ひとりが不正を働くと、市場全体がどんどん汚れる。不正を見逃さないためには透明性の確保が第一だ。アプリ市場においても、プライバシーに関するリスクを透明化する動きが進んでいる。

(写真/Shutterstock)
(写真/Shutterstock)

 かつて「プールでおしっこをするやつを許してはいけない」と言った証券マンがいた。もちろん比喩表現だ。プールは資本市場、おしっこは証券取引上の不正を意味している。自分ひとりぐらい不正をしても大丈夫だろう、という人を見逃していると、プールすなわち資本市場がどんどん汚れて誰も寄り付かなくなる。よって、取引の場で悪さをしようとするやつは許してはならない、という趣旨だ。

 不正を見逃さないためにどのような手立てを講ずるかといえば、透明性の確保、すなわち正直であることが第一にある。金融商品にまつわるリスクを取引先に正直に伝えて、正しい判断ができる状態を整えるのが王道だ。

 証券マンが言う「プールでおしっこ」をもう少し上品に言うと、レモン市場の話になる(i)。「レモン」は米国における低品質の中古車の俗語だ。レモンは皮が厚くて外見から中身の見分けがつかないことに由来する。商品の質が低いことは、売り手には自明でも、買い手はすぐには分からない。このような売り手と買い手の情報の非対称性を野放しにしていると、不良品の流通が増える。不良品が多いことが知られると買い手は安く買おうとするため、結果、市場が不良品ばかりになるというわけだ。経済学者のジョージ・アカロフが1970年に用いた。

 金融商品や中古車に限らず、リスクが分かりにくい商品やサービスは少なからず存在する。スマートフォンアプリもその一つだろう。プライバシーに関するリスクについては、アプリ提供者と一般ユーザーの間に情報の非対称性がある。また、プライバシーに関するリスクは、金融商品の価値下落や、中古車のエンジンがかからないといったものと異なり、被害が顕在化してもその原因がどこにあるのか、分かりにくいこともやっかいだ。データの出元がスマホアプリとは分からないままに、いつの間にかパーソナルデータが悪人に使われ、被害に遭う。

この記事は会員限定(無料)です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
8
この記事をいいね!する