少子高齢化やサステナビリティーといった社会の課題や変化に対応するためには、大手企業も変革は不可欠となる。日本郵便、JR東日本、出光興産と日本のインフラを支えてきた企業が、国内外のスタートアップとビジネス創出の取り組みを加速している。米サンフランシスコで実験の様子や成果を公表した。
米プロバスケットボールNBAの競技場として知られるサンフランシスコの多目的アリーナ「チェイス・センター」。そのビル内に設けたイベント会場で米国時間2022年7月20日、日本のビジネスパーソンが次々と英語スピーチを繰り広げた。「日本では労働力不足に直面し、高齢化が進んでいます。新しい世代の郵便サービスをつくる必要があります」。日本郵便デジタルビジネス戦略部企画役の安藤裕一氏はそう話し、配達車両を使ったデジタル地図の構築や郵便ポストのスマート化について説明した。
イベントは米ベンチャーキャピタルのスクラムベンチャーズ子会社、スクラムスタジオ(東京・渋谷)が開催した。同社は、日本企業と国内外のスタートアップの事業共創プロジェクト「SmartCityX(スマートシティーエックス)」を20年8月にスタートし、実証実験などを進めてきた。日本郵便のほかには、JR東日本、出光興産、日本航空(JAL)などが、実験の成果や各社の取り組みをプレゼンテーションしていった。
日本郵便とJR東日本がLiDAR活用
日本郵便は主に2つの取り組みを説明した。1つはレーザーを当てて周辺の物体との距離を測る高性能センサー「LiDAR(ライダー)」の技術を持つイスラエルのイノヴィズ・テクノロジーズとデジタル地図をつくるというもの。LiDARを日本郵便の配達車両に取り付け、周囲にある建物や標識などの情報を取得し、高精度なデジタル地図をつくる。22年6月には、東京都大田区の田園調布郵便局周辺でLiDARを取り付けた車のテスト走行を実施している。
配送経路で車両を運行しながら地図をつくり、無人配送など次世代サービスに生かすほか、外部企業へのデータ販売も視野に入れる。「(全国で)40万人の郵便局員、2万4000局の郵便局による郵便ネットワークを生かし、スタートアップとの連携で価値を生み出す」(安藤氏)ことを目指し、22年8月からデータ活用の検証を本格化する。
2つ目は、郵便ポストの(あらゆるモノがネットにつながる)IoT化。郊外や山間部では、定期的に郵便局の担当者がポストを回るが、郵便物がポストに入っていないこともよくある。そこでソーラーパネルやバッテリーを備えたIoTセンサーを搭載し、郵便物の量を監視することで集荷を効率化する。イスラエルのソルチップが開発したIoTセンサーを使う。温度や湿度など気候の計測、付近の歩行者量を計測するなど、地域をモニタリングする用途にも応用できる。
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