起業家のイーロン・マスク氏が、10月末に買収を完了したばかりの米ツイッターの経営トップから離れるかをユーザーに問うアンケートを突然実施した。結果は「はい」が57.5%で過半数。「結果に従う」としながらマスク氏はその後、去就について沈黙を続けている。狙いはどこにあったのか。

マスク氏が「ツイッターのトップの座から降りるべきか。結果には従う」としてアンケートを投稿したのは、サッカーのワールドカップ(W杯)決勝戦が開催された2022年12月18日。アルゼンチンとフランスの激闘をたたえるツイートが並ぶ中、お祭りムードを吹き飛ばすかのように、マスク氏はSNS業界を揺るがす投稿を投げ込んできた。
アンケートは12時間後に締め切った。1750万の投票を集めた結果は辞任を支持する「はい」が57.5%、支持しない「いいえ」が42.5%。多数決でマスク氏の退任をユーザーが求めたという結果になった。

プライベートジェットの位置情報がきっかけ
マスク氏が自らの進退について突然アンケートを取った背景には、相次ぐ運営方針の変更に対して社会からの風当たりが強くなってきたことがある。
ツイッターは22年12月14日、マスク氏が所有するプライベートジェットの動きをツイートするアカウント「ElonJet(イーロンジェット)」を凍結した。ElonJetは、ADS-B(放送型自動従属監視)と呼ばれる航空管制に使うための公開情報を参照し、離陸や着陸の場所などをツイートする。プログラムによる働きで自動的にツイートする、いわゆるボットと呼ばれる仕組みだった。米フロリダ州の学生が20年に作成した。
12月13日に、マスク氏の家族が車に乗っていたところ、ストーカーに追跡されたという事件があったという。ElonJetによって空港が特定されたことが原因とマスク氏は考えたようだ。ツイッターは同日、個人の位置情報をライブ配信することは危険につながるとして、ツイートの削除やアカウントを停止するという新ポリシーを発表している。
買収にあたり、マスク氏は不正利用の助長につながるボットを撲滅することに意欲を見せていた。ElonJetの存在が大きな理由の1つだったことは間違いない。ただ、買収直後のマスク氏は自ら「言論の自由を守る絶対主義者」と標榜しており、22年11月6日には「言論の自由を守るため、私の身の危険があったとしても、飛行機を追跡するアカウントですら停止しない」とマスク氏はツイートしていた。その発言は撤回されたことになる。

15日には、ニューヨーク・タイムズ(NYT)やワシントン・ポストといった米有力メディアのジャーナリストが持つアカウントも凍結となったことが判明した。ElonJetに関する記事を書いたことや、関連のツイートをしたことが関連しているとみられる。「一日中私を批判するのは全然かまわないが、私のリアルタイムの位置情報をさらして家族に危険をもたらすことはありえない」とマスク氏はツイッターに書き込んでいる。
ElonJetによる位置情報が別のSNSでも公開されていることを問題視したためか、18日には、フェイスブックやインスタグラム、マストドンといったSNS(共有サイト)を宣伝することを禁止するとも発表した。
こうした急激なポリシー変更やジャーナリストに対するアカウント凍結への批判は高まっており、欧州連合(EU)・欧州委員会は、メディアに対する自由の尊重を損なっているとして制裁の可能性も示唆している。
後継者が見つかっていない可能性
ツイッター買収後のマスク氏は新たな方針を決める際、アンケートをたびたび実施してきた。22年11月中旬にはトランプ前大統領のアカウントを戻すかを問うアンケートを取り、実際に復活させた。22年12月15日には、凍結したジャーナリストを復活させる時期を「今」「7日後」から選ぶアンケートをしている。
12月18日にマスク氏は「今後は大事な案件についてアンケートを決める」と改めてツイートしている。オープンで自由なSNSであるという印象を狙ったものかもしれないが、企業トップの進退について利用者のアンケートを取るという手法は異例であり、企業としての信頼性にも打撃を与えかねない。アンケートを締め切ったあと、マスク氏が自らの進退について、現状では何もコメントをしていない点も不可解だ。マスク氏はなぜアンケートを取り、何を狙っていたのか。3つの可能性がありそうだ。
・記事の掲載後、米国時間20日にマスク氏は「仕事を引き継いでくれる後継者が見つかり次第、CEO(最高経営責任者)を退任する。その後はソフトウエアとサーバーのチームを統括する」とツイートした。[2022/12/21 11:20]
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