新規のスライドを作ろうとすると、テンプレートの一覧が現れる。ただ、一発でしっくりくるものが見つかることは少ない。時間をかけずスライドの見た目を良くする方法はあるのか。プレゼンテーションの書籍を多数執筆した戸田覚氏が、デザイン会社を経営する小牟田啓博氏に秘訣を聞いた。
2.バランスを取るには文字を濃いグレーに
3.アクセントを付けるには「差し色」も
いよいよスライド作りの各論に入っていこう。一口にスライドを作ると言っても数え切れないほどのやり方があるのだが、多くの人は、まずテンプレートを選んで作り始める。テンプレートを否定するつもりは少しもない。僕も利用している。
問題なのは、テンプレートの色合いだ。テンプレートでは、背景やその他の色が組み合わせになっていて、それぞれ半自動で選ばれるようになっている。そのまま使うと、どうも見づらく、文字が読みにくい場合がある。
そこで提案したいのは、無地の背景にするか、シンプルなデザインのテンプレートを選ぶことだ。その上で文字やアクセントになる部分だけを、手っ取り早く自分なりの色合いに変更する。普段から色合いのルールを持っておけば、悩む必要もない。
日々の商談などで使うスライドの作成では、デザインに時間をかけすぎないほうがよいというのが、この連載のテーマでもある。この方法を取れば、多くの時間はかからないはずだ。
とはいえ、僕は自分にデザインのセンスが十分にあるわけではないと思っている。聞き手の立場のときは「ダメなデザイン」はよく分かる。ところが、自分でデザインするとどうも納得できないのだ。自分で分からなければ、専門家に聞くというのが、我がプレゼン道のモットーだ。ということで、デザインのプロにスライドの色の使い方について教えていただいた。KOM&CO.DESIGNの代表である小牟田啓博氏だ。
小牟田氏は、KDDIで魅力的なケータイやスマホを数多く生み出した「au design project」をけん引した他、電子機器や清涼飲料水など数多くの製品デザインを手掛けている。僕自身は20年近く前からプレゼンの取材をさせていただいている。
「そもそも全くセンスがない人はほとんどいないと思います。多くの人が、デザインや色について知らないだけ、学んでいないだけなんです」と小牟田氏は話してくれた。逆に考えると、誰でも基本を学べば、ある程度の色使いができるということだ。今回のテーマは、入門の入門。最初の質問は、誰でも失敗しにくいシンプルな色使いの基本についてだ。
白に黒文字は日本文化の潔さ
ちょうど数日前に大きな仕事の提案をしたという小牟田氏は「そのスライドは、ほとんど白い背景で、色を使わないシンプルなものでした」と話してくれた。デザインのプロというと、さまざまなテクニックを駆使し、多彩な色を使い分けているというイメージがあるので、ちょっと意外な気もする。
なぜシンプルな白バックなのか。「デザインで失敗しないためには、足し算をしないことです」。そもそも日本の文化は引き算だと言う。つまり、そぎ落としたシンプルな色であるほど失敗しにくい。だからこそ白バックなのだ。
白バックに最も映えるのは黒い文字だ。白バックに黒文字。まるで書道のような、最高にシンプルなスライドだ。ただそれでは、ちょっとつまらない気もする。率直にそうぶつけると「まず見やすいことが重要です。デザインの良しあしの前に、むやみに色を使って見づらくなっては話になりません」と、くぎを刺しながらも、一歩先のテクニックを教えてくれた。
文字は真っ黒ではなく、微妙にグレーに近付けた黒を選ぶのだという。「真っ黒って世の中には意外にないものなのです」と小牟田氏。例えば、子供に黒い影を付けた絵を描かせると、黒い絵の具で塗りつぶしてしまうが、実際には真っ黒な影なんてない。すべて濃淡のある色を持っている。
だからこそ、スライドの文字も真っ黒にするのではなく、ほんの少しだけグレーに近付ける。実際に試してみると、それだけでスライド全体にぐっと落ち着きが出てくる。
文字の大きさによって、グレーの濃さを調整するというテクニックも紹介してくれた。濃い色にすると、文字が小さくても強調できる。そのため、タイトルなどの大きな文字はやや薄めのグレーにしておき、それ以外の説明文はそれよりは濃いグレーにすると、全体のバランスが取れて、小さい文字が読みやすくなるのだ。
グレーではなく、もうちょっと色にこだわってみたい、という人もいるだろう。その場合は白バックに映えるように、ネイビーなど黒に近い色を選ぶとよいという。

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