世界最大の家電・IT見本市「CES2019」で見えたモビリティの最新トレンドを、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)文脈で読み解く本特集。第1回は、モビリティに音声UIを取り込んで、移動体験のアップデートを図る自動車メーカーなどの提案を紹介。キーワードはモビリティの「パーソナライズ化」だ。

CES 2019のアマゾンブース
CES 2019のアマゾンブース

 2019年1月8日から米国ラスベガスで開催された「CES 2019」は、4500社を超える企業が参加。近年、注目を集めるモビリティ分野の展示では、自動運転車や電気自動車(EV)、空飛ぶクルマなどの新モビリティが多く見られた。「CASE(Connected, Autonomous, Share, Electronics)」と呼ばれる自動車業界を取り巻く環境変化のキーワードに対応し、各分野の先進事例やコンセプト提案が数多く行われた形だ。

 CESといえば、18年のプレスカンファレンスにおいてトヨタ自動車の豊田章男社長が、「私はトヨタを、クルマ会社を超え、人々の様々な移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました。私たちができること、その可能性は無限だと考えています」と発表。モビリティサービスを担う次世代の自動運転車両として「e-パレット・コンセプト」を提示すると共に、米ウーバーテクノロジーズ、米アマゾン、米ピザハット、中国・滴滴出行(ディディチューシン)などとのアライアンスを発表したことは記憶に新しい。今回のCES 2019では、どんなモビリティの近未来が見えてきたのか。来るべくMaaS時代につながる新たな技術・サービスの萌芽をリポートしていきたい。

 まず、最も顕著だったのが、米グーグルのGoogleアシスタントと米アマゾン・ドット・コムのAmazon Alexa(アレクサ)といった音声UIが、各社が提案するモビリティサービスに深く浸透していたことだ。ドライバーあるいは乗客が車両に乗り込むと、まずはグーグルかアマゾンのアカウントにログインし、カーナビやカーオーディオ、これまで自動車ではあまりできなかったVRなどのエンターテインメント体験に至るまで、個人の趣味・嗜好に合わせて車内サービスがレコメンドされるというコンセプト提案が多かった。

 これはモビリティに限らず、スマートホームや冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの家電業界も同じ傾向。CES会場の至るところに「Hey Google」とプリントされた衣装を着たスタッフが配置され、公共交通機関の外装ラッピング広告にも大きくロゴが打ち出されていたのが印象的だった。もちろん、音声UIの活用は完全自動運転を想定したものだけではなく、ドライバーが存在する現状のクルマにおいても、ハンドルから手を放さずに様々な情報へアクセスし、各種操作をするための有効な手段として提案されていた。

 また、多くの自動車関連ブースでは、日本でもMaaSを構成する新たな移動手段として期待される相乗りサービスに適したシャトル型のモビリティが展示されていたことも印象的だ。18年にトヨタが示したe-パレットしかり、自動運転×モビリティサービスとはどうあるべきかの1つの答えとして、ハード的にはシャトル型のモビリティが業界全体の共通認識になりつつあるようだ。加えて、EV普及の流れから、ナビゲーションシステムに充電スタンドの位置情報や空き情報、EVの充電中に行える体験(レストランやレジャー施設の案内など)を表示するといった提案が数多く見られた。

独ボッシュが世界初出展したドライバーレスEVシャトル。車両の予約、料金の支払い、他の乗客とのシェアに必要なハードとソフト、新しいデジタルサービスも合わせて提案
独ボッシュが世界初出展したドライバーレスEVシャトル。車両の予約、料金の支払い、他の乗客とのシェアに必要なハードとソフト、新しいデジタルサービスも合わせて提案
トヨタ紡織が展示した自動運転コンセプト「MOOX」。ビジネスやエンターテインメントなど、様々なサービスで空間活用されることを想定し、自由自在なシートレイアウトが可能
トヨタ紡織が展示した自動運転コンセプト「MOOX」。ビジネスやエンターテインメントなど、様々なサービスで空間活用されることを想定し、自由自在なシートレイアウトが可能
独ダイムラーが展示した自動運転のコンセプトカー「Vision Urbanetic」。トヨタのe-パレットのように用途に合わせてボディーを載せ替えることが可能
独ダイムラーが展示した自動運転のコンセプトカー「Vision Urbanetic」。トヨタのe-パレットのように用途に合わせてボディーを載せ替えることが可能

 そして今回のCES 2019のモビリティ分野では、新世代の電動車椅子で知られる日本発のスタートアップ、WHILL(ウィル)も注目を集めた。同社は空港や商業施設、病院、テーマパークなどでのシェアリングを想定した「WHILL 自動運転システム」を初公開。前方の障害物を検知するステレオカメラを左右のアーム部に、後方にはセンサーを搭載し、時速6㎞程度という低速度域での自動運転・自動停止を実現している。通信回線を搭載しており、ユーザーがアプリで自動運転の車椅子を呼び出したり、複数の車体を一元管理して自動で待機場所に移動させたりといった運用ができるという。会場で自動運転のデモンストレーションを見たが、小回りの利く操縦性と最大5㎝の段差を乗り越えられる機能などの工夫点があり、実用化のイメージを印象付けた。

