日本のスマートフォン向けゲームをリードしてきたコロプラが、強い危機感を抱いている。海外発の斬新なゲームが、市場を脅かし始めているからだ。同社の森先一哲取締役は先入観にとらわれていた点を反省。2019年3月に組織改編を断行し、「新しい遊び方の提案」を推進。表現力強化にも力を注ぐ。
海外ゲーム会社が与えた脅威と気づき
2018年はどのような1年でしたか。
スマートフォンゲームを中心に手掛けるコロプラにとって、18年は厳しい年でした。競合が増えたこともあり、パイの取り合いが激しくなりました。また、有名IP(ゲームのキャラクターなどの知的財産)のゲームは生き残っても、新規のゲームが市場に食い込むのが難しい状況が続いています。
大きな変化は、海外のゲーム会社が日本で成功し始めたことです。日本のスマホゲーム市場は大きくて魅力的だけど、参入するのは難しい、海外のゲーム会社は、なかなか入ってこられないだろうと私は考えていましたが、彼らは“自力”で日本市場に食い込んできました。これによって、コロプラのビジネスが影響を受けている面は否定できません。
例えばどんな海外のゲーム会社が印象に残っていますか。
『荒野行動』のネットイース(網易)や、『アズールレーン』(日本ではYostarが配信)を開発したマンジュウ(上海蛮啾網絡科技有限公司)とヨンシー(厦門勇仕網絡技術有限公司)などの中国企業が代表ですが、もう少し規模の小さい会社でも、日本でそれなりに売り上げを立てているようです。
驚いたのが、マンジュウやヨンシーの作るゲームが、日本人の好みを完全に捉えていた点です。特にビジュアルは、日本人が作ったようなクオリティー。海外企業でも、日本人の嗜好に合ったものを作れるようになったのは脅威です。
日本市場をかなり研究し、それに合ったものを作れる技術力があるとなれば、競争はかなり激しくなりますね。
それだけではありません。ネットイースの『荒野行動』は、今までスマホゲームをやっていなかったと思われる層、スマホゲームに対する固定概念のない層を取り込んでいる可能性があります。初めて遊ぶスマホゲームが『荒野行動』というパターンも多そうです。
こうした海外企業の躍進を見ると、コロプラとしても工夫の余地があったと思います。FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)のように、日本ではあまり受けないと思われていた分野で、受け入れられましたからね。遊んでいる方々はFPSとすら思っておらず、SNSに近い感覚かもしれない。我々もスマホゲーム業界でそこそこ長くビジネスをしているので、「ゲームとはこういうものなんだ」みたいな先入観にとらわれていたのかもしれません。
日本のゲームユーザーの趣味嗜好が変わってきたのですか?
全体としては変わってきているでしょう。スマホでそうした新しいゲームを遊んでいる方々には、嗜好というものがそもそもなかったとも考えられます。「ゲームとはこうだ」という思い込みがないのです。
そうしたユーザー層に対して、海外の企業はとてもうまくマーケティングを展開していた。ターゲットをある程度若い人に絞り、YouTubeやSNSをよく使う人向けの広告展開をしていました。ゲームの内容だけでなくマーケティング手法も、非常によく考えられている印象を受けましたね。
『アリス・ギア・アイギス』で学んだ“ニッチ層”向けマーケティング
コロプラも『DREAM!ing』のように女性向けゲームにトライするなど、新しい試みをしています。
コロプラは毎年チャレンジして、何年かに1回は大きなヒットが出るということを繰り返してきました。18年は新作以外、例えば「白猫(『白猫プロジェクト』『白猫テニス』)」や「黒猫(『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』)」などは期初に立てた目標通りか、それ以上の結果を残しています。ですから、従来の顧客に対するアプローチとしては、それほど間違ってはいないでしょう。
ただ、これまでなかった体験を求めるお客様に対しては、少しズレていたところがあったかもしれません。それはゲーム開発だけでなく、マーケティングもです。サービス中のタイトルが少しずつ減衰していく分を、新しいゲームで上乗せして成長を目指すのがコロプラのビジネスモデルですが、18年は新作でやや苦戦しました。
18年で当たった新作ゲームはありますか。
比較的うまくいったのは1月にリリースした『アリス・ギア・アイギス』です。うまくいった理由は、ターゲットがはっきりしていたこと。作品のクオリティーの高め方も想像がつきますし、適切なマーケティング手法もある程度分かっていましたから。
『アリス・ギア・アイギス』はニッチな層に楽しんでいただきやすいゲームなので、コロプラが得意とする従来のマーケティング手法をそのまま適用できません。しかしこのゲームを開発したグループ会社のピラミッドは、そのあたりのマーケット状況にとても詳しい。うちのマーケティング部門にとって非常にいい経験になりました。
例えばコトブキヤさんと組んで作った『アリス・ギア・アイギス』のフィギュアは、驚くほど売れました。大好きなゲームのキャラクターを部屋に置けるということで、喜んでいただけたのではないでしょうか。こうしたエンゲージメントを強化する方法や、ファンの気持ちを大事にしているというメッセージを出していくことの大切さを改めて感じました。
18年10月17日にサービスを開始した『バクレツモンスター』(バクモン)は、逆にマスを狙ったゲームだと思いますが、想定どおりの立ち上がりとはいきませんでした。
そうですね。『バクモン』は少し苦戦しました。PvP(Player versus Player)をメインとした格闘ゲームなんですが、リリースの初期段階で、回線に遅延が生じたのが大きな理由です。それ以外に、どの部分を大事にして、それをどういう機能で支えるかという、主に遊び方の部分で想定通りにならなかった面もあったと思います。考えていた楽しみ方を提供できなかった感じですね。
