有人月面着陸を目指す米国の「Artemis(アルテミス)」計画が始動し、1972年の月面着陸から50年ぶりの偉大な挑戦に一歩を踏み出しつつある。宇宙船は、民生の技術である米アマゾン・ドット・コムの音声AI(人工知能)「Alexa(アレクサ)」を搭載する。宇宙開発の狙いと期待をアマゾン担当副社長に聞いた。

NASA(米航空宇宙局)の月探査計画「Artemis」の宇宙船に音声AI「Alexa」が採用された。写真は打ち上げのイメージ図(画像提供:NASA)
NASA(米航空宇宙局)は月探査計画「Artemis」の大型ロケットの打ち上げを目指している。米国時間22年8月29日と9月3日に打ち上げを試みたが、いずれもエンジンや燃料のトラブルで延期に。写真はNASAの中継による9月3日の様子

 ArtemisはNASA(米航空宇宙局)による月探査計画。第1段階のテストにあたる「Artemis I」では、無人の宇宙船「Orion(オリオン)」が月周辺の軌道を回り、地球に帰還するまでの技術を検証する。NASAは、月探査用の大型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」の打ち上げを米国時間22年8月29日と9月3日に試みたが、いずれもエンジンや燃料のトラブルで延期になった。9月末から10月にかけて、再度の挑戦が期待されている。

 今回はSLSの初めての打ち上げとなり、技術を積み重ねていくことが最大の目的となる。天候のほか、月と地球の位置関係などの要素も絡み、打ち上げ成功までにはもうしばらく時間がかかるかもしれないが、着実に計画が進んでいることは間違いない。Artemis Iが成功すれば、その先は24年とみられている「Artemis II」で宇宙飛行士が搭乗し、同様の月軌道を回る。25年以降の「同III」では、宇宙飛行士を月面に送る。その先には火星を目指すという目標もある。

宇宙船「Orion(オリオン)」に搭載されたAlexa対応端末「Callisto」のデモ機。米ロッキード・マーティンと共同で開発した
宇宙船「Orion(オリオン)」に搭載されたAlexa対応端末「Callisto」のデモ機。米ロッキード・マーティンと共同で開発した

 打ち上げ後にロケットから飛び出すOrionは、アマゾンの音声AI「Alexa」を搭載する。一般のAlexaはネット上のサーバーと通信をすることで対話を実現するが、宇宙では通信の遅延が大きく、帯域も限られるため、オフラインで対話できる仕組みとした。

 Artemis Iでは無人飛行となるため、あくまでデモや実験として、地上の管制センターからAlexaに呼びかける程度にとどまる。宇宙飛行士が搭乗するArtemis II以降では、「アレクサ、現在の月までの距離は」「月までは約100キロメートルです」などと、飛行士の問いかけに音声で答えを返すことで、ミッションを支援する。距離の他、温度や圧力といった宇宙船の状態を回答できるようにする。

 Alexaを宇宙開発に活用することで、どんな未来を切りひらくことができるのか。アマゾン副社長でヘッドサイエンティストのローヒット・プラサード氏に聞いた。

米アマゾン・ドット・コムの副社長でヘッドサイエンティストのローヒット・プラサード氏
米アマゾン・ドット・コムの副社長でヘッドサイエンティストのローヒット・プラサード氏

――改めて、宇宙船に音声対話が必要な理由は。

 宇宙飛行士にとって何が有用であるかを逆算し、適切な機能を提供することを目指しました。宇宙飛行士は非常に忙しく、限られた時間に過密なスケジュールが組まれています。宇宙船内外の圧力や温度がどんな状態なのか、どのような速度で飛行しているのか、周囲の環境や大気の状態はどうなっているのか。計器やスクリーンまで移動してデータを見るという手間によって、時間が奪われかねません。音声ならより簡単に情報を取り出すことができます。

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