2000年代後半頃から米シリコンバレーを中心に、教育をテクノロジーで支援するEdTech(Education Technology)が急速に発達した。米国ではEdTechの活用が一巡し、新たなステージへと入り始めている。ベンチャーキャピタル(VC)による投資も含め、最新動向をリポートする。

米国ではテクノロジーを利用した教育がいち早く始まっている。写真はイメージ(写真/Shutterstock)
米国ではテクノロジーを利用した教育がいち早く始まっている。写真はイメージ(写真/Shutterstock)

 EdTechは日本でも分野×テクノロジーの造語として定着した感がある。政府のレベルでは2018年に経済産業省が『「未来の教室」とEdTech研究会』を立ち上げ、その議論を踏まえて、実証事業を開始した。文部科学省も「柴山・学びの革新プラン」を公表し、新時代の学びを支える先端技術の活用を推進するとしている。

 日本発のEdTechスタートアップも好調だ。19年3月に米テキサス州オースティンで開催された世界最大級の教育カンファレンス「SXSW EDU」のコンペティションで、日本のDigika(デヂカ)がファイナリストに選ばれるという快挙を達成した。iPadでそろばん式暗算を身につける学習アプリ「そろタッチ」を披露した。

 EdTechが勢いづく中、AI(人工知能)を活用したパーソナライズドラーニングの実現が注目を浴びている。学習データをAIで解析することで、生徒一人ひとりに合った学習プランを提供できる、「学びの個別最適化」が可能になり、従来の一斉指導型の授業に革新をもたらせるのではと大きな期待が寄せられている。

動画をベースに2010年から本格的に始まった

カーンアカデミーのホームページ(出所/カーンアカデミー)
カーンアカデミーのホームページ(出所/カーンアカデミー)

 米国では、シリコンバレーを中心に、2010年前後より、様々な形の取り組みが行われてきた。その先駆けとして有名なのは、実は動画配信で日本でも有名なカーンアカデミー(Khan Academy)である。創始者であるSalman Khan氏が11年に出演したカンファレンス「TED Talks」では、シリコンバレーの郊外にあるロスアルトスの公立学校で行ったパーソナライズドラーニングの模様が紹介されている。

 カーンアカデミーの動画リソースを使って生徒がそれぞれのペースで学習を進める。生徒の学習状況は教師が常に把握できるようになっており、生徒がつまずいている学習項目があれば赤く表示され、即座にサポートできるというものだ。Khan氏は、一斉指導型の授業に比べ、教師がより多くの時間を生徒とじかに接することができるようになることの重要性を“Humanizing classroom(ヒューマナイジングクラスルーム)”という表現で強調した。

 シリコンバレーのEdTech熱がピークに達するのと時を同じくして、究極のパーソナライズドラーニングを実現するプラットフォーム構築を目指す動きが加速した。とりわけ教育界のみならず、テック業界の大きな注目を集めたのが、サミットラーニング(Summit Learning)とアルトスクール(AltSchool)だ。フェイスブックCEO(最高経営責任者)のMark Zuckerberg氏が支援することでも知られている。

フェイスブックとプラットフォームを共同開発

サミットラーニングのホームページ(出所/サミットラーニング)
サミットラーニングのホームページ(出所/サミットラーニング)

 サミットパブリックスクールは、学力格差が激しいシリコンバレーにおける貧しい地域の子供たちの学力向上を目指して創設されたNPO法人だ。現在は、主にシリコンバレーやシアトルの周辺で、貧しい地域を中心に複数のチャータースクールを運営している。

 サミットラーニングプラットフォームはフェイスブックがサミットパブリックスクールと共同開発したものだ。最初から最先端テクノロジーを駆使した教育を行っていたわけではなく、生徒一人ひとりの目標設定とメンタリングの徹底で、高い大学進学率を達成してきた。フェイスブックとの共同開発を始めたのは、既に十分な実績を積み上げた14年以降だ。

 順調に全米展開を進めており、15年のサービス開始から既に380を超える学校でプラットフォームが使われている。19年度から、サミットラーニングを新たなNPO法人として独立させて、全米展開の推進に注力していく見通しだ。

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