ソフトバンクのCMの「お父さん犬」は、1週間でCMをつくるという超短スケジュールから生まれた偶然の産物だった。CMの内容を決めないまま、不要な映像が後々生まれることを承知でとにかく先に映像を撮りためるという、ある種「投機的」なプロセスによって制作された。

(写真/Shutterstock)
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 ソフトバンクのCMには犬がいる。白い犬だ。今は「お父さん」役の犬のほか多くの俳優が出演しているが、もともとは犬だけが出演するCMであった。例えば「8匹の犬が河原に集まり、スマホ下取りキャンペーンの噂話をしている」といった構成で、人間の出演者はいなかった。このCMの段階では「お父さん犬」というキャラクターは生まれていなかったが、ここに出演していた白い犬が、お父さん役の原型となった。

 そもそもなぜ、このようなCMになったのか。背景には、リードタイムの短さがあった。サービス告知のためのCMを1週間後に流すという、とんでもなく短納期のスケジュールが孫正義社長(当時)から設定されたのだ。普通に撮影していたら間に合わない。CMプランナーの澤本嘉光氏は当時の様子を次のように振り返る(i)

これはいけないと思って、新たに何度も撮影しないでいい方法ということで、とりあえず、公園に犬を100匹くらい集めて映像を撮りまくった。で、孫さんが何か言ったら、犬の映像にセリフをあてて流したんです、次々と。

 今となってはすっかりおなじみの「白い犬」が登場したきっかけは、極端な短納期を乗り切るための工夫だったのだ。普通ならば、CMで伝える内容が決まらなければ撮影はできない。しかし、出演陣を犬に限ることで、時間がかかる撮影だけを事前に済ませておくことができるようになった。撮影した映像の一部が使われないことがあったとしても、コスト的にも影響が小さかったのではないかと推察される。

 要は、このCMは伝える内容と撮影を切り離し、それにより制作の順番を逆転させることが可能になったのだ。また、撮影のタイミングで多少の無駄が生じることを許容しながら、全体の時間効率を高めた。これは、投機的実行を想起させる。

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