米アドビはクリエーター向けに最新の技術や映像制作のトレンドを紹介する大型イベント、「Adobe MAX 2022」を米国時間2022年10月18日~20日に開催した。数ある発表の中でも注目の1つは3D制作ツールの機能強化だった。マーケティングも含め、3D映像のビジネス活用の可能性について責任者に聞いた。
米メタが22年10月上旬に技術説明会を開催し、高機能VR(仮想現実)ヘッドセット「Meta Quest Pro(メタ・クエスト・プロ)」を発表した。1499ドル(日本では22万6800円、税込み)と「Meta Quest 2」(約400ドル、日本では約6万円)よりも高めの設定で、ビジネス用途を開拓するとマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は説明した。
▼関連記事 メタが「Meta Quest Pro」でマイクロソフトとも連携 MRで新境地VRゴーグルのビジネス活用を広げるため、メタは説明会の中で米マイクロソフトなど他社との連携を強化すると説明した。その点では、アドビの取り組みも見逃せない。ちょうど1週間後に開催となった「Adobe MAX 2022」では、メタのQuest Proを使い、バーチャル空間内で3Dモデリングができる機能についての発表があった。
アドビはゲームや映像作品向けの3Dツールを開発するフランスのアルゴリズミックを19年1月に買収し、「Substance 3D」という名称の3D制作ツールを提供してきた。
3D制作ツールの機能には、3Dオブジェクトの形状を編集する「モデリング」、オブジェクトに模様を貼り付ける「テクスチャリング」、画像や動画として出力する「レンダリング」などがある。これまでのSubstance 3Dは、テクスチャリングやレンダリングに重点を置いてきたが、今回のイベントでは、モデリングの機能を追加し、さらにメタのVRヘッドセットにも対応させた。
こうした3D制作のツールは、今後ビジネスの分野でどのように広がっていくのか。アドビの3Dとメタバース事業を統括するセバスチャン・デガイ副社長に聞いた。
――「Substance 3D」にモデリング機能を追加しました。その狙いと背景は。
アドビの使命は、常にクリエーター、アーティスト、デザイナーをサポートすることです。過去40年間、印刷、デジタルパブリッシング、ウェブ制作、動画、画像、そして3Dに至るまで適切なツール群を提供することを目指してきました。
そのためには完全な製品を提供することが重要です。Substance 3Dではテクスチャリングに注力し、現実の写真をオブジェクトに貼り付ける「Substance Sampler」などさまざまなツールを提供し、大きく成長してきました。
さらにデザイナーを支援するための機能を追加したいと考え、次のステップとしてモデリングに着手したのです。19年末には、私が中心となって当時のフェイスブックから「Medium」という造形ツール部門を買収しました。これがベースとなって、3Dモデリングとスカルプティング(彫刻のように3Dモデルを造形する手法のこと)を1つにしました。
VRだけでなく、デスクトップにも対応するパワフルで親しみやすい3Dモデリングのツールになっています。

――3Dモデリングのツールにはオープンソースの「Blender」など競合もあります。
なぜフリーのツールが存在するのに、我々が有料のツールを提供するのか、ということでしょうか。その質問に端的に答えると、市場にはどちらも必要なのです。
多くの新規ユーザー、学生、個人で趣味として楽しんでいる人がBlenderを使い、多数の作品を手掛けています。コミュニティーも広がり、3Dに関わる人々の層を拡大するうえで素晴らしい役割を果たしています。
プロの世界においては、制作する多くの企業はアドビのツールを選び、成果物や作品を受け取る企業もそれを求めています。例えば、3Dテクスチャリングには「Substance Painter」の多彩な機能が必要というプロのクリエーターやデザイナーは多いはずです。2Dの写真やグラフィックで、プロ用途には「Photoshop」「Illustrator」が定着しているのと同じです。
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