平成という時代が幕を閉じる。プロダクト、グラフィック、デジタルなどさまざまな分野のデザイナー10人の目を通し、この30年間をデザインの視点で振り返る特集。第6回はクリエイティブディレクターの水野学氏。平成以降、企業にとって重要になったのがブランディングデザインだという。

「人々がネットワークでつながることで、デザインが根底から変わり始めた」(写真/丸毛 透)
「人々がネットワークでつながることで、デザインが根底から変わり始めた」(写真/丸毛 透)
水野 学(みずの・まなぶ)氏
クリエイティブディレクター
good design company代表
ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手掛ける。著書に『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(ダイヤモンド社)、『センスは知識からはじまる』(朝日新聞出版)などがある

──平成はデザインにとってどんな時代だったと考えていますか。

水野 学氏(以下、水野) 人類の歴史を振り返ると、大きな変化として農業革命、産業革命がありました。そして、平成、特に1990年代後半から急速に拡大したのが「網業革命」だと考えています。網業は私の造語で、網はITやインターネットなどを含む情報通信網、つまりネットワークのことです。英語にすれば、「ネットリボリューション」ということになります。

 ネットワークが発展したことで、技術や環境、人々の暮らしなどが急速に変化し、進化しています。これら全体が網業革命だと思います。当然デザインも変化の渦の中にあります。

 人々がネットワークでつながることで、従来の常識を打ち破る考え方を多くの人が瞬時に共有し、それが新しい常識になるという現象が生まれています。そうした流れの中で、旧デザインが新しいデザインへと移行し始めたと思います。

 テスラの電気自動車が分かりやすい例です。従来のクルマは、エンジンを冷却するためラジエーターが必要で、フロントにはそれを覆うグリルが装着されています。モーターで走る電気自動車では、ラジエーターがないので、フロントから従来のようなグリルが姿を消しました。それによってクルマのデザインは根底から変わりました。

 電気自動車はコンピューターなどのITを駆使した製品です。そうした意味で、網業革命の流れの中から生まれた製品だと言えます。こうしたデザインの根底からの変化が、プロダクトだけでなく、グラフィックやコミュニケーションでも起こっています。

デザインは経営者の仕事へ

──ご自身の仕事は、網業革命によってどのように変化しましたか。

水野 それは、私がここ数年取り組んでいるブランディングデザインに関係します。ウェブやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及したことで、人々が密につながり情報交換しています。その結果、企業が一方的に発信する情報を消費者が簡単には信じなくなりました。こうした状況で、企業からの情報に耳を傾けてもらうためには、消費者が魅力を感じて振り向いてくれるブランド力が必要です。

 こうしたブランド力をデザインの力で生み出す取り組みをブランディングデザインと呼んでいます。網業革命が進む時代には、ブランディングデザインが重要になると考えています。

 相鉄グループの「デザインブランドアッププロジェクト」は、私が手掛けているブランディングデザインの例です。駅舎や車両、制服、商業施設などのデザインコンセプトを統一し、グループの認知度と好感度の向上を図るもので、私はデザインの総合監修を担当しています。

 鉄道会社は、駅前の商業施設や不動産、住宅のリフォームや路線バスなどの事業を一体で展開しています。以前であれば、多くの人は自分の使わない駅やその周辺についてはほとんど知ることがありませんでした。今は、沿線の飲食店や不動産、駅前の開発計画などの情報を沿線の住人はもちろん、地域外の人も瞬時に入手できます。

 鉄道会社の事業群は、かつては1本の路線が中心にあり、そこに多様な事業が付随しているイメージでしたが、今は、各事業が網状につながり、あらゆる面から鉄道会社が見られ、評価される状況です。だからこそ、鉄道会社には全方位から見たブランディングが必要です。

 デザインは、鉄道会社のあらゆる事業に関係してくることになりますから、商品開発部や宣伝部といった一部の部署に限定された仕事ではなく、経営者が担うべき仕事になりました。つまり、網業革命によって、経営者がデザインについての明確な見識を持つ必要が生まれたとも言えます。そうした経営者を外部でサポートする役割が、私を含めたクリエイティブディレクターです。

──網業革命は中小企業にとっても追い風になるのではないでしょうか。

水野 その通りです。SNSが普及したことで、中小企業でも、良い商品を作っていれば、消費者が発見し、ヒットする可能性が高まっています。そのとき、デザインは商品が多くの人に伝播することをサポートします。

 私が手掛けた例では、久原本家(福岡県糟屋郡久山)のだしブランド「茅乃舎」があります。主に通販で展開していたブランドでしたが、現在は店舗の売り上げも好調です。

 ロゴやパッケージなどをクライアント社内のデザインチームと共同で開発しています。ここ数年、SNSを通じて認知が拡大し、店舗に行列ができるまでになりました。




平成のデザイン

【平成25年(2013年)】
久原本家 茅乃舎
久原本家のだしブランド「茅乃舎」のショッピングバッグ。シンプルな円形のロゴマークの他、商品パッケージなどをデザインし、ブランド力を高めている。

【平成30年(2018年)】
相鉄グループ 車両20000系
「デザインブランドアッププロジェクト」から生まれた新型車両第1号。車体のカラーは「ヨコハマネイビーブルー」。プロジェクトを立ち上げた2015年以降、相鉄グループの売り上げ拡大に貢献している。

【平成30年(2018年)】
テスラ ロードスター
最高400km/h以上を誇る電気自動車。モーターやバッテリーを冷却するための小さなグリルはあるが、すっきりとしたフロントデザインに特徴がある。18年に欧州で発表され、20年の発売を予定している。