米アップルのデザインをリードしてきた、ジョナサン・アイブCDO(最高デザイン責任者)が2019年後半に同社を去る。アップルを離れてデザイン会社を設立する。独立後もアップル向けの仕事を手掛け、ウエアラブルやヘルスケアなどの戦略領域に関与していくという。

ジョナサン・アイブCDO(左)と、ティム・クックCEO(2018年9月、出所/アップル)
ジョナサン・アイブCDO(左)と、ティム・クックCEO(2018年9月、出所/アップル)

 ジョナサン・アイブ氏は1992年にアップルに入社し、ディスプレー一体型のパソコン「iMac」やスマートフォン「iPhone」、タブレット端末「iPad」のデザインを担当した。アップル復活の立役者の1人と言える存在だ。近年ではアップルの巨大な新本社「アップルパーク」の設計に携わったことが記憶に新しい。

アップルの新本社「アップルパーク」(出所/Shutterstock.com)
アップルの新本社「アップルパーク」(出所/Shutterstock.com)

 今回アイブ氏の独占インタビューの記事を掲載した英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、新会社の名称は「LoveFrom(ラブフロム)」で、2020年から本格稼働する見通しだ。アップルが戦略的な事業分野に位置づけるウエアラブルやヘルスケアにも関与していくという。

「アップルがアップルでなくなるかもしれない」

 アイブ氏の生い立ちからアップルでの活躍までを描いた、『ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー』(リーアンダー・ケイニー著、日経BP社、2015年)によると、ギル・アメリオ氏がCEO(最高経営責任者)であった1996年から97年の頃、アイブ氏はアップルを辞めることを考えたが、当時の上司に引き留められたという。

 アイブ氏は同書のなかでこう語っている。

 「利益を追いかけるあまり、製品への思いやりが失われていた。デザイナーに外観を繕うことしか求めず、エンジニアは生産コストを下げることしか考えていなかった。僕は辞めるところだった」*1

 アイブ氏が踏みとどまったことで、1998年のiMacに始まる独創的な製品が世に送り出されたのだ。

アイブ氏の代表作の1つであるiMac(出所/Shutterstock.com)
アイブ氏の代表作の1つであるiMac(出所/Shutterstock.com)

 アイブ氏の最初の事業パートナーだったクライブ・クリナー氏は同書のなかで、スティーブ・ジョブズ氏に力を与えられたアイブ氏が次々と見事な作品を生み出したと証言。そのうえで次のように指摘した。

 「信じないかもしれないが、アップルにとってはスティーブの死よりジョニーが辞めるほうが深刻だ。ジョニーは替えがきかないから。あれほどの人間性、ビジョン、落ち着き、チームをひとつにまとめる力を持つデザイナーを見つけるのは不可能だ。もしジョニーがいなくなれば、アップルはアップルでなくなるかもしれない」*1

自由度にこだわり新たなトレンド

 アイブ氏はデザインを通して自社製品だけでなく、関連業界に大きなインパクトを与えた。アップル製品に詳しいある技術者も記者に対して、「アイブ氏は製造業に新たなトレンドをもたらした」と証言する。

 具体的には、金属の固まりから削り出す「切削加工」で作ったきょう体をスマートフォンといった電子機器のトレンドにしたのだ。iPadやiPhoneなど切削加工の金属きょう体を採用した機器がヒットすると、競合他社もそれに追随した。

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