「Photoshop」や「Illustrator」などクリエーター向けのツールの最大手である米アドビシステムズは、主力製品の刷新に取り組んでいる。プロダクトの売り切りからサブスクリプション型への転換の次に進めているのが、iPadなどタブレット版の拡充だ。新たな初心者ユーザーの獲得も目的であるが、プロからもタブレットやスマートフォンで作業する需要が高まっている。
アドビは米ロサンゼルスで2019年11月に開催したイベント「Adobe MAX 2019」において、イラスト作成の「Illustrator」のiPad版を開発していることを明らかにした。2020年に投入する予定で、現在は特定ユーザー向けにβ版を配布している。
プロにも使ってもらうのがゴール
Illustratorは図形を拡大や縮小しても形が崩れないベクター形式のグラフィックスでイラストを描画できるのが特徴だ。Adobe Illustratorの頭文字から「Ai」と呼ばれることもある。iPadに対応することで、指で曲線を描いたり、ペンで図形を操作したりすることが可能になる。アドビのデジタルメディア デザイン シニア ディレクターであるエリック・スノーデン氏は「楽しんで使ってもらうのも重要なポイントと考えている。将来的にはペンとタッチを合わせたエクスペリエンスを提供していきたい」と説明する。
iPad版の登場で、例えば電車やバスでの移動時間中に画像を処理できるようになる。プロのクリエーターが顧客の会社や展示会場で急ぎの仕事に対応したり、出張や休暇で海外にいる時に対応するといったことが可能になる。スノーデン氏は「今のところβ版なのでどこまでデスクトップ版と同じ機能をサポートするのかは明言できないが、作業をiPad版とデスクトップ版で行き来することができる。プロでも使えるツールをゴールにしている」と意気込む。
PCで利用するデスクトップ版でクリエーターが多用するキーボードのショートカットキーが利用できない。そこで、画面を長押しするとショートカットメニューにいけるようにしている。複数の指で、操作の取り消しなどのジェスチャーを指定できるようになった。「デスクトップ版のように必ずしもキーボードが必要ではないと思ってもらえるようにしていく」(スノーデン氏)
なお、Illustratorと並ぶアドビの主力である画像編集の「Photoshop」のiPad版は11月のイベントにあわせて正式版をリリースした。iPadに対応することで、ペンを使って写真の細部を加工したり、指で写真や画像のパーツを動かしたりできるようになった。
アドビは2019年9月には無料の描画ツール「Adobe Fresco」を投入した。当初はiPad版のみだったが、Windows版を公開した。ペンで利用できる米マイクロソフトのSurfaceなどに対応する。紙ににじんだ水彩画や、筆の運びが楽しめる油絵のような絵を描くことができる。学生などにとっては、画材費が節約できる点もメリットだという。
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