米国で、食に関連したテクノロジーの応用である「フードテック」や高度化したキッチンである「スマートキッチン」が、コンシューマ市場の新たなキーワードになりつつある。2019年1月、米ラスベガスで開催された「CES 2019」でも注目を集めていた。日本の家電業界が参考にすべき点は多い。

約50社のフードテックスタートアップがCES会場の近くで製品やサービスを披露した
約50社のフードテックスタートアップがCES会場の近くで製品やサービスを披露した

 報道向けのプレスデーである1月6日夜に開催された、スタートアップが中心のイベント。

 そこで多くの来場者で人垣ができていたのが、自動パン焼き機である。米ウィルキンソン・ベーキング・カンパニーがCESで初めて公開した「BreadBot」である。原材料の投入から、こねたり焼いたりする製造、陳列まで自動でこなし、1時間に10斤のパンを作ることができる。

自動パン焼き機の「BreadBot」

 BreadBotは食料品店への導入を想定しており、集客効果も抜群だという。同社は「その場で必要な数だけ製造することで、新鮮なパンを販売でき、パンの廃棄も減らすことができる。配送のトラックのエネルギーも削減可能だ」といった環境への貢献も強調する。

 豆類などを利用する代用肉の米インポッシブル・フーズは、食感などを改善した第2世代のパテをCESで発表した。

代用肉の米インポッシブル・フーズのパテを使ったハンバーガー
代用肉の米インポッシブル・フーズのパテを使ったハンバーガー

 インポッシブルは肉の分子レベルを研究し、大豆や小麦など植物由来の成分のみを利用して本物の肉に近い味や食感を実現することに取り組んでいる。今回、食感を改良し、第2世代に進化させた。CESの会場で実際に配っていたハンバーガーを食べてみたところ、豆腐のハンバーグのような食感だった第1世代に比べて、肉汁もリアルに再現されていると感じた。

 ウィルキンソンと同様にインポッシブルも環境への貢献を掲げる。肉牛を育てるには、大量の水や草が必要とされ、牛のげっぷが温室効果に影響を与えているとされるからだ。インポッシブルは1個の植物肉ハンバーガーによって、本物の牛肉を使う場合に比べて、75平方フィートの土地、バスタブの半分の水、18マイル(約29キロメートル)分のクルマの燃料消費を節約できるとしている。

 フードテックはおいしさを追求するのは当然だが、両社のように廃棄ロスの削減や環境保護など社会的意義を訴えるものも少なくない。消費者にとっても環境にやさしいということが購入のきっかけにもなる。

フードテックのスタートアップが50社集合

 CESの会場近くのホテルでは、フードテック関連の約50社のスタートアップの製品・サービスを集めた「FoodTech Live @ CES 2019」と呼ぶイベントが招待制で催された。スマート・キッチン・サミットという、シアトルや東京などでイベントを開催しているグループなどが企画した。

 CESでこうしたフードテックやスマートキッチンのイベントが開催されるのは初めてといい、家庭においてプロのレベルの食材を容易に作れるようにするコンセプトの調理器が多かった。スマートフォンの普及によって、アプリに新しいメニューを配信したり、データを基に調理器を詳細に制御したりできるようになったことが背景にある。米サンフランシスコ在住でフードテックに詳しい外村仁氏は「テクノロジー業界にはもともと料理好きの人が多く、料理業界の人と結び付くことによって、革新的な調理器具や連携するレシピやアプリが生み出されている」と指摘する。

米フロマッジオの家庭用のチーズ製造器
米フロマッジオの家庭用のチーズ製造器

 米フロマッジオは牛乳などを材料にする家庭用のチーズ製造器を展示した。「店舗にあるチーズは多くの添加物が入っており、輸入チーズは高価だ。我々の装置は、フレッシュなものから熟成タイプまで、ほとんどのタイプのチーズを作ることができる」(同社)。スマホアプリでレシピを選んで指示したり、必要な原材料を注文したりできる。

