東京・亀戸にある創業214年の和菓子店の船橋屋は、自社で作るくず餅に乳酸菌が含まれていることを発見。サプリメントに仕立てて19年2月から自社のウェブサイトで販売した。さらに乳酸菌が入ったスイーツやカフェなどの新規事業も計画中だ。
ユニークな発想とちょっとした工夫で新商品やサービスを開発し、成功している中堅中小のイノベーター企業を追う本連載。今回は、1805年に東京・亀戸天神の参道に創業した船橋屋の前編。老舗の和菓子店でありながら、健康食品など新規事業を次々と展開している企業として注目を集めている。
船橋屋のくず餅は関東の和菓子で、主に関西で食べられている葛餅とは異なる。葛餅は葛粉から作られるが、関東のくず餅は、小麦粉が原材料。船橋屋は小麦粉を練って水洗いし、グルテンと分離させたでんぷんを仕込み水と一緒に木だるに入れて450日かけて発酵させる。それを数日間かけて水洗いした後、職人たちがくず餅に仕上げる。船橋屋は添加物を一切使用せず、消費期限はわずか2日。日持ちしないため、店舗は東京を中心に千葉と埼玉のみの展開だ。18年度の売上高は前年比11%増の約20億3400万円。そんな船橋屋が、なぜサプリメントを手掛けるようになったのか。
船橋屋では以前から「くず餅を食べると体調やおなかの調子がいい」という声が多く寄せられており、くず餅が発酵食品だと知っていた。「だが、なぜ発酵するのかといった原理まで調べたことはなかった」と船橋屋の8代目である渡辺雅司社長は言う。
乳酸菌で発酵していると分かったのは、11年。渡辺社長の知人の医師が船橋屋の工場を見学したとき、発酵の匂いから「乳酸菌なのではないか」と言ったことがきっかけだ。すぐに研究機関に相談し、発酵過程の上澄み液を分析したところ、13種類の乳酸菌が存在することが判明。さらに分析を進めると「ラクトバチルス属パラカゼイ種」という乳酸菌で、免疫力を高め、美肌や整腸、アレルギー改善を期待できると分かった。
「健康に対する興味と関心が高かった」と言う渡辺社長は、すぐに乳酸菌でサプリメントを開発しようと考えた。だが、乳酸菌だけ注出して培養することは容易ではなく、完成まで8年。開発投資額は非公表だが、本業に影響せず、市場性も見込めるとして進めたようだ。外部の研究機関と共に何度も壁にぶつかりながら、ようやく製品化したのが乳酸菌のサプリメント「REBIRTH」(リバース)だ。19年2月から船橋屋のウェブサイトで販売を開始。1箱90粒入りで7560円(税込み)。初年度は1億円の売り上げを目指すという。
乳酸菌のサプリメントは他社も発売しているが、くず餅は数百年前から続く自然の発酵食品で乳酸菌の宝庫といわれる。30代から60代の8人によるREBIRTHのモニター調査では、3カ月間の摂取で悪玉菌が大幅に減少し、善玉菌の割合に改善がみられたという。日本古来の発酵食品を生かしている点などを訴求し、市場を開拓していく考えだ。
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