今回は3回目で取り上げた島田製織の後編。新卒で入社した自社ブランド「hatsutoki」のデザイナー、村田裕樹氏は新しいセンスで作ったカタログや自信のある商品のサンプルをショップに送るなど営業活動も手掛け、ビームスなど少しずつ販路を拡大した。そんなとき人気デザイナーを西脇市に招いた。

2019年春夏シーズンのメインテキスタイルによる「木漏れ日のシャツワンピース」。テキスタイルのパターンは、夏の心地よい木漏れ日の記憶がモチーフ。イメージは、木の下に寝転がり、揺れる木々から光が規則正しくこぼれ落ちてくる景色だという。糸を絞るように強くよりをかけ、ドライなタッチになるように設計した
2019年春夏シーズンのメインテキスタイルによる「木漏れ日のシャツワンピース」。テキスタイルのパターンは、夏の心地よい木漏れ日の記憶がモチーフ。イメージは、木の下に寝転がり、揺れる木々から光が規則正しくこぼれ落ちてくる景色だという。糸を絞るように強くよりをかけ、ドライなタッチになるように設計した

 ユニークな発想とちょっとした工夫で新商品やサービスを開発し、成功している中堅中小のイノベーター企業を追う本連載。島田製織の社内デザイナーである村田裕樹氏は、自社ブランド「hatsutoki」の販路を広げるために営業活動も自ら行っている。2017年秋冬シーズンから始まったビームスとの取引も、村田氏からのアプローチがきっかけだった。村田氏は、全国の営業先を約100社リストアップし、その中からhatsutokiにとっても、取り扱ってくれるショップにとっても、互いが良い結果を生み出しそうな10社に郵送で資料やGRAPHと制作したカタログを送るなどの営業をした。その1社がセレクトショップのビームスだった。

 継続的に郵送でカタログを送り、数回目に一番自信のあったストールのサンプルをつけたところ、バイヤーが反応。展示会に足を運んでくれることになり、取引が始まった。「郵送した資料やカタログを見て、気には留めてくれていたようだった。商品を送って実物を見てもらったことが、取引開始の後押しとなった」(村田氏)。

 日本橋三越本店とは18年春夏シーズンから取引が始まった。中小企業基盤整備機構(中小機構)関東本部の「販路開拓コーディネート事業」の支援を受けたことがきっかけだ。販路開拓コーディネート事業の本来の趣旨は、営業ではなくマーケティング調査。ターゲットとする企業に、業界に精通するコーディネーターと共に調査として訪問するため、結果として、営業のチャンスにもなった。

 hatsutokiの場合、ターゲットを百貨店とセレクトショップ、通販会社に設定。各社でサンプルを提示しながらプレゼンテーションを行った。日本橋三越本店ではブランドのコンセプトと商品の完成度が高評価を得て、取引が始まった。ある通販会社とは、優れた素材の商品を探していたタイミングでもあり、受注が決まったという。

 hatsutokiが中小機構関東本部の販路コーディネート事業の支援を受けることができたのは、前編で紹介した中小企業庁の「ふるさと名物応援事業補助金」の申請のときサポートをしてくれた、中小機構近畿本部の担当者がつないでくれたから。関西の企業が関東の中小機構の事業支援を受けること自体、異例のことだった。それまでの事業支援の対象は工業資材などがほとんどで、アパレル製品はほぼ皆無。「新しい事例づくりとして、中小機構の方々が前向きに取り組んでくれたおかげで結果を残すことができた」(村田氏)。

「西脇ファッション都市構想」で人脈作り

 一方、地元である西脇市が播州織を支援したことも、追い風となった。西脇市は15年から「西脇ファッション都市構想(以下、ファッション都市構想)」を掲げ、地域ブランディングを行っている。狙いは播州織のブランド力の向上と、産地での起業を視野にいれた若手デザイナーの移住者を増やすこと。現在、西脇市に移住して働いている若手デザイナーは、20人ほどいるという。西脇市の片山象三市長は「ベンチマークしているのは、イタリアのビエラ市。西脇市とほぼ同じ、人口4万4000人の都市で、繊維産業で栄えている。若者も多く働いており、売り上げのうち最終製品を扱う比率は約60%と高い。西脇市の最終製品率はまだ3~4%だ」と話す。

 ファッション都市構想は、行政と産地の事業所や団体が一体となって取り組んでおり、12年前に西脇市に移住した村田氏も協力している。村田氏は新たに移住してきた若手デザイナーにとって頼れる先輩でもある。「片山市長のいいところは、ファッション都市構想が具体的に動き出す前から巻き込んでくれたこと。産地に1人で移住し、自分が感じてきた問題点を改善するためのアイデアを実現できていることも多い」(村田氏)。

西脇市にあるコワーキングスペース「CONCENT」。デザイン用のパソコンや各種ミシンを設置し、移住してきた若手デザイナーが播州織製品の開発や試作を行うための場所として整備した
西脇市にあるコワーキングスペース「CONCENT」。デザイン用のパソコンや各種ミシンを設置し、移住してきた若手デザイナーが播州織製品の開発や試作を行うための場所として整備した

 実現していることの1つが、若手育成のためのセミナーだ。西脇市は、デザイナーを雇った企業に対して、1人上限15万円を最大3年間助成している。その仕組みで移住してくるデザイナーの多くは、専門学校や大学の新卒者だという。村田氏は、移住してきた人たちに成長の機会を与え、優秀なデザイナーを育てるためにセミナーを企画した。「若手デザイナーにとって何が課題で、その課題を解決できる人はどんな人なのか。自分たちが本当に話を聞きたい人は誰か。講師や内容については、広い人脈を持つGRAPHさんにも相談しながら考えた」(村田氏)。

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