米サンフランシスコには画像認識用のAI(人工知能)を活用した多くのレジなしの実店舗や実験店舗がある。米アマゾン・ドット・コムのAmazon Goが4店舗あるが、そのほかに複数のスタートアップが実験店舗を構えている。スタートアップの1社が米Zippinであり、2019年11月末までに日本企業も含めた資金調達を完了した。
Zippin(ジッピン)は大手食料品メーカーの米クラフト・ハインツ系のファンドを運営するEvolv Venturesを主要投資家として、NTTドコモ傘下のベンチャーキャピタルであるNTTドコモ・ベンチャーズや野村総合研究所(NRI)、日系ベンチャーキャピタルの米スクラムベンチャーズなどから総額1200万ドル(約13億円)の資金を調達した。シードも含めてこれまで総額で約1500万ドル(約16億円)を調達している。
Amazon Goとの違いはライセンス提供
ジッピンのサービスを利用するにはまず専用アプリをダウンロードする。そのうえで、クレジットカードを登録するだけでゲストでも利用できる。Amazon Goとはゲストでも利用できる点は異なるが、入店後に商品を自分の買い物袋などに入れて退店するだけで精算が終了するのは同じである。レシートは退店後、アプリに表示される。
ジッピンのビジネスは、チェックアウト用のレジが不要な「レジレス」の店舗を実現する技術のライセンス提供だ。自社のテクノロジーを利用した実店舗のAmazon Goを持つアマゾンとはその点が大きく異なる。既にブラジルの大手スーパーのコンビニ店舗へ2019年3月に導入され、実際に稼働している。米カリフォルニア州の首都であるサクラメント市ではスタジアム内の小型店舗へ2019年10月に導入されている。
導入コストを抑えるために、センサーの数を極力減らしているのも、Amazon Goとの違いだ。天井のカメラと商品トレーの重量センサーの組み合わせで、人の動きと商品の有無を判断している。カメラで頭や服装を認識して、店舗内の顧客を追跡する。顔などのバイオメトリクス情報は収集していない。
Amazon Goの場合、天井のカメラが通路の顧客を認識するものと、商品をモニタリングするものの2つある。冷蔵用の棚にはケースの上に専用の小型カメラも配置している。
共同創業者のクリシュナ・モツクリ最高経営責任者(CEO)は「カメラは一般的なもので1台当たり150~200ドル程度のものでいい。カメラの横にある超小型のサーバーでデータを処理しているので、店舗やセンターに大きなサーバーも必要ない。構成がシンプルなため2週間もあれば導入できる」と説明する。
サンフランシスコの実験店舗は約18平方メートルの床面積で、4個のカメラを導入している。1個のカメラで2メートル四方のエリアをカバーしている計算だ。「多くの顧客が入店しても個別に認識でき、その店舗に消防関連法で定められた最大人員までは対応できる」(モツクリCEO)。専用のカメラがところ狭しと並ぶAmazon Goの店舗に比べると、安価かつ少ないカメラでカバーできていると考えられる。
市販のカメラでも十分な精度を得るため、人や商品を認識するAIのアルゴリズムを実装するソフトウエアは自社で開発したものを利用している。「AIの認識の確度が低いアクションについてはアラートを出し、人間がチェックをして正解を入力して精度を上げている」(モツクリCEO)。流通業のユーザーのデータによって精度が向上していくが、「ソフトウエアやアルゴリズムの所有権はあくまでもジッピン側だ」(同)という。
なお、サンフランシスコにはスタートアップの米スタンダード・コグニションもレジレスの実験店舗を構えている。技術提供のビジネスモデルはジッピンと同じで、違いはカメラのみでレジレスを実現している点である。日本で医薬品などの卸売業大手のPALTACと提携しており、取引先であるドラッグチェーンへの導入を始めている。
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