「eスポーツ元年」と言われた2018年。その言葉通り、様々な企業がeスポーツへの取り組みを本格化した。Cygamesは、賞金総額1億円超を賭けた『Shadowverse(シャドウバース)』世界大会を開催。eスポーツでの展開を見据えた新タイトルを投入するなど、業界をリードする。同社の木村唯人専務に聞いた。

Cygamesの木村唯人専務
Cygamesの木村唯人専務

 Cygamesは2018年12月に、同社のトレーディングカードゲーム『Shadowverse』の世界大会を開催した。100万ドル(約1億1000万円)という優勝賞金も話題を集め、見事、成功裏に終わった。

 約1年前のインタビューで、当時同社の常務だった木村唯人氏が「18年はCygamesの年になる」と力強く宣言した通りとも受け取れるが、はたして木村氏の目に18年はどう映っているのか。そして、19年はどんな戦略を取るのか。

リリースした2作が海外で好調

単刀直入に伺います。1年前のインタビューで宣言された通り、18年は「Cygamesの年」になりましたか?

悪くはなかったですが、そこまで言えるレベルにはならなかったですね(笑)。予定していながらリリースできなかったタイトルがあったという点で不本意でした。とはいえ、家庭用ゲーム機も含めて、18年は新作を3タイトル出せました。当社としてはこれはかなり多いと言っていい。なにせ2017年がゼロでしたから(笑)。

リリースされたタイトルはどれも好調です。

『プリンセスコネクト!Re:Dive』は国内で今も好調ですし、台湾では何度も1位を取りました。もともと美少女ゲームはアジア圏で好かれるジャンル。韓国や中国でも近くリリースされる予定で、高評価を期待しています(※編集部注:韓国版は3月28日にリリース済み)。

任天堂との提携が話題を呼んだ『ドラガリアロスト』はいかがでしたか?

こちらは欧米市場でも大きなインパクトを与えてますね。作り手としても任天堂のものづくりやグローバルに対する考え方など、提携によっていろいろ勉強させていただきました。

スマートフォン/PC向けアニメRPG『プリンセスコネクト!Re:Dive』
スマートフォン/PC向けアニメRPG『プリンセスコネクト!Re:Dive』
任天堂と共同で開発したスマホ向けアクションRPG『ドラガリアロスト』
任天堂と共同で開発したスマホ向けアクションRPG『ドラガリアロスト』

『プリンセスコネクト!Re:Dive』と『ドラガリアロスト』の海外市場での好調は予想されていましたか?

台湾は硬派なゲームよりも日本文化寄りのものが好まれる傾向があるので、そういう意味でチャンスはあると思っていましたが、特に勝算があったわけではありません。今後展開する国々でも同じように受け入れていただけることを期待しています。

Cygamesとして19年はどんな展開を考えているのでしょうか?

どんなジャンルのものかは言えませんが、開発中のタイトルがいくつかありますし、いろいろ取り組んでいます。すでにタイトルを発表しているものとしては、対戦格闘ゲームの『グランブルーファンタジー ヴァーサス』(以下、グラブル ヴァーサス)を19年にリリースします。

『グランブルーファンタジー ヴァーサス』は人気のファンタジーRPG『GRANBLUE FANTASY』(グラブル)をベースにした対戦格闘ゲーム
『グランブルーファンタジー ヴァーサス』は人気のファンタジーRPG『GRANBLUE FANTASY』(グラブル)をベースにした対戦格闘ゲーム

それらのタイトルも海外展開を見据えて開発されているのでしょうか?

ゲームはジャンルによって市場が大きく変わるので、画一的な戦略を採りようがない面があります。開発中のものは、海外市場を特に意識しているわけではありませんが、どんなジャンルも世界のどこかしらにはニーズがあって、それを見極めて日本以外の国でも出したいと思っています。どこの国で受けるか、どう展開するかの見極めが大事ですね。

『グラブル ヴァーサス』でもeスポーツを展開

18年は「eスポーツ元年」と言われていました。Cygamesとしての手応えはいかがでしょう?

18年12月に開催した『シャドウバース』の世界大会「Shadowverse World Grand Prix 2018」は大きな話題となりました。スター選手も生み出せましたし、今まで取り上げていただけなかったメディアからも取材が来ました。大きな取り組みができたことに意味を感じていますし、「eスポーツ」を日本で広めることに一役買えたと自負しています。

18年12月に開催した『シャドウバース』の世界大会「Shadowverse World Grand Prix 2018」
18年12月に開催した『シャドウバース』の世界大会「Shadowverse World Grand Prix 2018」

eスポーツとして『シャドウバース』以外のタイトルでの展開は?

19年にリリース予定の『グラブル ヴァーサス』が対戦格闘ゲームなので、まさにeスポーツ向きです。ただ、さらなるタイトルの拡大は考えていません。eスポーツタイトルを2つも抱えているメーカーも少ないですし、いたずらに数を増やすより、一つひとつのタイトルをしっかり作り、展開していくことのほうが大事。

 野球が競技としてなくなることは考えにくいですが、ゲームの場合はメーカーが努力をしないと市場から消えてしまいます。続けることでプレーヤーだけでなく見る側にも文化として定着すると思っています。eスポーツとうたうタイトルは、スマホゲーム同様、運営、運用といった考え方が必要でしょう。

『グラブル ヴァーサス』は競技性の高い対戦格闘ゲームとして開発されている
『グラブル ヴァーサス』は競技性の高い対戦格闘ゲームとして開発されている

『シャドウバース』の大会は賞金総額も参加者も、世界レベルに成長しました。『グラブル ヴァーサス』の大会もこの規模で開催されるのでしょうか?

