DESIGN WORKS ANCIENT(京都府向日市)の「ポケトル」は、ステンレスのボトルを既存のものと比べて小型化した商品だ。120ミリリットルという容量で、持ち運びやすさが人気となり、累計100万本に達するヒット商品になった。開発に至る経緯を、手書きの企画書とともに見ていく。

累計100万本を達成したポケトル。今では、派生商品としてインスタントスープ用のボトルもリリースされた。日経トレンディと日経クロストレンドが発表した「2019年ヒット商品ベスト30」で28位に入っている
累計100万本を達成したポケトル。今では、派生商品としてインスタントスープ用のボトルもリリースされた。日経トレンディと日経クロストレンドが発表した「2019年ヒット商品ベスト30」で28位に入っている

否定的な意見のなか、3万~5万本は売れると確信

 DESIGN WORKS ANCIENT代表取締役の小林裕介氏が「ポケトル」を思いついたのは2018年。ゴールデンウイークの時期、出張中の旅先だった。人々が娯楽に繰り出すのを見て「風で飛ばないレジャーシートはどうだろう」などと、5案ほどひねり出したが、すべて決め手に欠ける気がした。

 そんなとき、手元のペットボトルが目に付いた。「僕のような大男でも、500ミリリットルのペットボトルを飲み切れないことがあるんです。そこで、市場にあるステンレスボトルは大きすぎるのではないかと考えたわけです」と元ラガーマンの小林氏は言う。

 通勤中や散歩中にちょっと飲むくらいなら、もっと少ない量でいいはずだ。小さいボトルなら荷物が軽くなり、持ち歩くときの負担も減らせる・・・・・・自社に戻った小林氏は、一気にポケトルの企画書を書き上げた。

実際の製品につながる主な項目を1枚に集約
実際の製品につながる主な項目を1枚に集約
鉛筆による手書きの企画書。アイデアをまとめただけだが、製品につながる要素がほとんど入っている。製品名やロゴの原案まで決まっているのがすごい

 大塚製薬のオロナミンCドリンクの容量は120ミリリットル。これが最小で最適な容量だと小林氏は考えた。上司に提案するなら「PowerPoint(パワーポイント)」を使うかもしれないが、小林氏の場合、企画者も決裁者も自分自身なので手書きで十分だ。

 アイデアに自信があったとはいえ、独立してからは苦労を重ねてきただけに、念のため、周囲にもヒアリングする。ミニマムなボトルの企画書を、社内外の知人に見せて意見を聞いた。

 「多くは『ニーズはあると思うけど、それほど売れないでしょう』という声でした。知人からは『失敗するところを見てやる』とまで言われましたね。しかし、自分としては初期ロットである3万~5万本くらいは、目新しさで売れると確信していました」

 「ただし、安物にしては駄目だと思った」と小林氏。「最初は1000円を切る価格にしたいと思っていました。周囲からは『1000円以下なら売れる』という声もあったからです。しかし、1000円を切ると一気に安っぽく感じられるので1200円にしました。それも良かったと思います」

 蓋を開けてみると、若い女性に加えて、それと同数ほどシニア層の女性も購入していた。薬を飲むための水や白湯などを入れるのに使うらしい。

イメージした製品形状を手書きでシンプルに図示
イメージした製品形状を手書きでシンプルに図示
続くページには「直径は缶コーヒーより細く」「オロナミンC 120ml」といった文字が書かれている。既存の飲料製品を基準に発想を広げていったことが分かる
ロゴの原案は、ポケットにボトルが入っている様子を横から模したもの。ロゴもだいぶ完成してきたタイミングの資料だ
ロゴの原案は、ポケットにボトルが入っている様子を横から模したもの。ロゴもだいぶ完成してきたタイミングの資料だ

 今ではポケトルの類似商品も登場しているが、売れているのは圧倒的にポケトルだ。とはいえ、ポケトルの強みは先行者利益だけでなく、小林氏の経験によるところも大きい。

 「ある展示会にステンレスボトルの大手企業の方がお見えになって、『こういう商品を作りたかったけど、(数は期待できないから)できないんだよね』と言っていました。物が売れる深層心理を、多くの人が分かっていません」

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