今は回線の問題を解消して遊びやすくなっていますし、ゲームの楽しみ方についても打つ手があります。ただ、より多くの人に遊んでもらうために「それでいいのか?」という悩みはあります。
例えば『バクモン』は対戦ゲームですから、負けた人はやめたくなります。そう思わせずに、何度も繰り返し対戦してもらえる仕組みが必要です。対戦要素を立たせれば、それに比例して対戦自体も難しくなっていきます。その点、先ほどの『荒野行動』は同じ対戦ゲームでありながら、多くの方々が遊んでいるので学ぶべき部分はあります。
19年はより緻密なマーケティング戦略を実践する
18年は苦戦もありましたが、19年は明るい道筋が見えてくるでしょうか。
はい、「白猫」や「黒猫」については、ある程度想定通りに事業展開できるようになったのが、会社として良くなった部分です。後は新作をどうヒットさせていくかですね。『バクモン』に加えて今期(2018年10月~19年9月)はさらに数本投入する予定ですから、しっかり出せれば大丈夫だと思います。
『アリス・ギア・アイギス』では、ニッチ層に楽しんでいただけるマーケティングがうまく機能し、我々も多くを学びました。ですから19年にリリースする新作は、マーケティングプランをかなり練ります。今やテレビCMを流せば遊んでもらえる時代ではありません。誰がこのゲームを遊んでくれるのか、マーケティング担当者とじっくり話し合い、これまでと違ったマーケティング戦略にしていくでしょう。
そうした緻密なマーケティング戦略を実行されているタイトルはありますか。
開発中の新作RPG『最果てのバベル』は、スーパーファミコンやPlayStationなどで昔からRPGを楽しんでいた人たち向けに、スマホでできるオリジナルRPGを――と位置付けたタイトルです。そうした層を獲得するために、まずはどんな方法が効果的かといったことを深く話し合うようになりました。
組織変更で推進する「新しい遊び方の提案」とは何か?
19年3月に、エンターテインメント本部が「エンターテインメント本部」「白猫黒猫本部」「アライアンス本部」に、クリエイティブ本部が「アート本部」「エンジニアリング本部」に改組されました。どういう狙いがあるのでしょうか。
「より迅速な意思決定と効率的なゲーム開発体制の構築を行い、当社の取り組む『新しい遊び方の提案』と『IP 育成』を強化するため」です。コロプラには「白猫」や「黒猫」など、ヒットしたIPがいくつかあります。一方で、「新しいゲームを作っていこう!」という企業姿勢も大切にしています。そうなると、新しいIPを作ることと、ヒットしたIPを育てることのどちらが大事なのかという議論が起こりがちです。部署によって立場や価値観が違いますしね。でも、どちらも大事なんです。ですから今回の組織変更で、両方とも本気で取り組める構造にしました。
特に主要IPの「白猫」「黒猫」は、10年後も人気IPであり続けたい。それには意識して育てていかなくてはなりません。ある意味、王道のやり方が重要で、奇抜すぎても良くない。そこは組織変更で、これから作る新しいゲームと価値観を分けてやっていくことにしました。
「新しい遊び方の提案」とは具体的にどのようなことを目指すのでしょうか。
先のことなので話せないのですが、かなり変わったゲームを出す計画もあります。テクノロジーに関連した部分が大きいですね。遊び方も、「これ、本当に分かってもらえるのかな」というようなものが控えています。
『最果てのバベル』も新しい提案の1つです。これまで家庭用ゲーム機でしか遊べなかったようなRPGがスマホで楽しめます。これはスマホでしかゲームをやらない人にとって、新しい体験になるでしょう。「新しい遊び方の提案」を目指すといっても、「この世にないものを作る」という意味だけでありません。「今までスマホでしかゲームをしてこなかった方々に、初めてのゲーム体験をしてもらう」――そういう提案をしていく考えです。
「新しい遊び方の提案」について他にも開発が進んでいると思うのですが、率直な感想はいかがですか。
「おお、これは何だろう?」みたいな、初めての体験はありますね。ただ概念レベルの話ですから、実際にモノとして作ってみないと分かりません。これから先がとても楽しみです。今はスマホゲーム自体に閉塞感もありますから、そろそろ「何だこれは!?」みたいなものを出していかないといけない時期だと思います。
コロプラは新しいゲームを作り続け、毎回、新しい要素を盛り込む方針でゲームを開発してきましたが、市場が大きくなると、「大体、この辺りが求められるだろう」といった発想で作りがちです。しかし『荒野行動』が出てきて、「思ってもみなかったゲームが、こんな売れ方をするんだ……」と驚かされました。初めて体験する人にとっては、このゲームは完全に新しい遊びなんだということに気づかされましたね。だからこそ、我々も「新しい遊び方の提案」をしっかりと掲げていくことが大事なんです。
今回の組織変更でご自身は「アート本部長」を務められます。何を変えていくつもりでしょうか。
アート本部で狙っているのは「表現力の向上」です。スマホゲーム市場はビジネスが難しくなっており、表現力が高いことも生き残る重要なファクターになっています。その上、海外からレベルの高いグラフィックのゲームが日本に入ってきました。コロプラの表現力はそこそこ高いとはいえ、相対的に優れているとは言えなくなっていますから、意識的にレベルアップを図る考えです。
キャラクターのアウトプットのレベルだけでなく、時代や作品性に合った良いキャラクターを生み出す能力が大切です。それを高めていきたいし、できる人材を増やしたい。他社のレベルも高いので、このままだと差を付けられてしまう。そんな瀬戸際にいる気がするのです。ですからスタッフには「今までやっていたことは、6割くらい忘れてくれ」と話しています。それくらいの意気込みで、取り組んでいきますよ。
コロプラ取締役 CCO
(写真/稲垣純也、写真提供/コロプラ)