ハンドルが大きい「どっか~ん」、引っ張ったら伸びるような「びよ~ん」。これらは大阪市の水栓金具メーカー、カクダイの製品名。あえて奇抜にすることで社員の発想力を豊かにし技術力の向上に生かした。売上高は年3%増と堅調に推移している。

「誰や!パイプ上向きにしたん?」(1万500円、税別、以下同)。ひねる部分と水の出る部分が普通の蛇口と正反対
「誰や!パイプ上向きにしたん?」(1万500円、税別、以下同)。ひねる部分と水の出る部分が普通の蛇口と正反対

 ユニークな発想とちょっとした工夫で新商品やサービスを開発し、成功している中堅中小のイノベーター企業を追う本連載。今回は大阪市の水栓金具メーカー、カクダイの前編。明治12年(1879年)に創業したカクダイは、水道の蛇口をはじめとする水回りの製品を手掛ける。現在では一般的な蛇口の他、「面白い蛇口を作っているメーカー」として話題を集めている。

 例えば、施工業者が間違って上下逆さまに取り付けてしまったような水栓。しかも、ハンドルを回しても一向に水が出ない。実はこれ、蛇口がレバーになっていて、左にひねるとハンドルの真ん中から水が出る。パーツの役割が入れ替わっているのだ。商品名は「Da Reyaシリーズ」の「誰や!パイプ上向きにしたん?」だ。

 Da Reyaシリーズは、「誰や!こんなん作ったん」が名前の由来で約50種類。ハンドルがむやみに大きい「どっか~ん」や、引っ張ったらゴムのように伸びてしまったような「びよ~ん」といった商品もある。

 面白さと見た目のインパクトだけを狙った商品と思われがちだが、実用的な評価も受けている。例えば「どっか~ん」は幼稚園で好評だ。普通の蛇口では、年長組の園児が閉めた蛇口を年少組の園児は開けることができない。力の差が大き過ぎるためだが、「どっか~ん」なら年少組の園児でも体重をかければ開けたり閉めたりできるという。

 Da Reyaシリーズは、約1万点を扱うカクダイの製品の中では、ほんの一握り。売り上げに、そのまま寄与しているのではなく、あえて「お笑い」をベースにすることで社員の発想を豊かにし、今までにない技術に挑戦して新製品の開発に生かすことが狙い。2018年の売上高は266億円。他社に見られない開発体制が奏功し、この10年くらいは売り上げは毎年3%ぐらいで伸びているという。

幼稚園で好評な「どっか~ん」(5400円)は、ハンドルが大きいので握らずに押すことで開閉ができる
幼稚園で好評な「どっか~ん」(5400円)は、ハンドルが大きいので握らずに押すことで開閉ができる
引っ張ったらゴムのように伸びてしまったような「びよ~ん」(1万9000円)
引っ張ったらゴムのように伸びてしまったような「びよ~ん」(1万9000円)

ヨーロッパ製品との違いをいかに出すか

 カクダイがDa Reyaシリーズの企画・開発に取り組み始めたのは2011年だった。「水道水栓の市場は、国内では大手2社が圧倒的な強みを持ち、世界的にはドイツをはじめとするヨーロッパのメーカーが主導権を握っている。当社のような中小企業は、どうしても大手の後追いやヨーロッパの模倣になりがちだったけれども、それではいつまでたっても評価も尊敬もされない。思い切って冒険してみようと考えた」と多田修三副社長は言う。そこで、大阪の企業らしくお笑いの要素を蛇口に取り入れたのだ。

 「多くの社員は、営業とか開発とかそれぞれ自分のポジションだけにとらわれて発想したり行動したりする面がある。立場の違う社員が集まり、1つの共通する目標達成のために力を合わせる場を作れば、コミュニケーションが活発になり、社内を活性化できるのではないか」。そう考えた多田副社長はプロジェクトチームを作り、「お笑い」をテーマに多田副社長がいくつかのアイデアを出して形にするという課題を出した。

 Da Reyaシリーズはどれも水しか出ない水栓だが、市場は水と湯を混ぜて出す混合水栓が主流。水しか出ない水栓は、誰も新規投資しない終わった市場とされているという。「だから少々何をやっても怒られることはないだろう」(多田副社長)というもくろみもあった。全製品に占めるDa Reyaシリーズの割合は少ないが、だからこそ好きなように実験できる。

 「実際発売してみると、『ふざけている』といったお叱りはほとんどなく、応援の声しかない」と多田副社長。しかもネットで度々話題に上り、知名度やイメージもアップした。「SNSでフォロワーが多い人など、影響力のある人が話題にすると、一気にアクセス数が増える。年に1回ぐらいの頻度で、サーバーがダウンするほどの爆発的なアクセスが来ることがある」(多田副社長)。

 製品化に当たっても、「ああしたらどうや」「こうしたらどうや」といったアイデアが活発に出て議論が盛り上がる。設計・製造段階では、従来にない形のものばかり。しかも形が優先のため、実際に作るのは非常に難しいものが少なくない。それでも技術者は喜んで課題に取り組んだため、結果的に技術力が高まったという。

 例えば、カクダイが開発した一般用のシングルレバー混合栓には、Da Reyaシリーズで培った技術がフィードバックされているという。「『びよ~ん』のように細長く、しかも水を通せる中空構造を継ぎ目なく一体で作るのは非常に難しかった。その技術を生かし、背が高く継ぎ目のない製品を作ることができた」(多田副社長)。Da Reyaシリーズによってカクダイは、さまざまな製品を発想していくことになる。

無機質なイメージ空間に合う「なっとらん!」(1万8000円)。ボルトとナットを組み合わせたイメージの蛇口である
無機質なイメージ空間に合う「なっとらん!」(1万8000円)。ボルトとナットを組み合わせたイメージの蛇口である
一般的な蛇口のシングルレバー混合栓(6万3000円)には、Da Reyaシリーズ「びよ~ん」で培った技術がフィードバックされている。細長くて水を通せる中空構造を継ぎ目なく一体で作るのは難しいからだ
一般的な蛇口のシングルレバー混合栓(6万3000円)には、Da Reyaシリーズ「びよ~ん」で培った技術がフィードバックされている。細長くて水を通せる中空構造を継ぎ目なく一体で作るのは難しいからだ

(写真提供/カクダイ)

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