せんべいの下請け専業で倒産寸前だった笠原製菓が、自社ブランド「SENBEI BROTHERS(センベイブラザーズ)」を立ち上げて小売りに打って出ると業績は1年でV回復。今や直営通販サイトや取扱店舗は売り切れが続出し、星野リゾートなどからコラボ依頼も舞い込むほど。復活の背景にはデザイナー出身社長による改革があった。

「SENBEI BROTHERS(センベイブラザーズ)」を立ち上げた笠原製菓。右が兄の笠原健徳社長、左が弟の笠原忠清工場長(写真/名児耶 洋)
「SENBEI BROTHERS(センベイブラザーズ)」を立ち上げた笠原製菓。右が兄の笠原健徳社長、左が弟の笠原忠清工場長(写真/名児耶 洋)
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 ユニークな発想とちょっとした工夫で新商品やサービスを開発し、成功している中堅中小のイノベーター企業を追う本連載。今回はせんべいの「SENBEI BROTHERS(センベイブラザーズ)」ブランドを立ち上げた、東京・江戸川区船堀にある笠原製菓の前編。

 4代目社長である兄の笠原健徳社長と弟の忠清工場長が手掛ける笠原製菓は、2014年9月に兄が社長に就くまでの数年間、赤字が続いて廃業の危機にひんしていたという。それを「せんべいを、おいしく、かっこよく。」をコンセプトに商品をゼロから見直し、「センベイブラザーズ」というブランドとしてパッケージや売り方を大きく変えたところ、わずか1年で黒字転換。東京・新宿のNEWoMan「ココルミネ」や東京駅「日本百貨店とうきょう」、代官山のテノハ代官山「& STYLE STORE」など、一般的なせんべいのイメージとは異なるようなおしゃれな店舗で取り扱われている。

 業績は非公表だが、直営の通販サイトや取扱店舗は売り切れが続出する他、「星野リゾート」からもコラボ商品の依頼が舞い込むほど。実は兄はデザイナー出身で、社長になるまで約20年にわたり、外部企業でデザインやマーケティングに従事していた。そこで商品の見せ方に徹底的にこだわり、せんべいをおしゃれな商品として売り出した。その結果、既存の下請けの売り上げに加え、笠原製菓を支える大きな柱の1つになったという。

 笠原社長は復活の要因を、「特別なことをしたわけではない。目前の問題を解決するため、“火事場のクリエイティブ”を発揮して知恵を絞り、できることを必死にやっただけ」と控えめに語る。「せんべいを嫌いな人はいない。しかし周囲に『最近、せんべいを食べた?』と聞いても、食べたと答えた人は1割もいなかった。だったら、食べる、手に取るきっかけをつくるため、デザインの力を使おうと思った」。

 例えば、街中で食べ歩きできる格好いい袋はないかと探していると、密封式でスタンディングタイプのコーヒー豆用のクラフト紙製の袋を見つけた。「これに中のせんべいが見えるよう、透明なパウチの窓をつけたらおしゃれになり、従来のせんべいのイメージを打ち破れる。パウチをつけると包材コストが高くなり、反対する声もあったが、ここだけは譲れなかった」と笠原社長。ただしコストを抑えるため、当初はブランド名を彫ったスタンプを作り、自分たちで押印して印刷代を浮かせたという。

 この他、透明の樹脂ボトルに白煎り胡麻(ごま)、黒胡椒(こしょう)、甘辛七味、ザラメの4種類の割れせんべいを入れた「センベイカーニバル」も開発した。味が異なる4種類のせんべいを一緒に楽しめるうえ、ボトルの口は大口径で中のせんべいを取り出しやすい。どこに置いても目立つため、センベイブラザースの売り場を象徴するアイテムになっている。

右が「センベイブラザース」のせんべいで、左が黒胡椒(こしょう)、とザラメの2種類の割れせんべいを入れた「センベイカクテル」。この他、白煎り胡麻(ごま)、黒胡椒、甘辛七味、ザラメの4種類の割れせんべいを入れた「センベイカーニバル」もある
右が「センベイブラザース」のせんべいで、左が黒胡椒(こしょう)、とザラメの2種類の割れせんべいを入れた「センベイカクテル」。この他、白煎り胡麻(ごま)、黒胡椒、甘辛七味、ザラメの4種類の割れせんべいを入れた「センベイカーニバル」もある
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「センベイブラザース」を取り扱っている東京・秋葉原の「日本百貨店しょくひんかん」の店頭風景。紫色はせんべいの醤油(しょうゆ)を象徴するブランドカラーで、店頭では紫色のハットをかぶって目立つようにした
「センベイブラザース」を取り扱っている東京・秋葉原の「日本百貨店しょくひんかん」の店頭風景。紫色はせんべいの醤油(しょうゆ)を象徴するブランドカラーで、店頭では紫色のハットをかぶって目立つようにした
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