日本を代表する約30社の若手幹部候補が、シリコンバレーでデザイン思考や現地のカルチャーを学ぶ研修に挑んだ。参加するには各企業の役員の推薦が必要なうえに、主催者側の審査もある。イノベーティブな社員を育成し、企業を本気で変革したいと考える企業は参加を検討してはどうだろうか。
「日本にいるとき自分の会社でイノベーションを起こすのは無理だと思っていたが、このメンバーならばできると思った」「この場の熱量をなんとか維持したい」「絶対にまた会おうな」
こう言って日本企業の若手32人は2019年5月末、晴天のシリコンバレーを後にした。
“共通言語”で議論が進展
彼ら、彼女らが参加したのは、SAPジャパンが主催する「RELAY」と呼ぶプログラムだ。SAPが各企業の役員クラスに声をかけ、各社の次世代を支える人材として指名してもらった若手である。米国に駐在する責任者であるSAP Labs Silicon Valleyの坪田駆プリンシパルは「我々の目的は日本企業の本気の変革を支援すること。各企業の役員に推薦してもらい、参加者にどのような成長事業での活躍を期待するのかを書いていただく。組織として取り組む意思があるのかを確認し、参加を受け付けるかを決めさせていただいている」と説明する。
5日間のプログラムのうち主として後半3日間で、デザイン思考の説明、問題の発見や解決のワークショップが行われた。付箋を使って、問題点や解決案のアイデア出しをしていくのは見慣れた光景だ。ステークホルダーや制約条件などを明確にする「ビジネスモデルキャンバス」という一般的な手法をベースにSAPなどが開発した、独自の分析プロセスを利用している。「課題を見つけて分析するだけでなく、それにテクノロジーを掛け合わせて、さらに具体化するエグゼキューション(実行)までを対象にしているのが特徴だ」(坪田プリンシパル)という。
デザイン思考のファシリテーションはSAPのOBであるホシン・ミン氏が担当した。ミン氏がSAPに在籍している際に「デザイン思考+テクノロジー+エグゼキューション」を支援するフレームワークを開発。その後独立してデザイン思考支援会社のRock 15を起業した。
短期間だったが参加者からは、「共通の手法を学んだことで、同じ前提で議論することができた」「自分たちがすべきことが明確になった」という声が多く聞かれた。
例えば、建設業の参加者は「今、ゼネコンがどのような状況に置かれているのか。これまでは関係がないと思っていた、グーグルのような企業が我々の業界にどう影響を及ぼすのかを、イメージできるようになった」と言う。
他の参加者も「デザインシンキングは消費者向けの製品やサービスを開発するものだと思っていたが、法人向けにも適用できそう」「これまでソリューションを考えることをやってきたが、ここに来て課題の設定が大事なことに気づいた」「自分も変わり、会社も変えていきたい」「1週間のプログラムの途中までもやもやしていたが、最終日の朝にひらめいた。ここに来て目標が変わった」などと言い、全員が新たな発見を得たようだ。
与えられたテーマは災害時に役立つ情報基盤の活用法である。SAPが大分大学やIT企業などと進めている、大分県における減災・防災のプラットフォームの活用を想定したものだ。社会に受け入れてもらうために、非常時だけでなく普段も利用してもらえる仕掛けも求められた。「民間企業の取り組みとして、普段も使ってもらえることで利用者も増える」(坪田プリンシパル)。メンバー間の理解を進めるため、ブロックを利用してモックを作るグループも見られた。対象となる利用者の特徴である「ペルソナ」を明確にするため、劇風で発表するグループもあった。
例えば、高齢者の自宅にネコ型ロボットを配布し、普段はペットロボットとして話し相手になったり買い物の支援をしたりする。災害時には高齢者の誘導や安否確認をするというアイデアだ。別のチームは、地震発生時に各企業の営業車などのクルマに取り付けたセンサーで通れる道を即座に把握するサービスを考案した。普段は最適ルートの導出に利用できる仕組みでもある。
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