2019年3月期決算(第3四半期)段階で最高益を更新しているコーエーテクモホールディングス。中核を担うコーエーテクモゲームスが勢いづいている。苦戦してきたスマートフォンゲームでの成功体験を糧に、500万本級の家庭用ゲーム、月商10億円のスマホゲームを開発できるグローバル企業への成長を目指す。
中国でのスマホゲームの成功で自社の努力不足を認識
2018年は業績が好調ですが、要因は?
発表している決算の数字がよく見えるのは、3、4年前から進めてきた、IP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)の強化・活用の取り組みがここで花開き、収益を押し上げてくれた結果だと考えています。18年は、家庭用ゲーム機向けパッケージタイトルだけではなく、スマホゲームアプリにもしっかり対応しようと社内に言い続けてきました。しかし、実際にはスマホゲームに舵(かじ)を切れない状態で、チャレンジするための仕込みを続けていた年だったと思います。
具体的には、家庭用ゲームでセールス500万本級、スマホゲームで月商10億円級のタイトルを作るという目標を掲げてきました。家庭用ゲームでは『仁王』が全世界で長期間好調を維持していて、現在250万本を達成しました。目標には届いていませんが、次回作に向けて道筋が見えてきたと考えています。
スマホゲームでは、IPを提供している『三國志2017(国内名は新三國志)』(開発は中国・四川天上友嘉網絡)のように、海外を含めて月商20億円規模になったタイトルはあります。しかし、当社が開発・運営しているわけではないので、自社制作のスマホゲームで月商10億円という目標は継続中です。
『三國志2017(新三國志)』は中国国内で成功しているのですね。
そうです。本来なら社内で開発すべきアプリだと思うのですが、我々にはできなかった。ただ、成功する確証は得られました。「IPが力不足で、スマホゲームで成功できない」のではなく、「我々のやり方が悪かったから、これまで成功しなかった」という事実を再認識しました。
だから「他社が我々のIPで成功しているのだから、我々にもできないはずはない」という意識で、スマホゲームの開発、運営などの見直し作業に取り組んでいるところです。
実は『三國志2017(新三國志)』の売り上げは、日本国内でも好調なんです。これまで、アジア各地域やグローバルで主流のアイテム課金(短時間にゲームを進行させる課金など)モデルは、日本ではあまり成功しないのではと思っていました。日本ではガチャによる課金モデルが一般的だからです。しかし、日本でもアイテム課金が通用するじゃないか、という発見がありました。
グローバル視点で存在感ある企業規模に拡大目指す
中国にはすでに「三国志系のスマホゲーム」は数えきれないほどありますが、その中で成功した要因は何でしょう?
あくまでも仮説ですが、PCゲームの勃興期から、当社は『信長の野望』や『三國志』などのシリーズを展開していました。その時代に海賊版で遊んでいた人たちの中では、三国志のゲームならコーエーがオリジナルという意識があったのではないでしょうか。
そうしてコーエーの『三國志』を遊んでいた人たちが、やがてゲーム会社の経営層になり、コーエーに『三國志』のIPを貸してほしいという依頼をくださるようになりました。これが3、4年前のことです。そして、もし自分たちで『三國志』をスマホゲームにするなら、こうしたいとアレンジをしてくださったのが『三國志2017』の誕生につながったのではないかと思います。
『三國志』のIPの強さがあったということですね?
そうですね。ただ、社内(日本国内)にいると、「『三國志』ってIPなの?」という感じで、自分たちの持つIPの価値に誤認識があったのかもしれない。彼らの成功によって、我々のIPの強さを知り、非常にいい刺激を受けました。
我々が勘違いしていたことの1つが、スマホゲームの開発を始めるときに、すでにパッケージで販売しているオリジナルゲームのビジネスを邪魔しないように、ちょっと変化を付けようとしていたことです。これは余計な考えでした。
多くのユーザーは、家庭用でも、PC用でも、スマホ用でもちゃんとした『三國志』を遊びたかったんだということを理解しました。我々は誤った道を進んでいたんだ、という学びができたのです。19年はそうした反省を基に、社員一同がどのように頑張ってくれるのか非常に期待しています。
アプリ開発を増やすなら、開発者も増やしますか?
