ナイキが2019年3月中旬に発売予定のシューズ「ナイキ アダプト BB」と18年末にスタートした「NIKEアプリ」、そして実験店舗「House of Innovation」。これらは一見関係ないように思えるが、背景には「製品」「顧客関係」「購買体験」に革命を起こす戦略があった。

発表会は2019年1月15日(現地時間)、米国ニューヨークで開催された
発表会は2019年1月15日(現地時間)、米国ニューヨークで開催された

 「今日はナイキにとって新しい1日だ」

 ナイキが“スマートシューズ”をうたう「ナイキ アダプトBB」(以下、アダプトBB)を発売する(19年3月中旬発売予定、税込み3万7800円。詳しくは記事「ナイキが“スマートシューズ”発表 スマホでフィット感を調節」を参照)。

 冒頭の言葉はニューヨークで開催された発表イベントの最初に、イノベーション担当バイスプレジデント(副社長)のマイケル・ドナヒュー氏が発したものだ。このシューズの特徴は、スマホの専用アプリを操作して靴のフィット感を自由自在に変えられること。

 ボタン操作でフィット感を調整できる「自動靴ひも機能」を搭載したシューズといえば、同社が17年に発売した「ナイキ ハイパーアダプト1.0」が記憶に新しい。このシューズは1989年に公開された映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』でマイケル・J・フォックス扮(ふん)するマーティ・マクフライが履いていた、足を入れると自動でひもが締まる靴が初めて一般向けに商品化されたものとして大きな話題となった。ただ、特定のスポーツ向けではなく、8万円超とスニーカーとしては手が出しにくい価格だったため、スニーカー好きや『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』のファンなどが買い求めるガジェットにとどまっていた。

17年に発売された「ナイキ ハイパーアダプト1.0」(税込み8万1000円)
17年に発売された「ナイキ ハイパーアダプト1.0」(税込み8万1000円)

 それに対し、今回のアダプトBBは価格が4万円弱と半額程度になり、スマートフォンとの連携機能が追加され、バスケットボール向けと用途が明確になった。そういう意味では、ハイパーアダプト1.0が進化した実用モデルといえるのかもしれない。しかも日本でアダプトBBに関する情報は製品概要を簡潔に伝えるニュースリリース1本くらいで、日本のメディアから配信されている記事はハイパーアダプト1.0の登場時に比べて格段に少なく、「ハイパーアダプトの第2弾」という内容のものが多かった。

 しかし、ニューヨークで開催された発表イベントに足を運び、同社幹部たちによる1日がかりのプレゼンを聞いた筆者は、その壮大かつさまざまな可能性を秘めた内容に身震いがした。この製品がハイパーアダプトの第2弾ではないことは、製品名が「ナイキ ハイパーアダプト2.0」でも「ナイキ ハイパーアダプトBB」でもないことからも分かる。さらに、ドナヒュー氏は「『ナイキアダプト』は全く新しいプラットフォーム」とも述べている。

アダプトBBはスマホの専用アプリで操作して靴のフィット感を調節することが可能
アダプトBBはスマホの専用アプリで操作して靴のフィット感を調節することが可能

 そのキーワードは「パーソナライズ」だ。「ZOZOスーツ」や資生堂の「オプチューン」、ネスレ日本の「ネスレ ウェルネス アンバサダー」など、デジタルテクノロジーを活用したパーソナライズド商品はあらゆるジャンルで広がっている。

 そんな中、ナイキも「NIKEiD」など製品のカスタマイズの取り組みは行っていたが、ユーザーが好みのデザインやパーツを選んで組み合わせることにとどまっていた。今回の製品は個々人が求める靴のフィット感を瞬時に作り出し、しかもそれがスポーツのパフォーマンス向上につながるという。その点でナイキ流製品パーソナライズの革命といえるだろう。

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