 このWHILLの自動運転システムは、メディア向けのイベントでも多くの記者が注目し、CES 2019 Innovation Awardsも受賞。同社はイギリスのヒースロー空港などで、2020年の実用化を目指すとしている。様々な移動手段を統合するMaaSの動きの中では、今後ラストワンマイルを担うパーソナルモビリティとして高齢者などのニーズがある。また、小ロットの物流や屋内の移動全般のプラットフォームとして機能する可能性もあり、今後の機能拡張およびユースケースについて注目される。

WHILL 自動運転システムを搭載したプロトタイプ
WHILL 自動運転システムを搭載したプロトタイプ

CES 2019×モビリティ「3つの要点」

 ここで今回のCES 2019を視察して、モビリティ分野で見られた特徴的なキーワードとして下記の3つを挙げておきたい。


  1. モビリティのパーソナライズ化
  2. 社会実装フェーズに入った自動運転(特集第2回、1月22日公開予定)
  3. モビリティ分野のプラットフォーム争奪戦(特集第3回、1月23日公開予定)

 特集第1回の本稿では、「モビリティのパーソナライズ化」について解説する。これは、先述したようにGoogleアシスタントやAmazon Alexaの活用に象徴される動きで、音声UIによって乗車した個人を認識し、その趣味嗜好に合わせた車内サービスを実現するものだ。対象は自動車だけではなく、独ボッシュはバイクにおいても同様の提案をしていた。

 その好例が、“中国版テスラ”とも言われるEVスタートアップ、BYTON(バイトン)だ。新しいEVのコンセプトモデルとして、車内のインパネ部分に左右に広がる49インチの巨大スクリーン、ハンドル中央にもディスプレーを配置した「M-BYTE」を提案していた。

 また、展示ブースではAmazon Alexaと連携してカーナビにログインすると、EVの充電スタンドの選択や、充電中に利用者の好みに合ったレストランなどを米国のグルメサイト「Yelp(イェルプ)」と連携してレコメンドするなどの付加サービスを披露。先行してスマホで培われたパーソナライズ化の機能をモビリティに持ち込み、クルマを使ったUX(ユーザーエクスペリエンス)全体をリデザインしている。

BYTONのコンセプトモデル「M-BYTE」
BYTONのコンセプトモデル「M-BYTE」

 また、独アウディは、自動運転時代を想定して「Audi Immersive In-Car Entertainment」と呼ぶ4Dライクな映像視聴環境の車内エンターテインメント提案を行っていた(Immersiveは「没頭できる」の意)。例えば、停車中の車内で映画を見ているとき、映像内の動きに応じてクルマのサスペンションがアメ車のハイドロの如く激しく上下運動するといったアイデアがある。車内空間の共有という点において興味深いデモであり、移動中のエンタメ体験自体がクルマに乗る目的になる可能性を感じた。

 このように、パーソナライズ化で車内の体験が拡張されるだけではなく、移動している時間、EVの充電時間など、これまではムダと思われていた物理的な時間を有効活用する方向で、クルマによる移動体験をアップデートする提案が多くなされていた。

 モビリティのパーソナライズ化が進むことで、ユーザーは自宅でも車内でも一貫した体験を享受できるようになる。特に自動車の移動では、鉄道やバスでの移動よりもプライベートな空間が確保され、よりパーソナルで満足度の高い体験を作りやすい。この点は、今後のMaaS時代の1つの競争のポイントになるだろう。今回の展示により自動車メーカー側の提案は出そろった感もあり、良い意味でのサービス競争がパーソナライズ化という文脈で始まっている。

 以上のように、CES 2019のモビリティ分野のキーワードとして、パーソナライズ化とUX追求の流れを紹介した。MaaSの文脈では、コストや所要時間、速達性の面からマイカーは減少していく予測が多い。しかし今回の展示では、自動車メーカーとしてより効率化を図りながらも、運転自体や移動時間の体験をより向上させてクルマの価値、存在意義を拡張するような姿勢が顕著であり、そこには新しい移動価値の可能性を感じた。

 一般的に移動者は、「早い」「安い」「近い」という要素で移動手段の選択を行う。それに対して、スマホで培われたサービスをモビリティにそっくり落とし込み、パーソナルな体験でユーザーを虜にしていくという自動車メーカー各社の戦略は、移動の効率性が重視され、ともすれば公共交通を主役に引き立ててきたMaaSの勢力図に大きな影響を及ぼしていく。