米アドビは2019年3月、デジタルマーケティングの総合イベント「Adobe Summit 2019」を開催した。毎年恒例のイノベーションにつながるサービス提案では、AI(人工知能)やAR・VR(拡張現実・仮想現実)を活用したものまで、さまざまなプレゼンテーションが繰り広げられた。
新たなサービス提案は、Adobe Summit 2019のイベント内で、「SNEAKS」として開催した。SNEAKには、こっそりや内密といった意味があり、将来を見据えた“秘密”のテクノロジーを披露するピッチセッションだ。過去のSNEAKSで紹介されたテクノロジーの中にはプロダクトにつながったものもあるが、採用されずお蔵入りするものも少なくない。
壇上には作家で俳優のミンディ・カーリング氏も登壇し、アドビのAPACエクスペリエンスビジネス シニアディレクターのスティーブ・ハマンド氏とともに進行役を務めた。7件の発表は会場からのTwitter投票でリアルタイムに評価されていった。中でも注目を集めたのは、デジタルマーケティングにおけるAIを活用した人の支援だ。
AIがグラフを自動解釈し説明

会場からの投票で最も評価が高かったのが、「Data Unbound」だ。アドビのAIプラットフォームである「Adobe Sensei」を利用したもので、グラフのデータを解釈して、説明してくれる機能を披露した。例えば、「この線グラフはアマゾンとバーンズ&ノーブルの2月の売り上げを示したもので、1週間ごとに集計している。週末にはより動きが大きく、アマゾンが最も大きな面積を占めている」といった解釈をしてくれる。
Data Unboundのもう1つの機能が「Open Data Links」だ。マーケティングサービスのグラフのデータを他のアプリやサービスなどで容易に使えるようにする。デモではプレゼンテーションソフトのPowerPointにデータを出力してグラフをコピーした。その他、Tableau、Power BI、Excelなどにもデータをエクスポート可能だという。PC向けのサイトのデータをモバイル用に変換して表示する機能も披露した。
AIがARで商品を出す相手を分析
2番目に高い評価を受けていたのが、「Augmented Offers」である。ARを利用したサービスで、地図上に商品の3D表示を掛け合わせて表示ができる。デモでは空港内のマップを示し、書店でカーリング氏の本を立体化して表示したり、カフェでドーナツの画像を回転させたりして会場を沸かせていた。
一般的なARのデモであるが、Adobe Senseiも連携させることで差異化を図っていた。AIによるレコメンデーションのエンジンを利用し、顧客ごとにどの商品をいつ提示すればいいのかを分析し、お薦めできるとした。
AIが契約書のデータを確認する

PDFなどの文書上にある金額などのデータを確認するのが「Intelligent Agent」である。B2Bマーケティングを想定したもので、3番目に高い評価だった。
デモでは、顧客から新しい契約書が来た際に、音声による命令で以前の契約や他社の条件と比較できることを示した。そのうえでアドビの電子サインを利用して契約が完了できることを示した。契約書の受領から、データを基にした確認、契約までを迅速かつ精緻にできることを見せたわけだ。
アドビのドキュメント管理のクラウドサービスと、米マイクロソフトのAI音声サービスの連携で実現した。Adobe Senseiによる機械学習を活用し、複数のデータソースのデータを適切に統合しているという。
このほか、カスタマージャーニーを詳細に分析できる「Journey Genius」、Webの閲覧者に印象が残るよう写真を効果的に加工してくれる「Expert Assist」など合計で7つのテクノロジーが披露された。
今回のSNEAKSでは、アドビのAIプラットフォームであるAdobe Senseiのさまざまな応用を見せた。また、昨年買収したB2Bマーケティングに強みを持つマーケティング自動化のマルケトや近年親密な関係にあるMSのサービスを組み込んだ提案もあった。アドビのテクノロジー活用の方向性を知る上でも重要なセッションだった。これまでは会場参加者のみへの公表だったが、今年からYouTubeでも配信している。
会場からの投票では、AIによって複数のデータソースがあるような煩雑な作業を支援できるテクノロジーに人気が集まった。今後、こうしたユーザーの操作系に近い側でのAI活用が1つのトレンドになるだろう。
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