリーズ2年ぶりの新作となる『テイルズ オブ クレストリア』を配信予定です。既存ファンはもちろん、初めて「テイルズ オブ」シリーズに触れる方にも手に取ってもらいやすいような作りにしているので反響が楽しみです。
スマホゲームは、新作に限らず、既発のタイトルでも、周年祭などがあります。定期的に盛り上がりを作りつつ、ユーザー同士が楽しめるイベントを企画していきたいですね。『ドラゴンボール レジェンズ』はラスベガスで世界大会を開催し、配信中の各地域にオンラインで実況生中継しました。このようなイベントは、大勢の人がタイトルに触れるので、そこに絡めた運営やアップデート情報の紹介ができます。とても効果的だと思っています。
最後に、自社のIPである『パックマン』が2020年に40周年を迎えます。世界的な知名度を持つ人気IPですから、関連事業をいろいろ考えているところです。有名アーティストとのコラボレーションやオリジナル楽曲の提供など、パックマンを身近に感じてもらえるような展開ができればと思います。
バンダイナムコエンターテインメント常務取締役
NE事業部・CE事業部・CEアジア事業部 担当 兼 事業戦略担当
(写真/田口沙織)