ユニークな発想とちょっとした工夫で新商品やサービスを開発し、成功している中堅中小のイノベーター企業を追う本連載。今回は、1万円の線香花火がギフト需要で売れるなど、玩具花火の分野で次々と新製品を開発する筒井時正玩具花火製造所(福岡県みやま市)を取り上げる。

高級路線を狙った「線香花火 筒井時正」シリーズ。火薬には宮崎産の松煙(しょうえん)、紙は福岡県八女市の手すき和紙を使用。その和紙を草木染めで染色し、職人によって丁寧により上げている。 価格は1000円(税別、以下同)からで、写真の最高級の「花々」は桐箱に入り、和ろうそくやろうそく立てが付属する。価格は1万円
高級路線を狙った「線香花火 筒井時正」シリーズ。火薬には宮崎産の松煙(しょうえん)、紙は福岡県八女市の手すき和紙を使用。その和紙を草木染めで染色し、職人によって丁寧により上げている。 価格は1000円(税別、以下同)からで、写真の最高級の「花々」は桐箱に入り、和ろうそくやろうそく立てが付属する。価格は1万円

 価格が1万円もするギフト向けの高級な線香花火や、関東・関西の歴史を意識した線香花火、さらには色鮮やかな輝き見せる線香花火など、子供向けの玩具花火の製造で新たなブランドを開発・育成することで、業績を伸ばした企業がある。福岡県みやま市にある筒井時正玩具花火製造所だ。

 1929年に創業し、線香花火など子供向け玩具花火の製造を続け、2019年には90年を迎えた老舗の企業。だが中国産の安価な線香花火が台頭し、卸向けにビジネスを展開してきたため、製品に自信があっても値下げせざるを得ない状況が続いていたという。そこでデザインをゼロから学んだ他、外部デザイナーの手も借りて、09年から独自ブランドの製品を次々に投入した。

 線香花火の歴史的背景や意味を掘り起こして製品を企画し、情報発信を展開。本社工場に隣接する場所に「ギャラリー」も設置し、線香花火の体験やワークショップを開催できるようにすることで、企業や製品をPRしている。そうした施策で卸を通さない販路も確立でき、今では新ブランドの製品が、売り上げの半分を占めるまでに成長した。

 「国内から線香花火の製造がどんどんなくなり、このままでは日本の線香花火の技術は消えてしまう運命にあった。日本の線香花火は、中国産と比べて火の玉が大きく、並べて安売りするものではないと感じていた。そこで新ブランドをつくろうとした」。こう語るのは、三代目を継承した筒井良太氏と筒井今日子氏だ。なぜ新ブランドを育成できるようになったのか。その背景には、デザインに対する強烈な体験があったという。

主力製品「東西の線香花火」。作り方で関東と関西に違いがある線香花火の歴史を現代に生かした。左が「東の線香花火 長手牡丹」(600円)で、右が「西の線香花火 スボ手牡丹」(600円)。東のほうが燃焼時間が長い
主力製品「東西の線香花火」。作り方で関東と関西に違いがある線香花火の歴史を現代に生かした。左が「東の線香花火 長手牡丹」(600円)で、右が「西の線香花火 スボ手牡丹」(600円)。東のほうが燃焼時間が長い
ギャラリーでは定期的にワークショップを開催して企業や製品をPR 。内部には安全に線香花火を楽しめる空間もある
ギャラリーでは定期的にワークショップを開催して企業や製品をPR 。内部には安全に線香花火を楽しめる空間もある

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