 シンガポールのジンプリスティックは、材料から薄い生地のロティなどを作るマシン「rotimatic」を展示した。ソフトウエアの更新で機能を拡充しており、「18年にピザに対応した。今後、ピタやラップ、トルティーヤを作れるようにする」(同社)。この他、ヨーグルトやビール、カクテルなどの製造器をスタートアップ各社が展示した。

 インターネット上には多くの料理レシピが公開されている。それらを活用して料理を作る過程を楽しむための提案も数多くある。

クックパッドのレシピ連動調味料サーバー「OiCy Taste」
クックパッドのレシピ連動調味料サーバー「OiCy Taste」

 例えば、日本勢で唯一参加したクックパッドは、レシピ連動の調味料サーバー「OiCy Taste」を展示した。スマホでレシピを選ぶと、必要な分量の調味料を用意してくれる装置である。「レシピの調味料のデータを分析しながら開発した。コンセプトモデルで発売予定はないが、調理中の計量の煩わしさを解消し、料理に集中してもらう狙いがある」(同社)という。

 米チコリーは1000以上のレシピサイトと連携し、必要な食材をネットスーパーで購入できるスマホアプリを提供している。作りたいレシピを選ぶと、必要な食材を購入できるウォルマートやアマゾンなどのネットスーパーで価格を比較。総額が最も安いところから食材を調達できる。

米ドロップの調理支援サービス。右下は計量用のスケール
米ドロップの調理支援サービス。右下は計量用のスケール

 米ドロップはAI(人工知能)を活用した調理の支援アプリを提供している。アプリが調理のステップを教えてくれるほか、食材の重量を量ることができるスマートスケールも提供している。利用者の家にある食材の分量によって、調理時間や調味料などの分量をAIが最適化してくれる。

 IoTを活用した製品・サービスも多く出展された。中でも米ワイド・アフタヌーンの賞味期限を管理するスマートタグ「Ovie」が興味深い。

賞味期限を管理するスマートタグ「Ovie」
賞味期限を管理するスマートタグ「Ovie」

 まず、タグと食材を関連付けてスマホで登録すると、クラウドサービスにそれらの情報がアップロードされる。そしてタグを専用の容器や食材のクリップに装着する。そのまま冷蔵庫に入れておいて、時間が経過し消費期限が近づくとタグが光って知らせてくれる。また、スマホで現在冷蔵にある食材を列挙し、それらで料理できるレシピを得ることもできる。食材の登録には、Alexaなどの音声AIアシスタントを利用することもできる。

 フードテックやスマートキッチン市場には、欧米の大手家電メーカーも参入し始めている。「これまでの主役はスタートアップだったが、欧米の大手メーカーがスマートキッチン市場を本気で狙ってきており、外部との連携機能などを搭載してきている」(外村氏)。

 実際、CES2019の会場には、米ワールプールや米ゼネラル・エレクトリック(GE)などが、フードテックやスマートキッチンの対応製品を展示した。特にワールプールのブースは、タッチパネルで多様な調理モードを設定できるオーブンなどが多くの来場者を集めていた。

 GEは家電部門を中国ハイアールに売却しており、両社の担当者がブースに立っていた。大きなディスプレーで操作できるオーブンを説明していたが、ハイアールの下で戦略を見直している印象だった。

 日本メーカーではシャープが気を吐いていた。タブレットやスマホでレシピを選んで、クラウド連携で設定を電子レンジに送ることができるサービスをCESに展示していた。同社は北米のビルトインキッチン市場に強く、高価格帯での普及を目指している。

 ハード単体の高性能の訴求から、テクノロジーを活用した新しい生活スタイルを提案できるかどうか。スタートアップと大手が入り交じり、新市場の本格的な開拓が始まった。日本の大手メーカーがこれまで調理器具の“付属品”に位置付けていたレシピを、キラーアプリやコンテンツとして見直す必要もありそうだ。