ゲーム、アニメ、ライブなどを掛け合わせ、人気タイトルを育てるブシロード。関連CDシングルがオリコン上位を占めた『BanG Dream!(バンドリ!)』など、ヒット作を次々生み出している。そんな同社が次に仕掛けるのは“男性版”バンドリ!とDJ。創業者で取締役の木谷高明氏に話を聞いた。
カードゲーム『カードファイト!! ヴァンガード』で創業し、現在はアニメ、ゲーム、ライブエンターテインメントなどのクロスメディアプロジェクトを得意とするブシロード。
ガールズバンドをテーマにした「BanG Dream!(バンドリ!)」では、キャラクターを演じる女性声優陣が、作品と同じバンドを実際に組み、楽器を演奏するという仕掛けで話題を呼んだ。スマートフォン向けゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!(ガルパ)』のユーザー数は900万人を突破。2019年2月に6タイトル同時リリースされた関連CDシングルは、すべてがオリコン週間ランキングのTOP10に入るなど、大ヒットしている。次々と新たな形のエンターテインメントを投入する同社の取り組みについて、創業者で取締役の木谷高明氏に話を聞いた。
バンドリ! はアニメ、ゲーム、リアルライブなどさまざまに展開して大ヒットしています。ヒットの要因はなんでしょう?
『ガルパ』の出来が良いことは大きいですが、リアルライブやリアルイベントなどを頻繁に開催していることもあります。19年2月には、作中のガールズバンドが出演する「BanG Dream! 7th☆LIVE」を日本武道館で3日間にわたって開催しました。会場の来場者は、1万1000人が3日間で計3万3000人。ライブビューイングにも3万人近くお越しいただきましたから、合計でのべ6万人です。規模はどんどん大きくなっています。
次は5月18日、19日にメットライフドーム(埼玉県所沢市)で、ガールズバンド・SILENT SIRENとの“対バンライブ”が決定しています。
SILENT SIRENは雑誌の読者モデルなどで結成されたガールズバンドですが、いまや、かなりの人気ですよね。
そうですね。“アニメ業界”と“芸能”との対バンなんて、今までにない異色の組み合わせだと思います。実はバンドリ! のメインバンド・Poppin’Partyは、初期にはSILENT SIRENのパフォーマンスを参考にしていたんです。一つの壁を越えるチャレンジとなりました。
とにかくあっと驚く仕掛けが多いです。
19年の正月には、地上波テレビのTOKYO MXで『24時間バンドリ! TV』を放送しました。1月2日の23時30分から24時間、アニメ第1期やライブ映像などバンドリ! 漬けの1日をお届けしたんです。
地上波だけでなく、YouTubeでも同時配信しました。YouTubeの同時接続者数は多い時で2万8000、平均でも1万6000ぐらいでした。全体でも100万回再生を記録しました。
今は新規タイトルを立ち上げるのが本当に難しくなっています。ですから、各社とも今までのものを大事にする方向に向かっています。当社もそうです。もちろん新規のタイトルを毎年2つぐらいずつ出そうとはしていますが、やっぱり今までのヒットタイトルを大事に大きく育てていくことが必要です。そうすると、一番手はバンドリ! になるんです。
“男性版”バンドリ!プロジェクトをスタート
バンドリ! では新たなプロジェクトが発表されました。
男性版バンドリ! となる「ARGONAVIS from BanG Dream!(アルゴナビス from バンドリ!)」プロジェクトです。函館を舞台にした大学生のボーイズバンドを描く作品ですが、こちらもキャラクターを演じる男性声優など5人が、Argonavisというバンドを結成しました。19年2月には、ファーストシングル『ゴールライン』を発売しています。
「ARGONAVIS from BanG Dream!」プロジェクトのターゲットは女性ですか?
男女比率は3:7、男性も3割ほどいてほしいです。そのため、男性も好感が持てるようなメンバーをそろえたつもりです。(ビジュアル素材を見ながら)イケメンだと思いません? 男って自分に対して客観的じゃないですか。なので、「まあ、彼らなら売れてもいいかな」と思ってもらえるレベルにすることが大事だと思うんです。
男性をテーマにしたプロジェクトは初めてですよね?
初めてです。「ターゲットは10代から40代までとし、3割は男性も欲しいよね」と話し合いました。
ガールズバンドのバンドリ! と絡んでいくことはありますか?
