厳選されたコーヒー豆が毎月自宅に届き、“世界一の焙煎(ばいせん)技術”で極上のコーヒーが飲める──。パナソニックが、「The Roast」というサービスでサブスクリプションに挑んでいる。数ある事業領域から、なぜあえてコーヒー焙煎に狙いを定めたのか。特集の第2回は、その真意を探る。
「あらゆるモノがネットにつながる『IoT』と調理家電を掛け合わせたら、何ができるか」。生活家電を手掛けるパナソニックのアプライアンス社が導き出した答えは、意外にもコーヒーによるサブスクだった。
The Roastは、1台10万円(税別)の“スマート”コーヒー焙煎機と、定期頒布のコーヒー豆(生豆)をパッケージ売りするサービス。契約すれば、1袋200グラムの豆が毎月、複数届く(2種は月額3800円、3種は同5500円。いずれも税別)。利用者は、パッケージのQRコードを、専用のスマホアプリで読み込み、焙煎機に生豆をセット。アプリの「ロースト開始」ボタンを押すだけで、本格的な自家焙煎ができる。
「ハードウエアだけではだめだ」
パナソニックはなぜ、コーヒーの、それも焙煎というニッチな分野を選び、しかもサブスクというビジネスで攻めようと思ったのか。
プロジェクトの事業リーダーを務める井伊達哉氏が、その理由を語った。「これまでのように、ハードウエアを作って売るだけではだめだという危機感があった。調理家電を進化させ、新しい食のサービスを提案したかった」。
コンビニコーヒーが起爆剤となり、日本のコーヒー消費量は順調に伸びている。しかし、これほど日常生活に溶け込んだ存在でありながら、本当においしいコーヒーを家庭でいれるには高度な技術が必要で、それは素人にはまねできない。そこを、家電メーカーであるパナソニックが解決すれば、新たな価値を生み出せるのではないかと考えた。
「実は、コーヒーの味は、生豆と焙煎で9割決まる。いくら最後の抽出を頑張っても、豆選びと焙煎をおろそかにすると、おいしいコーヒーは飲めない。しかも、いったん焙煎したら酸化が進み、2週間以内に飲まないと、味や香りが損なわれてしまう」(井伊氏)。
焙煎の精度を磨き、高品質な豆を供給し続ければ、新たなニーズがつかめ、継続利用も見込めるかもしれない。それは、家電の「売り切り型」で成長してきたパナソニックにとって、最も欲しい顧客だった。
実際、パナソニックは「CLUB Panasonic」という会員サイトを運営しているが、登録率は低い。新サービスと会員登録をひも付ければ、利用者の属性を詳細かつ正確につかめ、きめ細かくサービスを改善できる。その結果、満足度が高まれば、さらに継続率を伸ばすことも可能だと考えた。
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