ソニーのIoT向けボードコンピューター「SPRESENSE」(スプレッセンス)が売れている。半導体部門が手がけた初の消費者向け商品だ。技術情報をオープンにしており、自作マニアならロボットやAI(人工知能)機器も作れる。目指すのは「消費者とコラボ」したイノベーションである。

AI(人工知能)との連携も狙う「SPRESENSE」(スプレッセンス)。ソニー独自のAI機能を組み込んで、画像認識に使っているところ。簡単な仕組みで指の動きを判断できる(開発例はソニーによる、以下同じ)
AI(人工知能)との連携も狙う「SPRESENSE」(スプレッセンス)。ソニー独自のAI機能を組み込んで、画像認識に使っているところ。簡単な仕組みで指の動きを判断できる(開発例はソニーによる、以下同じ)

 ソニー流オープンイノベーションの波は半導体分野にも及ぶ。その象徴的な存在が、2018年7月に発売したIoT向けボードコンピューター「SPRESENSE」(スプレッセンス)だ。半導体部門が手がけた初の消費者向け商品であり、低消費電力ながらGPS受信機能やハイレゾリューション(ハイレゾ)のオーディオ対応機能などを備える。ユーザーがこのボードを使って、簡単なハイレゾ音楽プレーヤーやドローン、ロボットなど、さまざまな機器を自作できるよう、ハードやソフトの技術情報をすべて公開。さらにソニーによる直販ではなく、アマゾンなど既存の流通チャネルで購入してもらう形になっており、まさに異例づくめの商品である。

 メインのボードコンピューターに加え、ヘッドホン端子、マイク端子、SDカードスロットを備えた拡張ボードやカメラ用ボードも用意。開発できるアプリケーションの幅を広げたことで、売れ行きも順調だという。これを見て、ロームなど他社がスプレッセンスに対応したセンサーや通信機能付きのボードを販売するようになり、さらに商品の魅力が増している。  

左がスプレッセンスでサイズは55×20mmで5500円(税別)。この大きさの中にハイレゾオーディオやGPSの機能などを盛り込んだが、開発時は信号特性のバランスに苦労した。右が拡張ボードで68.6x53.3mm、3500円(税別)
左がスプレッセンスでサイズは55×20mmで5500円(税別)。この大きさの中にハイレゾオーディオやGPSの機能などを盛り込んだが、開発時は信号特性のバランスに苦労した。右が拡張ボードで68.6x53.3mm、3500円(税別)

半導体ビジネスで“人に近づく”を実現

 スプレッセンスを開発したのはソニーセミコンダクタソリューションズで、技術情報は「Sony Developer World」のスプレッセンス専用ページで公開している。メーカー希望小売価格は5500円(税別)で、拡張ボードが3500円(税別)。ボードのサイズは55×20mmほどで、拡張ボードも68.6x53.3mmと手のひらサイズ。電子工作などの手軽なものから本格的なシステムまでつくれる。簡単なプログラミングでも動くため、夏休みの自由研究といったテーマを探している学生にも向きそうだ。さまざまな用途に対応できるように、複数の開発環境を提供している。

 「今回の開発はオープンイノベーションの考え方に基づいて推進した。1つの製品を大量に売る半導体ビジネスとは違い、コンシューマーの細かいニーズに対応にしたことが、コーポレートメッセージである“人に近づく”を体現しているのではと思う」(IoTソリューション事業部製品1部の仲野研一統括部長)。

 基本的な開発は研究部門で行っていたが、それをどのように商品に仕立てるかは文字通りゼロからのスタートだった。これまでのBtoB向けの半導体ビジネスと違い、BtoC向けなので、半導体の営業担当者も当初は戸惑っていたという。企業向けの営業スタイルとは異なるからだ。しかしIoTが注目され、いろいろなニーズが飛び交うようになると、細かいビジネスを拾う必要が出てくる。そうなると新たなビジネス手法が求められる。そこで着目したのがオープンな環境づくり。ユーザー自身に開発してもらい、そのための環境を用意するというやり方だ。

 販売に当たり、サポート体制を大幅に見直した。技術情報も「ここまで出していいのか」と社内に言われたが、思い切ってオープンにした。開発環境や回路図、BOM(部品表)リストも出しており、実際に生産できるかどうかは別にしても、他社も同じ商品を開発できるほどの技術情報を公開していると言う。オープンにすることをためらうと中途半端になってしまう、という判断があった。

IoTソリューション事業部製品1部の仲野研一統括部長
IoTソリューション事業部製品1部の仲野研一統括部長
IoTソリューション事業部製造1部の太田義則氏
IoTソリューション事業部製造1部の太田義則氏

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