本特集の第1回「ナイキ『3つのパーソナライズ革命』に身震い」で触れたように、顧客のデータを基に個々人に合った機能や情報を提供することで顧客との関係を強化するのがナイキの戦略だ。同社はその重要な役割を担う「NIKEアプリ」を活用し、リアル店舗での買い物体験までも変えようとしている。
2018年11月にニューヨーク(NY)5番街にオープンした「House Of Innovation 000」。6層(地下1階~5階)建てで、約6300平方メートルのフロア面積をもつ旗艦店だ。
同店では、NIKEアプリユーザーであればまずチェックインを行う(ユーザーでなくても買い物は可能)。そのうえで試着したい商品が見つかったら、アプリで値札のバーコードやQRコードをスキャン。すると、その商品がアプリ上に表示される。アプリ上で商品を選択して試着希望のボタンを押すと、スタッフが試着室までその服を持ってきてくれる。
レジがないのも特徴。商品のバーコードをスキャンしたうえで「すぐに買う」というボタンを押すと、決済は終了。あとは自分でハンガーを外して袋に入れて持って帰るだけ(アプリユーザーでない場合は店頭のスタッフに声を掛けて決済を依頼する)。
つまり、試着したい商品の選択や試着依頼、決済といったほとんどのプロセスはアプリ上で行う。それゆえ、店員を探して試着したいことを伝えたり、レジに並んで会計を待ったりする必要はない。リアル店舗にいながら、ECの利便性を“いいとこどり”した驚きの買い物体験なのだ。
ナイキ ダイレクト担当プレジデントのハイディ・オニール氏は、「消費者は商品を触ったり試したりするためにまだ店舗を求めている。我々はデジタルのように反応が早い環境を作ることで、ダイナミックでアクティブな買い物体験を提供する」とコメントしている。
買い物をするうえでの面倒なプロセスをデジタルに集約する一方、リアル店舗でしかできないことに注力しているのもポイントだ。
中でもカスタマイズが充実している。1階でシューズのカスタマイズができるのに加え、5階ではアパレルのカスタマイズが可能。パンツやスカーフ、バッグなどの素材やパーツ、色を選べる。さらに、「レースに出たい」「もっと早く走りたい」など、スポーツに関する相談に対するアドバイスをもらうこともできる。
また、試着室では「ヨガスタジオ」「インドアジム」「ナイトラン」など、シチュエーションに合わせてライティングを変えられる。その服を着た自分がどのように見えているかを、さまざまな状況で試すことができるのだ。スタッフの愛想も良く、デジタル化しても「おもてなし」を削っているわけではない。このあたりはAmazon Goと似ている。
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