平成という時代が幕を閉じる。プロダクト、グラフィック、デジタルなどさまざまな分野のデザイナー10人の目を通し、この30年間をデザインの視点で振り返る特集。第5回はWOWの高橋裕士氏。デジタルが異分野を融合させ、ビジネスチャンスが拡大する。それが平成という時代だったという。
WOW inc. 代表
──マックやウィンドウズ、インターネットやスマートフォンの登場など平成はIT化が大きく進みました。今は多くの人が普通にネットを使っていますが、高橋さんがWOWを立ち上げた頃は、ITの面ではどんな時代でしたか。デジタル化の動きがWOWの成長にどんな影響を与えましたか。
高橋裕士氏(以下、高橋) 1997年に仙台でWOWを立ち上げましたが、ちょうどあの頃はテープメディアからデジタルメディアに変わりつつある時期でした。映像がメインでしたが、地方で仕事をしていると、何でも1人でやらないといけません。撮影も録音、編集作業も何もかも。それがデジタル化によって、すごく効率的になりました。撮影のテープチェンジが必要なくなり、手間がかかる映像作成もシンプルな構成でできるようになって納品も早くなった。デジタル化の恩恵を一番受けたのは、地方にいたクリエイターだったかもしれません。
──デジタル化で音声や映像の編集も1人でできるようになったと。
高橋 もちろん限界はあります。1人で撮影し、編集、ナレーションまでやるとなると完成度は低い。2000年に東京に出てきたとき、それに気づかされました。でも大事なのは気持ちです。後は感性、センスをどう磨くか。むしろテクノロジーを感じさせず、隠すようにしています。
07年にロンドンにもオフィスを構えて活動の場を広げていますが、現地で感じたのは思想の深さですね。先端テクノロジーによる表現も、思想や哲学がないと認められない。その部分は僕らも似ています。勉強になりますから最先端テクノロジーは一通り押さえていますが、それを売りにはしていません。
我々の作品はよく「フューチャリスティックだ」「ポエトリーだ」と言われます。実際に我々も普遍的で手作り的な映像のつくり方、あるいは古くならないことをテーマとしています。車のプロモーション映像であっても、10年後や20年後に見ても、「懐かしいね」とは言われないようにしています。「格好いいね」と言われるものをつくっているつもりです。
──AR(拡張現実)やVR(仮想現実)なども注目されていますが、高橋さんはどんなテクノロジーに期待していますか。
高橋 3Dプリントですね。データさえあれば、壊れてしまったコップでもすぐによみがえらせることができます。好きなキャラクターのデータをダウンロードすればすぐに自分のものにできる。みんなが3Dプリンターを持つような時代になったら、また別の新しいビジネスチャンスが生まれるかもしれないと思っています。
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