「感動する体験」の創出という旗を掲げ、独自のイノベーションを進めるソニー。それを象徴するのが、製品開発における“主役”にデザイナーも加わったこと。2018年発売の映画撮影用デジタルカメラの開発でもそんなソニー流を貫き、米ハリウッドの映画関係者らをうならせているという。
製品開発を担当者するエンジニアがユーザー企業に出向き、ニーズをヒアリングする。そんなケースは、いくらでも例がある。だがソニーの開発プロセスは少々様子が異なる。ニーズを把握して製品に反映する重要な役割を、デザイナーも果たすケースが増えているのだ。2018年2月に発売した映画撮影用デジタルカメラ「VENICE(ベニス)」も、そうしたスタイルで開発した製品の1つ。デザイナーがハリウッドやロンドンの撮影現場を訪問。ユーザーニーズを細かく把握し、新製品に盛り込んだ結果、「画質と使いやすさを高いレベルで両立している」と映画製作に関わるクリエイターたちをうならせているという。
ソニーは00年に世界初の映画撮影用デジタルカメラを開発するなど、この分野でのキープレイヤーであり、かの『スター・ウォーズ』シリーズの撮影でもソニー製カメラが採用された。だが21世紀に入ると徐々に他社製カメラが台頭。クリエイターからの注目が低くなっていた。そこで全く新しいアプローチでカメラ開発に取り組むことにした。そのキーワードは「人に近づく」。このVENICEもまた、ソニーにおけるオープンイノベーションの流儀で開発されているのだ。
映画が実際に、どのようにして製作されるのか、現場でクリエイターはどう動いているのか。撮影現場にソニーのデザイナーが実際に出向き、映画監督にヒアリングをしたり、撮影のワークフローを把握したりしながら、カメラ開発に必要な課題などを認識、メンバーで共有した。
徹底的に撮影現場を観察し、クリエイターの動きに注力
海外では大規模な映画撮影となると、5人ほどでチームを組み、1台のカメラを操作するのが普通だ。撮影の指示を出す撮影監督やフレームを決めるカメラマン、絞りやフォーカスを調整するアシスタントなど、明確な役割分担がある。
そこでソニーのデザイナーは、さまざまな撮影現場に自ら出かけていき、「いつ、誰が、どのような操作するのか」をすべて把握した。そして、撮影中にカメラ設定を変更したり、録画ボタンを押したりするアシスタントに、多くのストレスが集中することが分かったという。撮影負荷が一人に集中するようでは、思わぬミスにつながることもある。では、できる限りストレスを減らし、撮影に集中できる映画撮影用カメラとはどうあるべきなのか。それを突き詰めて考え、開発を進めていった。
そうしたアプローチによる開発の成果は、ディスプレーの配置や操作性の高いキーレイアウトといったインターフェースに表れているという。もちろん、ソニー側が「こうした変更をすればより使いやすくなるはず」と考えても、撮影スタッフに実際に試してもらうと、「手元を見ずに操作するときなどに、ミスタッチしやすい」といった意見が出て、作り直すこともあった。こうした作業を繰り返し、機能やボタンの数を絞り込み、ミスなく操作できるシンプルな構成にしたという。


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