花王の「キュキュット あとラクミスト」は共働き世帯で広がる食器洗いを楽にしたいというニーズに応えてヒットにつなげた新商品だ。飽和した市場で「あと1本」の需要をどう喚起したのか。「後で洗う」というターゲットに絞り込んだのはなぜか。プレゼン資料を通して見ていこう。
新型コロナウイルス感染症の拡大で、人々の生活は大きく変化した。自宅で食事する機会が格段に増えたのもその1つだ。家族と触れ合う時間が増えたのはいいが、食器洗いを負担に感じる人も多いだろう。花王が2020年4月に発売した「キュキュット あとラクミスト」は、そうした人にターゲットを絞った製品だ。
料理に使った鍋やフライパンに加えて、家族全員の食器を一気に洗うとなれば、それなりの手間がかかる。子供の世話がある、テレワークの続きがあるなど、食後すぐに洗い物を始められない理由は人それぞれだが、茶わんや皿を放置したままにしておくと、食べ残しが乾燥してこびりつき、汚れを落としにくくなる。そこで「あとラクミスト」の出番だ。
「あとで洗う」という3割がターゲット
食事の後、茶わんや皿にあとラクミストを吹きつけておけば、酵素や保湿剤の力で乾燥を防ぐことができる。翌朝まで放置した場合でも、直後に洗うのと大差ないレベルで汚れが落ちるという。最近は食器を水に浸しておく「洗いおけ」を使わない人が多いという背景もある。
「すべての人がターゲットではなく、後で洗うという約30%の人に役立つ製品」と説明するのは、花王ホームケア事業部シニアマーケッターの坂田美穂子氏だ。食器用洗剤はほとんどの家庭に普及しており、市場は飽和している。そこに「プラス1本を買ってもらうための提案」が、あとラクミストというわけだ。同様の商品として花王には、食器洗い用スポンジが届きにくい部分にスプレーする「キュキュット CLEAR泡スプレー」がある。
花王の社内には「後で洗う」というコンセプトが「ピンとこない」と言う人もいたという。そこでプレゼン資料の中で説得力を強めるために重視したのが「消費者の声」と「生々しい洗い物の写真」だ。
坂田氏のチームは17年から一般家庭を訪問して「おけを使うと他のお皿に汚れが移るし、量が多いと浸しきれない」「食べ終わった後、家族には自分で食器を水に浸してほしいのに、してくれない」「家族の食事時間にバラバラですぐに洗えない」といった声を集めた。そうした声から放置後の食器洗いに大きな負担があることをつかんだ坂田氏は、あとラクミストの企画に生かした。
プレゼン資料ではヒアリングで集めた生の声を随所に盛り込んだほか、ヒアリング時に撮影させてもらった洗い物の写真も見せている。プレゼン資料では良いイメージを与えるために美しいビジュアルを使うのが一般的だが、あえて「汚れ」を見せることで印象を強める工夫をしたわけだ。
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