ありません! 別のプロジェクトを混ぜるとバンドリ! の世界観を描くのが大変になります。世の中のコンテンツの尺が短くなっている中で、2つのことを同時に描くのは難しくなったとも考えています。
映画でも、『タイタニック』のように3時間を超える作品では、歴史的大事件と恋愛の両方を描けましたが、最近の映画は2時間程度と短めになっていますよね。バンドリ! でも、バンド活動と恋愛の2つは描ききれない。そうすると、恋愛は邪魔になります。
初めてのボーイズプロジェクトとして目指すところはありますか?
19年5月17日に、舞浜アンフィシアター(千葉県浦安市)でのファーストライブが決定していますが、いつかは男性バンドとしてドーム級の大きな会場を目指したいですね。アイドルグループではドーム級はたくさんいると思いますが、男性バンドとなると数は多くない。音楽活動だけでは難しく、アプリとかデジタルの後押しがないと実現しにくいと思っています。
声優が実際にバンドを組んで演奏するバンドリ!、ミュージカルを原作として、舞台版を演じる役者がアニメ版の声優も務める『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』と続いて、その次のプロジェクトはどんなものになりますか?
今度はDJがテーマです。DJライブ×アニメ×ゲームのメディアミックスプロジェクト『D4DJ』を先日発表しました。
きっかけは17年のF1シンガポールグランプリに併催された野外ライブです。The Chainsmokersという米国の2人組DJユニットのパフォーマンスを見た瞬間、「次はDJだ!」とアイデアが降りてきたんです。
これまで2回テストイベントを開催してきましたが、19年7月20、21日には幕張メッセで『D4DJ』としてのファーストイベントを開催する予定です。19年はクラブイベントの開催を通じて実験を重ねていきます。アルコールを出すとどうなるか、どうお客さんを回遊させようか、クラブイベントで着席にしてみたらどうなるのか、など。単なるアニメソングのクラブイベントではなく、オリジナルコンテンツを作りたいので、いろいろ試していきます。
クラブイベントということで、これまでのターゲットとは異なってきますか?
そこは、いかに少しずつずらすかが大事だと思っています。キャラクターが女の子なので、9割ぐらいは男性ですが、女性も増やしたいですね。年代は10代から50代までを取りたいです。
50代まで?
はい。50代までです。ですから、1970年代~80年代の世代を超えた名曲もカバーしていきたいです。
今は思い切りのいい天才しかヒットを出せない時代
かつては、いわゆる“オタク”とそうでない層の間に断絶があったのに、今の20代ぐらいになると、みんながベースにオタク気質を持っているように感じます。
あまりオタクという言い方はしたくありませんが、熱心なファンとライトユーザーの境界がだんだんなくなってきたとは思います。一見、普通に見える女性が、コアなスマホゲームにものすごくハマっている。いわゆるオタク的なもの、秋葉原的なものが、他の街でも当たり前の風景になりつつあります。むしろ、秋葉原の時代が終わったと言ってもいいかもしれません。
また、こんなデータもあります。リズム&アドベンチャーゲームである『ガルパ』のユーザーが、それ以外で一番多くプレーしているゲームは、バトルロイヤルゲーム『荒野行動』(中国・NetEase Games)だというんです。中高生が多く、男女比は7:3ですが、両方やっているユーザーが多いんです。
全く対極にありそうなゲームですよね。
そうなんです。エンタメに限らず、世界中で情報や文化がすべて地続きになって、いろいろなものが互いに受け入れやすくなっているのだと思います。
ということは、海外勢のゲームが日本に入りやすくなった、ということです。新規性のあるタイトルが海外から来る一方、日本のゲーム会社ではなかなか新規の企画が通らず、焼き直しみたいなものばかり出てくる。マーケットのサイズは変わらないのに、海外勢の比率がどんどん上がる。そんな傾向が強まってきています。
日本勢にとっては厳しい状況ですね。
「秀才が机の上で考えて出した企画じゃ大ヒットは出せない時代だよ、思い切りのいい天才しかヒットを出せない時代だよ」と言っています。人がやっていないことを思い切ってやらないと大ヒットは出ないと思います。
今、当社は“IPデベロッパー”になろう、と言っています。不動産のデベロッパーをイメージいただけると分かりやすいのですが、電鉄会社が何もないところに線路を作って、球場を作って、デパートを作って、住宅地を作って、付加価値を付けていく。我々もIPの付加価値をどんどん高めて、みんなにより楽しんでもらえるものにしたいのです。
最後に、19年度に注力されるポイントを教えてください。
19年度は、スマホアプリゲームとアニメを中心にして、カードゲーム、音楽、マーチャンダイズ、出版、タレントビジネス、ライブイベントと、展開力を高めながら、既存タイトルを強化していきます。そうして、新規タイトルが控える20年に備えたいと考えています。
(写真/稲垣純也)