本連載をベースに、大幅加筆・再編集した書籍「“秒速”プレゼン術」(日経BP)が2020年6月22日に発売となる。成果を引き出す効率化の技法「“秒速”プレゼン」をはじめ、多彩な新世代のプレゼン戦略を収録している。その中から、最も基本となるスライドの作成時間にまつわる新常識を紹介しよう。
2.1枚の説明「3分」から全体枚数を逆算
3.自分の強みをプレゼンに生かす
僕は、20年近く前からプレゼンの本を多数執筆してきた。これまでに見たスライドの数は、数千件に達するだろう。そこでたどり着いたのは、「プレゼンに正解はない」ということだ。業種や職種、伝えたい内容、伝える人、説明時間などで正しいプレゼンのやり方が変わってくる。だから、一概にこれが正解というルールを決めるのは難しい。
その一方で、これは絶対ダメ――という不正解のポイントは数多くある。よくある間違いは、見た目や細部にこだわるあまり、スライドを作る作業に時間をかけすぎてしまうことだ。見た目がきれいなデザインのスライドは高く評価される傾向がある。だが、日々の仕事の中で、スライド作りにどれだけ時間をかけられるのだろう。
平均して日に2件の商談があったとしよう。そのためのスライド作成にそれぞれ3時間かけていたら、それだけで毎日終わってしまう。日々の商談が2時間で、スライド作成が6時間となれば、合計8時間だ。移動時間などを考えたら、残業がマストになってしまう。
アフターコロナに求められる個人の成果
もちろん最初の1つは長い時間をかけてスライドを作り、後はアレンジすることで時短ができる、というケースもある。ただし、一切カスタマイズせずに通用するほど話は甘くない。相手が聞きたいことや知りたいことを入れ込まなければ、関心を持って聞いてはもらえない。自分の考えを伝え、相手を説得するには、提示する商品やサービスは同じだとしても、相手に合わせたものを用意すべきなのだ。
新型コロナウイルスの感染拡大で、ビジネスパーソンの働き方は一変した。リモートワークが前提となれば、上司の目が届かない場所で仕事をすることになる。もはや生真面目に働いているフリをしているだけでは通用しない。よりシビアに個人の成果が求められるようになる。だからこそ、必要以上に見た目や密度にこだわったスライドを作ろうと延々と時間をかけるのは、もはや時代に見合っていないのだ。
1時間の商談はスライド13~14枚
効率を考えると1時間の商談に使うスライドは、一から作り上げるとしても、2時間以内で作りたいところだ。では、スライド1枚を作るのにかけられる時間は何分か。1時間の商談に必要なスライドを丸ごと作るとして、その枚数から逆算していく。
まず、1時間の中で、挨拶や相手の質問などの時間を20分としよう。そう考えると、正味のプレゼン時間は40分程度になる。
これまで数え切れないほどのプレゼンを取材してきた経験からすると、おおむね平均的な説明時間は1スライドにつき3分だ。つまり40分の説明なら、13~14枚のスライドが必要となる。その13~14枚を約2 時間で作るのだから、1枚のスライドを作る時間は約10分という計算になる。まずはこの「1枚10分」を目安にしていこう。
「10分は短いな」と感じるかもしれないが、スライド作りに慣れてくれば可能だ。表紙などは時間がかからないし、製品の写真なども貼り付けるだけで終わるだろう。逆に、数値しかない表をグラフ化するのに時間がかかることもある。すべてのスライドを平均してこの程度ということだ。