平成という時代が幕を閉じる。プロダクト、グラフィック、デジタルなどさまざまな分野のデザイナー10人の目を通し、この30年間をデザインの視点で振り返る特集。第9回は良品計画の矢野直子氏。AI(人工知能)の進化で不安や喪失感が募ると予想される今後、人間らしい暮らしが再認識されると言う。

「AIの進化で、不安や喪失感を覚える人もいる。人間らしい暮らしの手助けをしていきたい」(写真/新関雅士)
「AIの進化で、不安や喪失感を覚える人もいる。人間らしい暮らしの手助けをしていきたい」(写真/新関雅士)
矢野直子(やの・なおこ)氏
良品計画 生活雑貨部 企画デザイン室長
東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、1993年、株式会社良品計画入社。2003年、夫の赴任でスウェーデンへ。その間、業務委託でMUJI Europa Holdingsに従事。2008年帰国、株式会社三越伊勢丹研究所(旧伊勢丹研究所)入社。2014年、良品計画へ再び入社。以降、生活雑貨部企画デザイン室長を務める。

──平成の30年間に、どんな変化がありましたか?

矢野直子氏(以下、矢野) 私は、平成元年に大学に入学してプロダクトの勉強をした後、1993年に良品計画に入社しました。平成の初期、つまり90年代は、無印良品の「素材の選択」「工程の見直し」「包装の簡略化」といった価値観が、世間から認められた時代でもあったと思います。社内のものづくりも加速し、プロダクトの種類もどんどん増えていきました。

 そんな無印良品の90年代を象徴するものの一つが、「モジュール化(基準寸法)」です。無印良品では、日本の家屋のサイズに合わせたものづくりをするために、ふすまの幅を参考にして、基本モジュールを決めています。そうすることで、複数の収納用品を棚の内寸にちょうどよく収められるようにしたのです。97年に活動をスタートし、モジュールのサイズが定まったのが90年代の終わりでした。そして、今もなお模索を続けています。「すべてがそこに収まるサイズ」を決めるためには相当な時間がかかりましたが、それが私たちの財産になりました。

 無印良品の考え方や、モジュール化などの取り組みを後押ししてくれたのが、当時の人々が目覚め始めた「新合理性」的な思考だったように思います。90年代はバブルが崩壊し、自分たちの将来に不安を覚える人が増えた時代でした。人々の考え方も「いかに賢く買い物をするか」という方向性にシフトし、私たちの考え方と合致したのだと思います。

──2000年代を象徴すると思われるプロダクトなどはありますか?

矢野 00年に発売した「壁掛式CDプレーヤー」です。プロダクトデザイナーの深澤直人さんが「without thought」で考えたものを、無印良品で商品化しました。換気扇のような形で、ひもを引っ張ると、風ではなく音楽が流れてくる。これは、「目の前にひもがあると、思わず引っ張りたくなる」という人間の心理を利用したものです。

 深澤さんは、「人々の日々の行動やしぐさをつぶさに観察し、必要とされているものを探る」という、観察(オブザベーション)を私たちに教えてくれました。そこから、無印良品のものづくりも大きく変わりました。人々が無意識にやってしまう行為や行動が、デザインの新しいニーズや問題解決になると学んだのです。

売り上げ低下に悩まされた2000年代、どう克服したか

──00年代は、現在の無印良品らしいデザインが確立した時期だったと思います。

矢野 同時に、無印良品の00年代は、売り上げの低下に悩まされた時期でもありました。必要な商品が出そろい、飽和状態になってしまったことで、自分たちの原点を見失いかけていたのです。そんな中「原点に戻ろう」という思いでスタートしたのが、「Found MUJI」という活動でした。無印良品はもともと「探す、見つけ出す」という姿勢で生活を見つめてきました。この活動を「Found MUJI」と名付け、その土地の文化や気候、暮らしに寄り添った道具を世界中から探し出し、ものづくりに活用したり、リプロダクションして販売したりしています。03年から不定期に続けていましたが、定期的な活動として確立したのが11年。この年、1号店「無印良品 青山」を「Found MUJI 青山」にリニューアルしました。

 90年代後半から合理的なものづくりを続けてきましたが、生活があまりにも合理的になり過ぎると、「人間性が失われつつある」と感じる人も出てきます。そこを埋めてくれたのがFound MUJIでした。「人間性を回復したい」と思う人々が、先人の知恵に価値を見いだしてくれたのです。

──その後、さらに変わってきたことはありますか?

矢野 14年に成田国際空港第3旅客ターミナル内のインテリアデザインを手掛けて以来、公共デザインの仕事が多くなりました。同時に、日本以外のさまざまな国・地域でオブザベーションをするようになって、新しい学びを得る機会も増えました。私たちの考え方にも、「日々の感じ良いくらし」だけでなく「地域の中でどう役に立つか」という視点が加わってきたように思います。

 最近では、自動運転技術を研究開発するフィンランドの企業Sensible 4に、自動運転バスのデザインを提供。3月中にはプロトタイプのテストランを開始します。フィンランドのみならず各国では地方の過疎化や高齢化が進んでいますが、この自動運転バスが彼らの生活の助けになるはずです。

 テクノロジーの進化に伴い、素材も進化するはずです。新技術や素材が、問題解決の糸口になることもあるでしょう。そういった時代に呼応したチャレンジをする一方で、私たちは「人間らしい生活」について考え続けていきたい。例えば、今後、AI(人工知能)が人間の仕事の一部を担う一方で、不安や喪失感を覚える人も出てくると思います。私たちはこれからも、人々が地域に根差し、人間らしい暮らしを続けるために考え続ける集合体でありたいと考えています。




平成のデザイン

【平成元年頃~(1990年代~)】
モジュール化
バブル崩壊で「合理的な買い物」を志向する人が増加。無印良品のモジュール化や汎用性が、社会のニーズと一致した。

【平成12年(2000年)】
壁掛式CDプレーヤー
深澤直人氏のアイデアを無印良品で商品化。深澤氏に「オブザベーション」を学び、無印良品のものづくりが進化した。

【平成15年~(2003年~)】
Found MUJI
世界中から「探す、見つけ出す」という活動を通して原点回帰。写真は2011年にオープンした「Found MUJI 青山」。

【平成26年~(2014年~)】
公共のデザイン
「日々の感じ良いくらし」に「地域の中でどう役に立つか」という視点が加わった。技術革新に対応しつつ人間らしさを重視。