ゲーム開発スタジオの倍増や大型タイトルのリリース、サブスクリプション型サービス「Xbox Game Pass」の開始、クラウドゲームプラットフォーム「Project xCloud」の推進など、ゲーム関連の新たな施策を相次いで発表しているマイクロソフト。攻勢に転じた同社の戦略を聞いた。

日本マイクロソフト執行役員常務 コンシューマー&デバイス事業本部長の檜山太郎氏
日本マイクロソフト執行役員常務 コンシューマー&デバイス事業本部長の檜山太郎氏

 家庭用ゲーム機の3大プラットフォームの1つ、マイクロソフトの「Xbox」。現行シリーズ「Xbox One」の販売台数は、グローバルで約4000万台(米VGChartz調べ)といわれる。“ライバル”として引き合いに出されることが多いソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のPlayStation 4が、2018年末に実売9160万台を突破したのと比べると存在感はやや小さい。

 しかし、ここにきて攻勢に転じている。18年6月に米ロサンゼルスで開催された世界最大級のゲーム見本市「Electronic Entertainment Expo(E3)」では、「ファーストパーティー」と呼ばれる自社向けゲーム開発スタジオを約2倍に拡充すると発表。大型タイトルのリリースを多数控えていることも明らかにした。

 さらに、毎月100タイトル以上のゲームが定額で遊べるサブスクリプション型サービス「Xbox Game Pass」をスタート(日本未導入)。クラウド技術を活用し、どんなデバイスからでもストリーミングでゲームが楽しめる「Project xCloud」の開始も予定している。

 現在、同社はゲームビジネスにどんな戦略で取り組んでいるのか。日本マイクロソフトの執行役員常務で、コンシューマー&デバイス事業本部長の檜山太郎氏に聞いた。

ゲームの重要度アップと共に社内組織も変化

マイクロソフトにおいて、ゲーム分野は現在、どんな位置付けでしょう?

マイクロソフトは、非常に大きなデジタルトランスフォーメーションの最中で、ゲーム分野はかなり中心的な位置付けになってきています。

 グローバルでXboxのプロジェクトを率いているのは、Gaming エグゼクティブ バイスプレジデントのフィル・スペンサーです。18年、CEOのサティア・ナデラに直接リポートを報告する、社内でも中心的なメンバーに仲間入りしました。この人事は、マイクロソフトにおけるゲーミングの位置付けの変化を示していると考えています。

マイクロソフトのゲーム事業を率いてきたフィル・スペンサー氏は、18年にGaming エグゼクティブ バイスプレジデントに就任。写真は、18年6月のElectronic Entertainment Expo(E3)
マイクロソフトのゲーム事業を率いてきたフィル・スペンサー氏は、18年にGaming エグゼクティブ バイスプレジデントに就任。写真は、18年6月のElectronic Entertainment Expo(E3)

 マイクロソフトの全世界共通の従業員証の裏には、12ワードのミッションが書いてあります。“Empower every person and every organization on the planet to achieve more.” 日本語に訳すと、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」。それを真剣にサポートするんだというメッセージを込めており、我々が戦略を考えるときは必ずここに立ち返ります。

 ゲームに対するマイクロソフトの取り組みも、この考えに沿っています。世界の人口が約80億人。半分の40億人がネットにつながっているでしょう。さらにその半分の20億人がゲームをやっていると推測されます。そして、残りの20億人も、今後、ゲームをやる可能性がある。マイクロソフトとしては、ネットにつながっているすべての人がゲームをプレーするようにサポートしていこうというわけです。

 エンジンとなる技術は2つあります。1つは「インテリジェントクラウド」。これはプラットフォームとなるものです。もう1つは「インテリジェントエッジ」。末端のデバイス群を意味します。今までバラバラに動いていたプラットフォームとデバイス群をしっかり結び付けることで、お客さまの生産性を高め、やりたいことを実現できるようにしていきます。

 ゲームに関して、インテリジェントクラウドの鍵になるのは「コネクティビティー」「クラウド」「AI」の3つです。コネクティビティーとは機器連携のこと。機器をクラウドでつないでプラットフォームを構築します。そうしてできたプラットフォームをAIを使って運用します。

