前回、『モンスターハンター:ワールド』の大ヒットとデジタル戦略の強化について語ったカプコンの辻本春弘社長。今回は、ここ数年同社が非常に力を入れているeスポーツの進展について聞いた。既に新リーグを立ち上げ、eスポーツの事業化に意欲を見せるカプコンの狙いとその将来像とは。

カプコンの辻本春弘代表取締役社長 最高執行責任者(COO)
カプコンの辻本春弘代表取締役社長 最高執行責任者(COO)

独自の新リーグを立ち上げ、eスポーツのビジネス化を推進

日本のゲーム業界にとって、18年はeスポーツの進展が大きな話題でした。カプコンも以前からeスポーツに注力されていましたが、状況はどう変わりましたか。

私は18年に発足した日本eスポーツ連合(JeSU)の理事もさせていただいていますが、はじめにeスポーツの現況について少し説明させてください。

 まず私自身、eスポーツはリアルスポーツの枠をさらに広げられる可能性があると感じています。リアルスポーツの場合、プロ選手になるということはかなりの身体能力が求められます。例えば、野球の大谷翔平選手のように160キロのボールを投げる、または打つといったことができる人は限られますからね。

 一方、eスポーツでは、リアルスポーツほど身体能力を必要としません。男女問わず同じ大会に参加できますし、小学生が大人に勝つことだってあり得ます。また、ハンディキャップを持った人だって、同じように競うこともできます。本来、スポーツというのは誰もが参加できて楽しめるものだと考えています。IOC(国際オリンピック委員会)やさまざまな企業がeスポーツに関心を示しているのは、そうしたスポーツの本質における将来の可能性を感じているためだと思います。

とはいえ、eスポーツが普及することによるカプコンのメリットは大きいですよね。

カプコンがeスポーツで「ストリートファイターV」のブランドを拡大するという側面は否定しません。ですがその半面、スポーツの本質論で言えば、eスポーツを世の中に普及させていくということも、併せて考えていかなければならないのです。それは企業としての使命ですね。

 eスポーツには多くの可能性があります。幸いにしてカプコンには「ストリートファイター」が存在したのに加え、以前から海外を中心にゲーム大会を展開してきたこともあり、この世界で中心的なIP(ゲームのキャラクターなどの知的財産)の一角を担うことができました。そうしたことを踏まえれば、カプコンがeスポーツを積極的に展開するのは当然でしょう。「ストリートファイター」を使って、グローバルでどうeスポーツを普及させていくかというのは重要なテーマです。

『ストリートファイターV アーケードエディション』(c)CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
『ストリートファイターV アーケードエディション』(c)CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.

19年2月から、カプコン「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」が開幕し、既に戦いが始まっています。こちらもeスポーツ普及に向けた、新たな取り組みと言えますね。

これは従来、個人戦だった「ストリートファイター」を、団体戦でやろうという発想で立ち上げました。1チーム3人で、その構成は「エクストリームクラス」と呼ぶJeSU認定のプロと、プロではないけれど「ストリートファイター」で一定の実績がある「ハイクラス」の選手(19年3月31日時点で満22歳以下の年齢制限あり)、そしてプレー経験の少ない「ビギナークラス」の選手となっています。これで6チームが対戦し、エクストリームが勝てば3点、ハイクラスが2点、そしてビギナーが1点で毎試合、勝敗を争います。自分だけ負けるわけにはいかないので、各チームともプロが攻略方法などについて他の選手を指導してくれているというのは、これまで見られなかった特徴だと思います。試合中でも後ろから細かく指示を出していますしね。

 既にカプコンには「CAPCOM Pro Tour」という世界的なeスポーツの大会があるのですが、ここに登場するトップランカーたちは飛び抜けた実力者ばかりです。新しいストリートファイターリーグでは若い人にフォーカスを当て、次世代のプロへの道筋を作ることが大きな狙いです。経験の少ないビギナーでも、チームに入れればプロの指導が受けられて、さらに上のレベルを目指せます。

「CAPCOM Pro Tour ジャパンプレミア」の会場風景(c)CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
「CAPCOM Pro Tour ジャパンプレミア」の会場風景(c)CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.

地方を巻き込み全国、そして海外展開へ

新リーグによって、eスポーツのすそ野が広がりそうですね。将来への構想もあるのでしょうか。

まずは3月21日のグランドファイナルがどれくらい盛り上がるか、非常に注目しています。というのも、カプコンは「ストリートファイターリーグ」を興行として展開していくからです。eスポーツをお金を払ってでも「見てみたい」と思わせるコンテンツに育てなくてはなりません。配信放送の放映権についても検討する必要があるでしょう。IPホルダーが運営する大会というのがポイントで、権利関係がしっかりしているという点は大きな強みですね。このように「ストリートファイターリーグ」を1つの事業として成立させることが、eスポーツ全体を盛り上げることにつながると思っています。

 あくまで構想ですが、将来的にはこれらのチームを各地域に展開して、Jリーグやプロ野球のようにしたいと考えています。地方自治体や地場の企業がチームをスポンサードすることで、eスポーツによる町おこし、村おこしのような地方活性化につなげられるのではないでしょうか。「ストリートファイターリーグ」でeスポーツの地域密着を促進する。これが成功すれば、将来はこの“仕組み”自体をパッケージ化して、韓国や台湾などへ持っていきたい。「ストリートファイター」の韓国リーグ、台湾リーグができれば、その先にアジアチャンピオンシップだって夢ではありません。

 一方、米国は別の展開を考えていて、4月から「Street Fighter Pro League - USA」を開催することを発表しました。これは「CAPCOM Pro Tour」とは別に行うもので、日本と同じ3人編成の6チームによる総当たり戦ですが、こちらはプロだけでチームを編成します。そして今年末の決勝大会「カプコンカップ」では、「CAPCOM Pro Tour」の決勝だけでなく、「Street Fighter Pro League」に関連したトーナメントも開催する予定です。