最初から『シャドウバース』と同規模というのは難しいでしょう。ただ、大会運営という意味では『シャドウバース』のノウハウがありますし、対戦格闘ゲームの大会は参考になるものがたくさんある分、やりやすさはありますね。『シャドウバース』のときはお手本になるようなスマホのカードゲームが他になくて大変でした。

 他社さんの対戦格闘ゲームの大会から学んだノウハウに、僕らが『シャドウバース』の大会で得たものを組み合わせて形にできればと思っています。

eスポーツは地方創生と相性がいい

Shadowverse World Grand Prix 2018では異業種のスポンサーも付きました。eスポーツに対する周囲の反応の変化を感じることはありますか?

変わってきたと思いますね。地方創生の動きが各地で起こっていますが、若年層にアピールしたいという思惑がある企業や団体とeスポーツは相性がいいんです。地域の活性化や仕事を生み出すという観点で言えば、さほど大きなイベントでなくとも、若者を集められれば大きな意味を持ち得ます。例えば、スーパー銭湯みたいなところでeスポーツの大会を開くと、若者が集まると喜ばれるんです。

 大都市で大きな大会を開催し、成功を目指すのも1つの手ですが、大企業が大金を投じて大きな効果を狙うフェーズにはまだ達していません。それよりも、いろいろなeスポーツのミニイベントが地方で盛んに開催されるようになってきたことが、当社にとっては大事ですし、注力しています。

 富山県に「ToyamaGamersDay」というイベントがあるんですよ。これは、最初ごくごく小規模で開催されていたものが、回を重ねて数百人規模の大会に成長しました。地方の新聞社やテレビ局、地元企業などの協力を得ることで、経済圏が成り立っているんです。こういう若い人たちの動きはどんどん増えてほしいですし、協力したいですね。

 この記事をお読みで「『シャドウバース』を通じて地域活性につなげたい」といった方がいれば、ぜひお問い合わせいただきたいと思っています(笑)。

富山県で開催される「ToyamaGamersDay」
富山県で開催される「ToyamaGamersDay」

市場やユーザー層が拡大した実感はありますか?

女性が増えました。ゲームのプレーを見て楽しむ人は、女性が多い印象ですね。話をうかがってみると「お兄ちゃんがプレーするのを見ていた」といった人が多いんです。「自分ではあまりハードなプレーはしなくとも見るのは好き」といった層は取り込めていますね。

 女性プレーヤーも多いですよ。最近は、FPS(First Person Shooting、主人公視点でプレーするシューティングゲーム)のようなジャンルでも、女性が増えていると聞きますが、もともとスマホゲームは女性のプレーヤー比率が高いんです。そのためか、eスポーツとして楽しむ女性プレーヤーの比率も『シャドウバース』は高いですね。クイーンズカップという女性限定の大会では300人弱が集まりました。女性のみを対象としたゲーム大会としては日本ではかなり大きな規模だったんじゃないでしょうか。

女性限定の大会を開催するきっかけは何だったのでしょう?

女性が増えてきたとは言っても、まだまだ男性のほうが多いのが実情です。女性限定とすることで参加者同士での会話がしやすい雰囲気が生まれるなど、“ならでは”の楽しさがあるんです。優勝したプレーヤーがテレビにも出演したりと手応えを感じているので、19年も開催できればと思っています。

今年は「シャドウバースの年」になる

19年も『シャドウバース』は18年と同規模の大会を開催するとうかがいました。

優勝金額100万ドルの世界大会は19年も12月に開きます。それだけでなく、19年は『シャドウバース』のさらなるユーザー層拡大を考えています。6月に3周年を迎えますが、スマホで楽しむeスポーツとしてようやく基盤が整ってきた感がありますし、プロリーグも2年目を迎えて多くの固定ファンを抱えるスター選手が出てきました。「他のIP(ゲームなどの知的財産)に比べて、スター選手が生まれるまでの時間がとても短い」と言ってくださる方もいます。プロリーグがそれに一役買っているのでしょう。この流れをきちんと生かしていきたいですね。

賞金金額の高さばかりが取り沙汰されますが、『シャドウバース』の大会は中身が伴っている印象です。

大事なのは“ちゃんとやること”。今のeスポーツはまだまだうさんくさいものと取られかねません。まじめに大会を一つひとつ成功させていくことが信頼を生み、観客として見るに値するものだと思われるようになるはずです。

 選手たちも初めて「プロ」という肩書きを得た当時は戸惑いもあったようですが、私たちCygamesともども成長してプロになることができてきたのが、18年から19年にかけてです。

選手だけでなく、大会運営者としてのCygamesも成長し、共に「プロとはこういうものだ」という規範を作り上げている感じですね。

見本や手本となる人や組織がほとんどない状態からのスタートでしたからね。若い人がプロとして人前に出て危うい言動をしたりすることもありますが、そういう経験をしながらプロになっていく。それが今起きていることです。

eスポーツやファン層拡大の取り組みなど、『シャドウバース』の勢いはまだ続きそうですね。

18年は「Cygamesの年」と言いましたが、「19年は『シャドウバース』の年」になりますよ(笑)。

木村 唯人(きむら・ゆいと)氏
Cygames専務取締役。東京大学大学院卒業後、カナデン、シリコンスタジオを経て、2011年、渡邊耕一代表とともに創立メンバーとしてCygamesに参加。『神撃のバハムート』や『グランブルーファンタジー』『シャドウバース』『プリンセスコネクト!Re:Dive』などのプロデューサーを務め、2019年5月より現職。運営中のタイトル以外に、今後リリース予定の新作のプロデューサーも担当するなど、経営と並行して、ゲーム開発にも深く携わっている

(写真/志田彩香)