 もう少し具体的に言うと、機器連携の先に「Project xCloud」というクラウドゲームサービス(※)があり、これらをAIを使って運営して、20億人のユーザーが、様々な機器で、いつでもどこでもゲームができる環境を整えていこうというわけです。

※クラウドゲームとは、ゲームプログラムをクラウド上のサーバーで動作させ、処理した映像をストリーミングで配信するゲームのこと。

 また、今までのゲームではボスキャラを倒せば終わりでしたが、クラウドとAIを使えば、継続的にいろいろなストーリー展開を提供できるようになります。いわば「GaaS」(ゲーム・アズ・ア・サービス)という考え方です。

 一方、インテリジェントエッジについては、18年のE3で、50を超えるコンテンツを発表しました。ファーストパーティーといわれているマイクロソフトグループの中の開発スタジオの数も約2倍に増やすなど注力しています。

ゲームにはライフスタイル改革と通じるものがある

日本マイクロソフトにとっても、ゲームは重要な位置付けになっていますか?

日本マイクロソフトが大きな戦略の中で進めていることと、ゲームが進んでいく方向性はかなり一致してきていると思います。

 日本マイクロソフトでは今、日本の働き方改革やライフスタイル改革を推進しています。それは社内でも同様なのですが、クラウドが浸透するまで、セキュリティーを確保しながらいつでもどこでも働ける環境をつくることは大変だったんですよ。今ではどこにいても、ノートパソコンがあれば会議に参加できますし、クラウドにアクセスして、メンバーと一緒に資料を作ることもできます。

 ゲームにもこれに通じるところがあります。昔は「うちで一緒にゲームやらない?」と言って、テレビの前にみんなで座り、一緒に騒いでいました。今は、「何時に(ゲーム内の)あそこで会おうね」と約束すれば、同じ場所に集まらなくてもオンラインで一緒にプレーできます。

 一昔前まで、パソコンは仕事の生産性を上げるための機器でした。でも今は、ゲームや音楽、映画といったエンターテインメントも楽しめるようになっている。これさえあれば、どこにいても仕事がこなせるし、個人の世界に入ってリラックスすることもできる。それが、(マイクロソフトのビジネスの中で)ゲームがコアなものの1つと位置付けられる理由であり、最終的に40億人もの人がゲームを楽しむようになるだろうと考えている背景です。

今まではXboxというハードとそのコンテンツとしてのゲームソフトを両輪に、売り上げを伸ばしてきましたが、ターゲット層が限定的で、マイクロソフトのビジネスの中では閉じた印象がありました。今は会社全体の目標を達成するうえで、ゲームが重要な役割を担うようになってきたということですね。

その通りです。現在、家電量販店ではゲームコーナーが急速に拡大しています。以前は限られた層がユーザーだったのに対し、今は一般層にも広がっているということです。

 その理由の1つに、我々のパートナーであるPCメーカーがゲームに注力していることがあると思います。例えばレノボ・ジャパンは、デビット・ベネット社長自身がゲーマーということもあって、製品ラインアップの中でゲーミングPCを充実させています。

 デルの「ALIENWARE」、HPの「OMEN」といったゲーミングPCブランドでは、以前は非常に高価なモデルが多かったのですが、最近は一般のPCに近いエントリーモデルも充実させています。

 さらに、一般のPCにゲーミング用に近いモデルも出てきており、パソコンでゲームをやってみようかなという人の裾野が広がってきているように思います。

これまでは、Xboxなどゲーム機の販売台数がゲーム業界のトレンドを測る指標として注視されてきましたが、今後はハードの売り上げだけで市場の状況を把握することはますます難しくなりそうです。

確かにこれまではXboxの売り上げなどが我々の事業指標でした。しかし今は、どれくらいの人が実際にXboxを使っているかも指標になってきています。

 例えば、我々はゲームプラットフォームとして月額制の有料サービス「Xbox Live Gold」を提供しています。登録していただくと、好きなゲームのコミュニティーに入って、オンラインマルチプレーができます。また、無料のゲームを1カ月当たり2~4つダウンロードできます。このXbox Live Goldにどれくらいの人がいらっしゃるかなども重要になってきているのです。

 さらに、量販店と協業してどんなイベントを開けたか、メッセージを発信できたか、マーケティング的なものを伝えられたかというのも事業指標に含まれるようになってきました。将来的には、Xbox Live Goldでどれくらいゲームが遊ばれたかも指標に入ってくるでしょう。