19年4月には、新卒が100人近く入社予定ですし、20年には横浜みなとみらいに新本社ビルが完成しますから、開発人員をさらに増やせるようになります。スマホゲームだけではなく、家庭用ゲームでも500万本級のタイトルを開発するには人員が必要です。開発体制なども見直して、ラインを増やさなければ難しいと思っています。
全世界で見ると、PlayStation 4(PS4)も販売台数が1億台に届きそうですし、SteamなどのPCプラットフォームも非常に強い。それに加えて、スマホゲームアプリ市場が全世界で12兆円規模まで拡大していると言われています。それなのに、自社の売り上げ規模が一定のままだとすれば、シェアが減っているということです。市場の伸びに合わせて、会社規模もある程度大きくしていかなければ、いつの間にか負け組になってしまうのではないか、という危機感があるんです。
グローバルの視点で見ると、今のコーエーテクモゲームスの規模は小さいなと感じています。世界中の国々でコーエーテクモゲームスを認識していただくためにも、企業規模は大事ですから。家庭用ゲーム機向けで500万本級の大型タイトルを1本出したら、次は3年後――というサイクルではなく、毎年コンスタントに開発できる底力を付けたいですね。
シンガポールを起点にスマホゲームを展開
500万本級を狙う新タイトルは19年に出ますか?
全部は言えませんが、動いています。すでに『仁王2』を発表していますし、米マーベルと任天堂が協業している『MARVEL ULTIMATE ALLIANCE 3: The Black Order』(Nintendo Switch、2019年発売)の開発は当社なのです。
また、シリーズ最新作『ファイアーエムブレム 風花雪月』は、開発元のインテリジェントシステムズと共同で制作しています。こういうタイトルの実績を重ねて、その経験を基にオリジナル作品で500万本タイトルを目指します。
グローバル戦略、特に中国市場はどのように考えていますか。
中国市場は、できれば頑張って取り組みたい。約30年前から中国にスタジオを持っていたものの、中国国内のゲーム事業では、正直、出遅れた感があります。同時に、リスクがあることを理解しているので、あまり本腰を入れていなかった部分もありますね。
今後、確実にビジネスができるなら出ていきますし、そういう状況でなければ、『三國志2017』のようにIPを貸し出す協業モデルもありでしょう。当面はある程度の距離感を保ちながら、柔軟な対応が求められると思います。
加えて、東南アジアが結構熱いと感じています。スマホゲーム中心のビジネスですが、インフラも充実してきています。5Gなども始まれば、スマホゲーム市場は大きく伸びるのではないでしょうか。
シンガポールに現地法人(開発スタジオ)があるので、そこを起点に、同じく開発スタジオがあるベトナムや、タイ、フィリピン、マレーシア、インドなどにスマホゲームを展開する方針です。実際、18年にはスクウェア・エニックスの『ディシディア ファイナルファンタジー オペラオムニア』グローバル版を展開したのですが、運営が非常にうまくいきました。これも1つ、自信になったケースです。
『DOA6』のeスポーツ世界大会を開催
eスポーツへの取り組みは?
3月1日に発売した『DEAD OR ALIVE 6』(DOA6)を使ったeスポーツ大会「DEAD OR ALIVE 6 World Championship」(賞金総額1000万円)を実施することを発表しています。『DOA6』を開発する前からeスポーツへの対応は必要だと話していたら、18年に流行語大賞にノミネートされるまで世の中が盛り上がってきました。
実は『DOA6』にはeスポーツモードのような設定があって、キャラクターのコスチュームが(スポーツらしく)おとなしいデザインになるんです。いろいろな層の人に見て楽しんでもらえる仕掛けを用意することで、『DOA6』の試合を認知してもらいたいと思っています。
もともとファン感謝祭「DEAD OR ALIVE FESTIVAL」を、15年から続けてきました。日本と北米、欧州の選手を東京に集めて、大会を開催する従来のイベントを、eスポーツというワードに置き換え、賞金金額を大きく増やしてリニューアルしたのが「ワールド・チャンピオンシップ」なんです。
海外を含めて、選手層はかなりいるんですか?
これまでは、当日の本選に参加できる選手を16人まで絞って、そこからトーナメント戦を実施してきました。「DEAD OR ALIVE 6 World Championship」では、16人に絞りこむため、世界各国で予選会を開催します。これからさらに選手層を厚くすることも大事ですし、同時に観客も増やしたい。そのためにもまずはゲームをたくさんの人に遊んでもらうことがスタートかなと思っています。
前作の『DOA5』では、Free To Play(基本無料、必要に応じて課金する形式)にしたことでプレーヤーが爆発的に増えました。そうした事例もあるので、たくさんの人に遊んでもらうための施策をどうするのかは、今後の課題です。実際、『DOA6』を開発できたのも、長期にわたって『DOA5』をFree To Playで遊んでいただいた収益があったからこそなんです。
5年も6年も続けてきてコミュニティーが醸成されてきた『DOA5』を、『DOA6』を発売したからと言って急に切り替えることはできません。『DOA6』でしなければならないことは、『DOA5』のコミュニティーなどを通して、一緒に楽しみを作っていくことだと思っています。
(写真/菊池くらげ、写真提供/コーエーテクモゲームス)