ソニーのオープンイノベーションの中核となっているのは、2014年に始まった新規事業の支援事業「SAP(シード・アクセラレーション・プログラム)」だ。18年からは外部連携を本格化。第1号案件の相手として京セラを選んだ。
東京・港のソニー本社。18年末、SAPを運営する部署の隣に、社外メンバーが常駐する専用スペースができた。座っているのは、京セラの開発部門で中核を担ってきた5人の中堅技術者たちだ。彼らを迎える側になった、ソニーでSAPを統括するStartup Acceleration部統括部長の小田島伸至氏は、「いざキックオフしたら違和感がない。他部署の人と話している感覚に近かった」と振り返る。
共に戦後の高度成長期に発展した会社で、創業者の井深大氏と盛田昭夫氏、そして稲盛和夫氏の理念に基づくベンチャースピリットは根強く生きている。手掛ける製品は異なっていても、「新しいものを世の中に出したいという熱い思い、共通項がある」と、SAPとの連携を主導した京セラの研究開発本部システム研究開発統括部ソフトウェア研究所副所長の横山敦氏は話す。
ゼロベースの事業創出に課題
なぜ京セラがソニーと組むのか。京セラはこれまでもエネルギーや医療の分野では、独自に大手企業や大学とオープンイノベーションの取り組みをしてきた。ただ、それらの事業の大半は、過去の実績の延長線上にあるもの。顧客に新たな価値を提供するためには、新規開拓も必要となる。「京セラの技術や素材を生かした社員の事業提案もいくつかあったものの、立ち上げることができていなかった」(横山氏)という。
ゼロベースの事業立ち上げの手段を模索する中で、17年10月に横山氏はソニー本社の1階にあるSAPの共創スペース「クリエイティブラウンジ」を訪れる。3Dプリンターやレーザーカッターなどの工作機械を自由に利用できるほか、事業を立ち上げようとする若手のリーダーたちが議論を重ね、ベテラン技術者の指導を仰いでいた。「オープンで明るく、事業を生み出す支援のホスピタリティーもある」(横山氏)。この枠組みを京セラの技術者たちに経験させることが、新事業創出の1つの突破口になると考えた。
「京セラとの提携を始めていただけないか」。横山氏は18年夏、小田島氏と面会して、そう問いかけた。年間で50~100社と面会し、同様の相談を受けていた小田島氏は、「とりあえず聞きに来ました、数年間やりませんかという話はうまくいかない。こちらも学び、対等に刺激し合える相手を選びたいと考えていた」という。その点、京セラは「継続的な取り組みとして新規事業を生み出していきたいという熱意が違っていた」(小田島氏)。
詳細は非公開だが、SAP内の京セラチームは積層セラミックスの圧電素子やデジタルアンプを組み合わせた新たな製品の開発を進めている。「技術の価値を最大化するための考え方や、限られた期間で事業を加速するための手法、デザインなど専門領域のエキスパートが伴走して協力してくれるのがありがたい」(横山氏)。現在検討を進めている事業は、仮説検証を進め、19年3月末をめどに事業化の判断をする方針だ。
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