月額制の有料サービス「Xbox Live Gold」
月額制の有料サービス「Xbox Live Gold」

米国ではサブスクリプション型のゲームサービスを開始

米国ではサブスクリプション型の「Xbox Game Pass」も始まりました。

毎月一定額をお支払いいただくと、100タイトル以上のゲームが遊び放題になるのがXbox Game Passです。日本ではまだ展開していませんが、日本に入ってくれば、これがどれくらい使われたかもKPI(重要業績評価指標)として大切な指標になってきます。

Xbox Game Passは、100を超えるXbox One、Xbox 360向けタイトルを楽しめるサブスクリプション型サービス。欧米のほか、韓国や台湾でもサービスイン。日本での導入が待たれている
Xbox Game Passは、100を超えるXbox One、Xbox 360向けタイトルを楽しめるサブスクリプション型サービス。欧米のほか、韓国や台湾でもサービスイン。日本での導入が待たれている
E3でXbox Game Passについて発表するエンジニアリング部門のAshley Speicher氏
E3でXbox Game Passについて発表するエンジニアリング部門のAshley Speicher氏

サブスクリプション型サービスでは、コンテンツ力が重要です。スタジオを2倍に増やしたのは、ハイエンドゲームを充実させるのが狙いですか?

いろいろです。ハイエンドゲームで、最高レベルのグラフィックや新しいゲームの形を提供する一方、ハイエンドではなくても、面白いアイデアや実験的な仕掛けを提案できるようしていきます。インディー(独立系)開発会社がXbox One用のゲームを制作し、オンラインで配信できるプログラム「ID@Xbox」も用意しています。

19年9月には、日本でも5Gの商用サービスがスタートします。ゲームにどんな影響を与えていくでしょう?

ゲームをいつでもどこでも遊べるようにするには、5Gは欠かせない技術とエンジンになってくると考えています。5Gを活用することで、どうやってコンテンツの魅力を引き出し、ユーザーにそれを楽しんでいただけるかに注目しています。

5G時代を見据えて、ほかのプラットフォーマーもクラウドゲームサービスを発表しています(関連記事:「「Googleはゲームでも天下を取るか 新サービス『Stadia』の衝撃」)。重たい処理はゲーム機ではなくサーバー側でできるだけやろうという動きが見受けられますね。

通信の遅延が気になるので端末側で処理しようというのが、これまでのコンピューティングの流れでした。ゲームの分野でもこの20年、ゲーム機を軸とした分散処理が中心でした。ですが、クラウド技術が進んできたことで、中央処理、集中処理に技術トレンドが移ってきています。

 ただ、それを促しているのは、技術だけでなく、ライフスタイルの変化が影響しているのではないでしょうか。家の中だけでなく、電車やカフェ、公園でも、場所にしばられることなく、ゲームを楽しめることが、今はとても求められている。

 モバイルのゲームが急激に発達していますが、これまで中核をなしていたコンソールとの融合が進むことで、集中処理のクラウドゲーム環境がゲーム業界にも入ってきているのだと感じます。

最後に、今後リリースが予定されている一押しのタイトルを教えてください。

18年にE3で発表した『Gears 5』や『Halo Infinite』ですね。Xbox One X向けの高画質技術「Xbox One X Enhanced」に対応したゲームであれば、4KかつHDRの非常にきれいな映像でプレーできます。スタジオが増えたことによって、今後、どんなタイトルが生まれてくるかは私も楽しみにしている部分です。ぜひご期待ください。

『Gears 5』。国内のリリース時期は未定
『Gears 5』。国内のリリース時期は未定
『Halo Infinite』。国内のリリース時期は未定
『Halo Infinite』。国内のリリース時期は未定
檜山太郎(ひやま・たろう)氏
1987 年に東芝入社(情報通信システム国際事業部)。東芝情報通信システム英国(イギリス)社、東芝アメリカ情報システム社などを経て、2016年に東芝クライアントソリューション社 取締役。2017 年8 月に日本マイクロソフト入社。執行役員 常務コンシューマー&デバイス事業本部長に就任

(写真/辺見真也、写真提供/マイクロソフト)