日本の「ストリートファイターリーグ」はチームにアマチュアが含まれるのであれば、米国リーグとは違った形ですね。

日本も春シーズン(4~6月)はチームにアマチュア選手が含まれますが、秋シーズンはプロだけのチーム編成で展開することを検討しています。

 プロサッカーのJ1、J2のようにレイヤーを設けて、参加人数を増やすことも課題の1つですね。小学生や中学生だけのリーグというのもあり得ますが、いずれにしても各地域の協力が大きな鍵を握ると思っています。この点については、企業としてeスポーツを通じた地域振興をしっかりやっていくつもりです。事業としていきなり黒字とはいかないでしょうが、現在、権利の扱いや選手のマネジメントなどを含め、プランを検討しているところです。

データ戦略を推進し、市場開拓の手立てに

『モンスターハンター:ワールド』が話題の中心だった18年ですが、19年はどのような年になりそうですか。

1月25日に発売した『バイオハザード RE:2(以下、RE:2)』が発売初週で300万本を出荷し、1カ月で400万本まで伸びるという好調な出足となりました。過去、非常に評価の高かった『バイオハザード2』を、『バイオハザード7』で導入した「RE ENGINE」という最先端の開発環境で再構築した作品ということもあり、『RE:2』と『バイオハザード7』で、ユーザーの傾向にどのような違いが生じるか注目しています。

『バイオハザード RE:2』(c)CAPCOM CO., LTD. 1998, 2019 ALL RIGHTS RESERVED.
『バイオハザード RE:2』(c)CAPCOM CO., LTD. 1998, 2019 ALL RIGHTS RESERVED.

 あとは引き続き『モンスターハンター:ワールド』で培ったデジタル戦略を推進していきます。3月8日に発売した『デビルメイクライ5』でも、『RE:2』で得たデータや経験をフィードバックしていくつもりです。さらにそれらの知見を、19年秋に配信を予定している『モンスターハンターワールド:アイスボーン』に生かしていくことが大切でしょう。デジタル化によって、ゲームソフトも昔のように売って終わりのビジネスではなくなりました。イノベーションを起こせるとしたら、データ活用を継続しながら事業戦略を強化していくことだと思います。

『デビルメイクライ5』(c)CAPCOM CO., LTD. 2019 ALL RIGHTS RESERVED.
『デビルメイクライ5』(c)CAPCOM CO., LTD. 2019 ALL RIGHTS RESERVED.
『モンスターハンターワールド:アイスボーン』(c)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
『モンスターハンターワールド:アイスボーン』(c)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

この1年のデジタル戦略からカプコンが得た経験を踏まえたうえで、日本のゲーム産業の変化をどう見ていますか。

すでにゲーム以外の娯楽はデジタルで楽しめるようになっています。家に帰ってから好きな時に映画を見たり、電子書籍を読んだりすることが簡単にできます。デジタル配信によって、ゲームもそうした選択肢の一つとなりました。ゲーム業界にとって、チャンスが増えていると言えますね。

 デジタル配信によってユーザーの姿がより明確に見えてきました。例えば『モンスターハンター:ワールド』では、15歳くらいになると自分でゲームを購入し始める傾向があることが分かってきました。iPhoneの発売が07年ですから、彼らが5~6歳くらいのときには身近にスマートフォンがあるという世代です。そうした子どもたちが『モンスターハンター:ワールド』をプレーするために、初めてゲーム専用機であるPlayStation4を買ったわけです。

 スマホですでにゲームに触れてきた若い世代でも、ゲーム専用機を知らない人たちもたくさん存在しています。彼らが次世代のユーザー層になるわけです。こうしたことも、データがあるからより精度の高い仮説が立てられ、決断ができるのです。

最後になりますが、CESA(コンピュータエンターテインメント協会)のイベント委員長として今年のTGSについて抱負をお聞かせください。

TGSはマルチプラットホーム、マルチデバイスにおいて、さまざまなゲームを4日間で認識してもらえる機会として国内外に定着しました。eスポーツに関しても、TGSの場を活用して日本に向けた普及活動ができたと思っています。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)もそうですし、昨年は「日本ゲーム大賞U18部門」をTGSで開催し、若い人材の発掘にも力を入れました。ゲームにまつわる幅広い企画やコンテンツを入れ込んできたからこそ、出展社や来場者が増えてきたという経緯があります。今年のTGS2019でも、さらに企画やテーマ性を強化し、いかにしてゲームが進化していくのかということを実感してもらえるイベントにしたいと考えています。

辻本春弘(つじもと はるひろ)氏
カプコン 代表取締役社長 最高執行責任者(COO)。1964年、大阪府生まれ。大学在学中よりアルバイトとしてカプコンで働き始め、機器の修理などの現場業務の経験を積む。1987年、大学卒業と同時にカプコンに入社。当時の新規事業だったアミューズメント施設運営事業の立ち上げに参加し、業界ナンバーワンの高収益ビジネスモデルの確立に貢献。1997年には取締役に就任し、以後は家庭用ゲームソフト事業の強化に注力。常務取締役(1999年~)、専務取締役(2001年~)を経て、2004年からは全社的構造改革の執行責任者として、コンシューマ用ゲームソフト事業の組織改革(開発・営業・マーケティングを一体化した組織への改革)、海外事業の拡大などに携わる。2006年に副社長執行役員となり事業全体を統括。2007年7月には創業者である父・辻本憲三(現、代表取締役会長最高経営責任者)から社長職を引き継ぎ、代表取締役社長 最高執行責任者(COO)に就任し、現在に至る

(写真/稲垣純也、写真提供/カプコン)